【熱狂!アニメビジネス最前線】(01) “宴”の裏側…結局、誰が儲かっているのか?

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「どっちか見た?」――。昨年以降、職場や家庭でこんな会話をした人も多い筈だ。アニメ映画『君の名は。』(昨年8月公開)と『この世界の片隅に』(同11月公開)は、幅広い世代が映画館に足を運ぶ社会的現象を引き起こした。前者は、国内アニメ映画では宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001年公開)に次ぐ興行収入を記録。後者はSNS等で評価が広まり、単館系作品としては異例の上映館数に繋がっている。両作品のヒットは、アニメ市場において氷山の一角に過ぎない。昨年の国内邦画興行収入ランキングでは、トップ10の11本中、実に7本がアニメ(左表)。テレビでも、『おそ松さん』(テレビ東京系)のような成人女性に支持される深夜アニメ等、人気作品が複数生まれている。アニメ市場の規模は、2015年に1兆8255億円と過去最高を記録した(左表)が、2016年は『君の名は。』効果等でそれを更新し、約2兆円に達した公算。日本は今、第4次アニメブームの真っ只中にあるのだ。1960年代の第1次アニメブームは、『鉄腕アトム』の国民的人気が齎した。1970年代後半~1980年代の第2次では、『宇宙戦艦ヤマト』・『機動戦士ガンダム』が青年のファン層を開拓した。そして、1990年代中盤からの第3次では、『新世紀エヴァンゲリオン』・『ポケットモンスター』・『もののけ姫』・千と千尋の神隠し等、多彩なヒット作が出現した。過去三度に比べて今回は、冒頭の2作品を除けば、ブームという実感が湧き難い。その理由は2つ。『君の名は。』までは複数の深夜アニメが中規模のヒットとなり、その合算で市場が拡大した為、一般には体感し難かったこと。もう1つが海外需要だ。海外における日本のアニメに対する熱気は驚異的だが、国内にいるとそれが実感し難いのだ。

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「えっ、1話3500万円!? 流石に高くないか?」――。昨春、ある子供向けテレビアニメの取引額を知った業界関係者は仰天した。買い手は『ファニメーション』。アニメのパッケージ販売・映画配給の北米大手だ。この時は動画配信やDVDパッケージ販売等の権利の包括契約だったが、前回ブームのピーク期でも1話500万円程度が相場だった。しかも、取引した作品は放送を開始したばかりで、人気は未知数。「ドラゴンボール級に大化けする」との期待で青田買いされたのだ。これはズバ抜けた例だが、海外では日本のアニメの取引額が総じて高騰している。要因は、有料動画配信サービスの競争激化だ。『Amazon.com』は今年1月、アメリカのプライム会員向けに、月額4.99ドルでアニメが見放題になるサービスを開始した。アメリカでは『NETFLIX』や『Hulu』等、動画配信事業者の競争が激化しており、差別化できるコンテンツとして日本のアニメが注目されている。更に激しい競争が起こっているのが中国だ。『愛寄芸』や『騰訊』といった、其々ユーザー数2億人超を抱える動画配信の2大ガリバーを頂点に、複数の事業者がユーザー獲得競争を繰り広げている。売上高以上のコストをかけてコンテンツを買い付ける事業者もあり、日本のアニメが高値で取引されている。今増えているのが、権利を買うだけでなく、アニメ製作に直接食い込もうとする外資の動きだ。日本のアニメの大半は、複数の企業から出資を募り、制作費を確保する“製作委員会方式”を採用している。製作委は、作品の放送や配信等で生じる著作権収入を出資企業に配分すると同時に、各社が得意とする分野で作品を利用してお金を稼ぐことを認める“窓口権”を割り当てるという、2種類の利権配分機能を持つ。『JR東日本』や『ローソン』といった一般企業が出資するのは、後者の利権により、旨みを見い出しているから。例えば、ローソンが近年、広範に出資しているのは、「どの作品が当たるかわからない。予め幅広く出資しておけば、連動キャンペーン等でヒットに肖る機会が増える」(同社広報)という理由からだ。外資もここに目をつけている。

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「これまで約40作に出資した。今後は全額出資でオリジナル映画も作る」――。今年3月16日、『グランドハイアット東京』で行われたパーティー。主催者であるアニメ配信専業『クランチロール』創業者のクン・ガオ氏は、壇上で宣言した。製作委への出資は2014年頃から開始し、2015年10月に『住友商事』と合弁で設資会社を設立してからは、規模を急拡大させている。住友商事放送映画事業部チームリーダーの笹島一樹氏は、「日米協業で、ディズニーのように長期間に亘ってキャラクター利用等でお金を生めるビジネスを作る」と意気込む。中国はもっと大胆だ。前述した騰訊の子会社は、昨年1月に日本の深夜帯で放送開始した『霊剣山』(制作は『スタジオディーン』)シリーズの製作委に出資するが、出資比率は8~9割と異例の高さ。出資額は2億円弱と推定されるが、製作委でイニシアティブを握り、作品が生む利益を最大限に刈り取れることに旨みを見い出したようだ。外資や異業種も入り乱れ、過熱するアニメ市場。だが、制作現場に目を向けると、光景は一変する。「制作上の都合により、放送・配信を延期します」。昨年10月、深夜アニメ『ろんぐらいだぁす!』が、放送序盤の第3話で一旦打ち切られた。この時期は、複数の深夜アニメが放送・配信延期に追い込まれている。複数の業界関係者は、「スタジオが恒常的に抱える人手不足や運転資金不足といった問題が、制作に混乱を齎している」と指摘する。

アニメ市場は過去最高を更新し続けているが、制作業界の成長率は市場全体を大きく下回る(左上表)。その根源にあるのが、製作委やテレビ局が支払う制作費の頭打ちだ。金額は作品によって異なるが、相場は1話当たり1500万~2000万円と、20年前からほぼ変わらない。一方で以前より繊細で滑らかな映像表現が求められ、1話当たりにかかる時間や人手は膨張している。CG等デジタル技術の導入も相俟って、制作コストは上昇の一途だ。活況期にも拘わらず、制作会社の儲けは寧ろ悪化し、4社に1社が赤字に陥っている(左上表)。抑々、アニメ業界は独特な生態系で維持されてきた。業界企業の8割が年商10億円以下の中小零細。同業他社やフリーのアニメーターに工程を外注することで、作品を完成させる。共通のITシステム等は無く、原画・動画の紙の束を“カット袋”と呼ばれる袋に入れて手渡す。セルに色を塗る工程こそデジタル化されたが、基本的には鉄腕アトム時代と同じだ。この極めて労働集約的な生態系が半世紀を超えて維持されているのは、日本人特有の生真面目さの賜物と言えるが、現状では制作現場を疲弊させているのも事実だ。この閉塞感は、アニメーターの雇用環境に如実に表れている。『日本アニメーター・演出協会』によると、業界の平均年収は、新人の多い“動画”で111万円等、総じて低賃金(左上図)。身分も不安定で、正社員は6人に1人。非正社員でも、年間契約は3人に1人しかいない。「週休1日、1日8時間以上仕事をすれば、生活保護くらいの収入は得られる業界になってほしい」「意欲はあるが、心身とも追い詰められ、業務に支障を来す」。同協会の『アニメーション制作者実態調査報告書2015』に寄せられた現場の声には、2兆円の宴を支える過酷過ぎる実態が滲み出る。『日本動画協会人材育成委員会』の増田弘道副委員長は、「制作現場がCGのような技術を導入し、人も育てなければ、産業として早晩立ち行かなくなる」と警告する。アニメの魅力を創出する制作現場が、低い制作費に甘んじる産業構造は半ば限界だ。適正な額の制作費を製作委に求めるか、出資によって販路開拓の権利を得た『ポリゴンピクチュアズ』のように窓口権を掴むか――。市場の熱狂が止む前に活路を探さなければ、日本のアニメ産業は瓦解しかねない。 (取材・文/本誌 杉本りうこ)


キャプチャ  2017年4月1日号掲載




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