【石井聡の「政界ナナメ読み」】(07) 増税の是非よりも大切なこと
外遊中の岸田文雄首相はこの14日、ワシントンでアメリカのジョー・バイデン大統領との首脳会談に臨む。閣僚の“ドミノ辞任”が暮れまで繰り返され、内閣が無事に新年を迎えられるのか危ぶまれる状況もあった。だから、前々回の小欄では「1月訪米に首相は行けるのか」と書いた。危機を脱したか否かは兎も角、訪米にこぎつけた以上、やや悲観的に過ぎる見通しだった点は憚ることなく改めたい。それにしても、内閣支持率は続落し、政策決定を巡り内輪から公然と異論が出る等、首相の求心力が一気に失われてもおかしくない場面があっても、大きなうねりには至らなかった。隙あらばと次を窺う最大派閥の安倍派で、安倍晋三元首相の跡目を争う幹部らは抜きんでる決定力を欠いており、国民世論も来年9月までの自民党総裁任期中は首相の続投を容認するものが多い。それらの“好材料”をみて高を括っているのかどうかはわからないものの、年末にかけて岸田首相の積極性や覚悟を決めた姿勢が垣間見られるようになった。新型コロナウイルスを巡り、中国からの水際措置を強化したのも遅くはなかった。最大の成果は、反撃能力の保有を位置づけた安保3文書だ。安倍元首相は平和安全法制を整え、集団的自衛権の一部行使を可能にした。今回は日本自らの攻撃力を位置付け、日米同盟を更に深化させるものだ。反対派は「日米の一体化だ」と批判するけれど、日米が緊密に協力してあたらなければ、力ずくで現状変更を図ろうとする中国を阻止できない。日本は負けたほうがよいと思っているのか。
3文書の取り纏めと並行して、今後5年間で43兆円に増やす防衛費の財源を巡る騒動があった。その一部を法人税等の増税で賄う方針を岸田首相が打ち出すと、「唐突だ」「経済を冷やす」といった批判が自民党から噴出した。首相は防衛力強化の内容、予算、財源の3つを年末に「一体的に決める」と述べてきたとはいえ、一部閣僚からも異論が出て、きな臭い空気が流れた。結局は増税の骨格が来年度の税制大綱で確認される一方、実施時期は“令和6年以降の適切な時期”に先送りすることで落ち着いたが、この間の政府内外の議論で違和感を覚えた点がある。防衛費を増やし、防衛力を強化せざるを得ない事態とは、有り体に言えば日本が望まなくとも戦争のリスクが高まっていることを意味する。それは、国を守る自衛官、延いては国民の生命に関わる事柄である。財源のありようは引き続き論じるとしても、先ずは国が置かれた状況の深刻さについてこそ国民に説明し、覚悟を求めていかねばなるまい。そうした視点からの議論を、特に増税反対を唱える“保守派”の側に見いだすことは少なかった。構図としては、党内ではハト派の代表格と捉えられる宏池会から出た首相が、安全保障でタカ派路線を邁進している。中曽根康弘内閣で“防衛費1%枠”が見直された時期も、宏池会から防衛庁長官を出していた。単なる歴史の皮肉だろうか。国会でストレートに語るのは難しいが、若いアメリカ兵が流す血のみによって日本が守られるのではない。その認識を両国、就中日本人が持てるかどうかは同盟深化の核心となる。岸田首相には是非、バイデン大統領との間で、その心根を含めた信頼関係を築いてほしい。 (本紙特別記者 石井聡)
2023年1月13日付掲載
3文書の取り纏めと並行して、今後5年間で43兆円に増やす防衛費の財源を巡る騒動があった。その一部を法人税等の増税で賄う方針を岸田首相が打ち出すと、「唐突だ」「経済を冷やす」といった批判が自民党から噴出した。首相は防衛力強化の内容、予算、財源の3つを年末に「一体的に決める」と述べてきたとはいえ、一部閣僚からも異論が出て、きな臭い空気が流れた。結局は増税の骨格が来年度の税制大綱で確認される一方、実施時期は“令和6年以降の適切な時期”に先送りすることで落ち着いたが、この間の政府内外の議論で違和感を覚えた点がある。防衛費を増やし、防衛力を強化せざるを得ない事態とは、有り体に言えば日本が望まなくとも戦争のリスクが高まっていることを意味する。それは、国を守る自衛官、延いては国民の生命に関わる事柄である。財源のありようは引き続き論じるとしても、先ずは国が置かれた状況の深刻さについてこそ国民に説明し、覚悟を求めていかねばなるまい。そうした視点からの議論を、特に増税反対を唱える“保守派”の側に見いだすことは少なかった。構図としては、党内ではハト派の代表格と捉えられる宏池会から出た首相が、安全保障でタカ派路線を邁進している。中曽根康弘内閣で“防衛費1%枠”が見直された時期も、宏池会から防衛庁長官を出していた。単なる歴史の皮肉だろうか。国会でストレートに語るのは難しいが、若いアメリカ兵が流す血のみによって日本が守られるのではない。その認識を両国、就中日本人が持てるかどうかは同盟深化の核心となる。岸田首相には是非、バイデン大統領との間で、その心根を含めた信頼関係を築いてほしい。 (本紙特別記者 石井聡)

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