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【村西とおるの「全裸で出直せ!」】(185) 親に義務教育を受けさせてもらうことができれば、後の3食足りて寝る…は自己責任

文字と言葉は人間の命と言います。私がエロ事師として曲がりなりにも世に出ることができたのは、そうした言葉を武器として生きてこられたからでした。セックスは納豆や梅干しを食するのと同じで、誰にでもできる、やれること。それを商売にできたのは、“村西節”と言われる独特の言葉を紡いで、エロスのシーンを彩り撮ることができたからでした。若し肉交をただ撮るだけであったなら、今日の私はなかったに違いありません。そんな“言葉”に恩を感じている身ですが、この“文字を学ぶ”ことでつらい思い出があります。あれは小学校高学年の時でした。新聞に窃盗で逮捕された容疑者の顔写真が載っていて、人権意識が発達した今日ではあり得ないことですが、“前科4犯”と本人の前歴が記されていたのです。当時の私は、この“前科”の意味が理解できず、父親に「前科4犯ってどういう意味?」と尋ねました。すると父親は一瞥して、「こんな野郎は人間じゃねぇよ」と吐き捨てたのです。すると、傍らにいた母親が「どれ、どれが前科なの?」と新聞を覗き込んできました。そして、「その“前科”ってどこに書いてあるんだい?」と私に聞いてきたのです。「ここだよ」と指で文字を差すと、「これが“前科”という字なんだね」と感心したように、その“前科”の文字を見つめました。

この時、私はハッとして“母親は漢字が読めない”ことに気付いたのです。が、幼かった上にアホだった私は、「母ちゃんはこんな簡単な漢字が読めないんだね」と嘲るように言い放ったのです。すると母親は少し恥ずかしそうな、悲しそうな顔になりました。それまで一度も見せたことのない、切なげな表情でした。その姿を見て私は、バカはバカなりに、母親に対して酷いことを言ってしまったことに気付きましたが、父親は何も言わずに苦虫を噛み潰したような顔をしたままです。気まずい雰囲気が流れました。母親はいたたまれなくなったようにその場を立ち去ると、暫く外に出たまま帰ってきませんでした。母親は実父が6歳の時に死んだ後、未だ若かった実母が他の男に嫁ぎ、一人ぼっちになりました。8歳で親戚の家に里子に出され、極貧の故に小学校に通うこともままならず、子守りをしながら『おしん』の世界を生きたことを、私は大人になってから知ったのです。そうした母親の境遇も知らずに、何と罰当たりなことを言ったのだと、あの時の“前科者の新聞記事”の場面を思い出す度に涙が流れ出ます。母親の口癖は「人殺し以外のことは何でもやって子供を育てろ」でした。たとえ内臓を売ってでも、と泥だらけになりながら授かった子供を大学に入学させることができたことは、天国の母親にささやかに誇れることです。


村西とおる(むらにし・とおる) AV監督。本名は草野博美。1948年、福島県生まれ。高校卒業後に上京し、水商売や英会話教材のセールスマン等を経て裏本の制作・販売を展開。1984年からAV監督に転身。これまで3000本の作品を世に送り出し、“昭和最後のエロ事師”を自任。著書に『村西とおるの閻魔帳 “人生は喜ばせごっこ”でございます。』(コスモの本)・『村西とおる監督の“大人の相談室”』(サプライズBOOK)等。


キャプチャ  2023年2月9日号掲載
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