【霞が関2017春】(07) 解雇の金銭解決、経済界も及び腰

ある人が解雇されたことを不満に思い、裁判をしたとする。裁判所の判断は、その解雇は“不当”。勝訴だから復職の道が開ける訳だが、「もう別の人生を歩もう」と考える人もいるだろう。この時に、企業からお金を貰ってこの争いを終える仕組みがある。『解雇の金銭解決制度』と呼ばれるこの制度。厚生労働省の検討会で導入を巡る議論が進んでいるが、着地点が見えないまま漂流している。この制度は本来、企業と従業員の間で解雇を巡るルールをきちんと定めるものだ。一般的には経済界が旗振り役とされる。一方で、『連合』等労働側は、「企業はお金さえ払えば解雇できると考える」と見て、強硬に反対する。ところが、実は経済界でも慎重意見が多く、足並みは揃っていない。記者会見等でもトップがあまり語らないこの話題について、各団体の本音はどうなのか。「導入賛成」と明言するのは、企業の経営者らで作る『経済同友会』。ある意味、制度のメリットの代弁者だ。「解決金の支払いにより、労働者が次の仕事を探し易くなれば、成長産業への労働力のシフト等、労働市場の流動化も促せる」と主張する。加えて、中小企業では殆どお金を得られずに突然、解雇されるケースも多い。同友会幹部は、「労働者の泣き寝入りも防げる」と語る。その解決金に懸念を示すのが、中小企業で作る『日本商工会議所』だ。厚労省の検討会では、金銭解決に合わせて、解決金を幾ら払うべきかの議論もしている。ただ、経営基盤が弱い中小企業にとって、「解決金の基準が高額になれば、経営への悪影響を考えざるを得ない」(日商幹部)。

東京都内の中小企業社長からは、「人手不足が深刻で、雇用の流動化よりも、今の社員を守る方が先」との声も漏れる。日商の三村明夫会頭は過去の記者会見で、「労働者の希望があれば、金銭の支払いで解決するのは合理的な結論だと思う」との見解を示しているが、積極的賛成という訳ではない。それなら「中小企業を適用除外にすればいい」という声もあるが、それで足並みが揃う訳ではなさそう。それは、経済界の総本山である『日本経団連』も、「導入には慎重」という姿勢だからだ。労使間の労働紛争の解決手段は、現状では斡旋・労働審判・裁判がある。しかし、裁判で不当とされた解雇は年間約200件(2013年)しかない。経団連幹部は、「解決金制度を入れても雇用の流動化が進むと思えない」とみる。一方で、日商とは違い、解決金の基準作りには賛成する。金銭解決制度が無い現状でも、実際は労働紛争の大半が金銭で解決しており、「水準ができれば、企業が経営上の予測を立て易くなる」との考えだ。これまで経済3団体は、原発再稼働や法人実効税率の引き下げ等、本気で実現したい政策については結束して対応してきた。だが今回は、応援団な筈の経済界の姿勢がバラバラで、擦り合わせようという動きも鈍い。厚労省幹部は、「エンジン役が不在で推進力が出ない」とぼやく。フランスは昨年、業績が悪化した企業の解雇規制を緩める法律を制定。成長産業への労働移動を促し、景気浮揚に繋げる姿勢を鮮明にした。金銭解決の導入だけが全てではないが、低成長に悩む日本も、「正社員の解雇規制が厳しい」と言われる労働市場の改革は不可欠。それは間違いない筈なのだが、経済界から危機感は感じられない。 (中島裕介)


⦿日本経済新聞電子版 2017年4月18日付掲載⦿
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