人手不足で国防衰退、予備自衛官の恐るべき現実――機能不全に“税金泥棒”の声も、最終手段“第2自衛隊”構想

東日本大震災から先月で6年が過ぎ、今月には熊本地震から1年を迎える。未曽有の自然災害で、数多の自衛官が昼夜を問わず人命救助や復旧作業に従事していた姿は、今も私たちの脳裏に鮮明に焼き付く。だが、この一群の中で“予備自衛官”と呼ばれる人々が奮闘していた事実は、あまり意識されていない。大規模な災害や有事で臨時に招集されるのだが、その充足率は定員の7割にも満たず、稼働率も極めて低い二重苦に陥っている。自衛隊を辞めても予備自衛官に志願しないばかりか、登録しても、勤務する会社への遠慮から、“名ばかり予備自衛官”にならざるを得ないからだ。自衛官の人手不足に加え、予備自衛官の空洞化が加速すれば、日本の国防が衰退する重大な危機は避けられない。

20170419 08
「人は城、人は石垣」――。人材の大切さを説いた戦国武将・武田信玄の名言は、古今東西変わらない。予備自衛官制度の歴史は、自衛隊が産声を上げた1954年に遡る。常備自衛官の人数を抑え、必要な時だけ増員する人材の効率化が狙いで、第一線の自衛官OBが対象だ。有事の際、後方地域の警備や任務に就く。自衛官のマンパワー不足から、1997年には第一線の部隊で任務に就く即応予備自衛官を創設した。こちらも自衛官OBが要件だ。そして2001年には、調理や語学等独自の技能を持った市民を対象とする予備自衛官補の制度を新設した。予備とは、「必要な時の為に、前以て用意しておくこと」。いざとなれば予備自衛官らも国家・国民の為に身を擲つのかと思いきや、その狙いとは程遠いのが実情なのだ。「私は避難所で衛生管理をしました。いつこういうことが起きるかわからないので、部隊の訓練に参加して体力を付けて、日々備えていきたいと思います」。陸上自衛隊のホームページには、熊本地震で出動した自衛官OBの予備自衛官のインタビュー映像がアップロードされている。こう決意を語るのは、地元で今は農業を営む男性。きっと国民は予備自衛官と聞いて、こんな人物像をイメージするだろう。だが、男性の話は“模範回答”。理想と現実は異なり、万事上手く予定調和のようにはいかない。3歳の息子がいるという女性は、「家族が『息子のことは心配しなくていいから行ってこい』と背中を押してくれました」と当時を振り返り、言葉を繋ぐ。「私の勤める会社はシフト制で、人員の余裕は無いけれど、直属の上司や同僚が心から『頑張って』『怪我しないで』と送り出してくれました。いい人たちに恵まれた会社に所属できているから、私は参加できました」。自衛隊熊本地方協力本部の担当者は、「(予備自衛官らを)雇用している企業から『当たり前のこと』『再度協力する』と言ってもらい、物凄く心強く、会社の復旧よりも派遣を優先してくれた企業もありました。この関係をより強固にしていきたいです」と力説した。

実は、この官製インタビューの裏側から、予備自衛官制度の内包する問題点が透けて見える。それは、「予備自衛官の誰もが自由自在・機動的に出動できる訳ではなく、現実の生活に大きく制約されている」という宿痾に他ならない。予備自衛官に初めて招集命令が出されたのは東日本大震災。この国家の危機に際し、防衛省は予備自衛官の内、2万6372人に事前調査したところ、「出動可能」と回答した者は4497人と僅か17.1%だけ。しかも、実際に出動したのは103人と全体の0.4%だった。即応予備自衛官こそ、2163人に招集を打診して、この内の1369人が出動した。それでも、比率にすれば63.2%に過ぎない。熊本地震に至っては、地元の陸上自衛隊第8師団に所属する即応予備自衛官450人に招集を打診したものの、応諾は165人。その率は36.7%、3人に1人強という無様な数字だった。一体何故、これほど大きなギャップが生じるのだろうか? 先ず抑々、予備自衛官が想定される必要な数から大きく懸け離れているからだ。予備自衛官の定員は昨年3月末現在、4万7900人(陸自4万6000人・海自1100人・空自800人)だが、実際の現員は3万2554人と充足率は68.0%。定員は変わっていないが、現員は2001年の4万1945人から右肩下がりが続く。即応予備自衛官は、定員8075人に対し、現員は4513人。充足率55.9%で、こちらの現員も2004年の6335人をピークとして、減少に歯止めがかからない。その理由は、前述した陸自ホームページでの意気揚々とした男性のインタビューとは裏腹に、予備自衛官等に登録したところで殆どプラスが無いどころか、寧ろ現在の仕事や生活にマイナスを及ぼしかねない強い懸念が働いている為である。予備自衛官の場合、何もしなくても月に4000円の手当が支給され、訓練招集の日当は8100円。不景気のご時世にあって、月に4000円でもありがたいと羨む向きもあろうが、年間5日間の訓練が義務付けられている。予備自衛官の平均年齢は47歳で、20代~40歳代が47%ほどと半分近い。当然のことながら、この人たちの大半が、自衛官を辞めた後も何らかの仕事に従事しており、運輸業・製造業・建設会社等会社勤めが多数を占めている。予備自衛官と即応予備自衛官の両方を雇用する法人は、日本全国で約400あり、予備自衛官だけ雇っている法人は1万6000余り。即応予備自衛官のみの雇用も、凡そ2000にも達する。前述した農業の男性のような自営業は少数派だ。しかも、予備自衛官を雇用している会社への給付金はゼロである。即応予備自衛官のケースは、平時の手当が月に1万6000円、訓練招集の日当は1万400~1万4200円と比較的手厚い。更に、即応予備自衛官を雇っている企業に対しては、1人当たり毎月4万2500円の給付金が支給されている。ところが、この即応予備自衛官は、年間30日間もの訓練に必ず参加しなければならないのだ。予備自衛官にせよ即応予備自衛官にせよ、いくら政府が崇高な任務をアピールしたところで、1年に5日間、況してや30日間の訓練に後顧の憂いなく参加できる人は、そう沢山はいまい。予備自衛官に志願しなかった東北地方の陸自OBは、「災害や有事で国民を助ける為でも、就職した会社への迷惑を考えると、初めから予備自衛官に応募する気になれなかった。登録して出動しない名ばかり予備自衛官にはなりたくなかったので…」と漏らす。予備自衛官や即応予備自衛官に登録した後、災害や有事ですんなりと出動できない多くの元自衛官も、同じ悩みを抱える。熊本地震で招集を打診されて断った男性は、「会社の再建に悪戦苦闘する社長の姿や、自分の仕事を肩代わりしなければならない同僚のことを思うと、とても『予備自衛官だから救助活動へ向かいたい』と切り出せなかった」と打ち明けた。

20170419 09
名ばかり予備自衛官への自己嫌悪と、勤め先への遠慮。そんな苦悶の一方で、手厳しい意見も絶えない。それは、予備自衛官制度が機能不全に陥っているにも拘わらず、この制度に注がれる国家予算が年間70億円超にも上っているからだ。政府内では、「訓練招集の日当を貰っているだけで、東日本大震災等で現場に出向かない者も多い。会社の事情もあろうが、これでは“税金泥棒”と批判されても仕方ない」(財務省関係者)と切り捨てる声も根強いのだ。どちらにせよ、確実に言えることがある。それは、「この予備自衛官制度が最早、崩壊の危機に瀕している」という厳然たる事実だ。防衛省は、崩壊寸前の予備自衛官制度を巡り、内部で試算を弾き出している。それは、従来の推移から導き出した数字であり、「今から10年後の2027年度末には、予備自衛官の現員が2万9100人(充足率60.8%)、即応予備自衛官は2600人(同32.2%)まで激減する」というものだ。「このまま手を拱いていては、人材の面から国防に大きな穴が開く」と危惧する防衛省は、新たな方策の検討に乗り出した。予備自衛官らを雇用している企業に対して、税制上の優遇措置を講じる案が有力視された。昨年末には、災害や有事で予備自衛官らが出動する事態に備え、予備自衛官らを2人以上増やすことを条件として、1人当たり40万円を控除対象とする税制改正を要望している。しかし、霞が関の力関係で遥かに勝る財務省との駆け引きの果てに、「雇用を増やせない企業にメリットが無い」として頓挫。引き続いて、税控除の対象となる招集準備金制度を創設し、出動した際の損失の一部をこれで補う方法を模索している。しかしながら、「焼け石に水だ」と防衛省OBは突き放して解説する。「損失の一部を税制優遇で補ったところで、あまり予備自衛官らの出動は増えまい。金目の話も然ることながら、それ以上に深刻なのは人手不足なのだから」。これは最早、防衛省の政策でカバーできる域を超える話なのだ。

そして、何よりも見逃せないのが、大元の自衛隊を襲うマンパワー不足の現状である。“曹”より下位に位置する“士”、所謂一兵卒の定員5万6637人に対して、現員4万2472人と充足率は75.0%に留まる。幹部自衛官らを合わせても、自衛隊全体の充足率は漸く92.0%。自衛隊の定員は24万7154人だが、実際には22万7339人。この乖離が年を追う毎に広がっていくのは間違いない。そこへ持ってきて、予備自衛官らに登録する者が減り続け、更に出動する人間の割合がどんどん下降していく。どんなに防衛予算を増やそうとも、装備を増強しようとも、最後の砦は“人”。肝心の人間が足りなければ、災害対処も有事対応も成り立たない。自衛官と予備自衛官の数は減少の一途を辿り、このままではジリ貧だ。「難解な方程式を解く鍵は1つしかない」と、防衛大臣経験者は説く。その論によれば、「予備自衛官らにしても、少子高齢化の波に抗えない。それどころか、日本最大の組織である自衛隊の未来像は、この社会の波を乗り切るモデルケースになり得る筈だ。精強さが求められ、若年退職制で50代までに辞める自衛隊員であっても、警備・食糧補給・後方支援で自衛官時代に培ったスキルがそのまま役立つ即戦力だ。しかも、後方支援ならまだまだ存分に働くことができる。それなのに、民間企業に再就職するのは“宝の持ち腐れ”ではないか。かといって、現在の予備自衛官制度は破綻に近い。となれば、“宝”を生かす為にできることは何か。それは、“第2自衛隊”を創設することしかない」。それより、「退職の時期を延ばせば」との声も聞こえてきそうだが、この防衛大臣経験者は「一括して定年を延長すると組織が歪みかねない。退職する自衛官の中でも、能力とやる気のある人物を選抜して組織するのが第2自衛隊のイメージだ」と持論を展開した。例えば、交番で最近よく見かける交番相談員。あの制服姿の人たちは警察官OBで、身分は地方公務員特別職嘱託員である。しかし、自衛隊は未だこうした制度を導入していない。この交番相談員が先行例になるという。最大のネックは、桁違いに膨らむ人件費だ。だが、防衛装備品は100億円単位のものも少なくない。装備だけ立派でも、人材が伴わなければ張り子の虎・お飾りと化してしまう。一気に大規模な第2自衛隊を創設することは難しいかもしれない。だが、最初は小さくても構わない。試行錯誤しながら拡充を模索すべきだ。いざ災害や有事に及んで、確実に出動できる予備自衛官の新たな組織を検討する時期に来ているのではないか。自衛隊の最高指揮官である安倍晋三首相は2014年夏、予備自衛官制度の発足から60年を記念してメッセージを寄せている。「予備自衛官制度は【中略】我が国の平和と独立、国民の安全・安心の確保に大きな役割を果たしてきました。我が国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しています。我が国の平和は、我々自身で築き上げるほかに道はありません。予備自衛官の諸官の一層のご活躍と、予備自衛官制度の充実・発展を祈念いたします」。人は城、人は石垣――。その“人”が命綱の予備自衛官制度は、とても発展どころの話ではない。首相の叱咤激励とは裏腹に、崩壊の近未来が刻々と迫っているのだ。


キャプチャ  2017年4月号掲載




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