【フランス大統領選・欧州の選択】(下) イスラムと共存、募る疑念

20170420 06
パリを一望する高層マンションで、医師のジャック・メゾヌーブさん(65)はパソコンに向かい、原稿を書いていた。投稿先は、政治情報サイト『ライシテ(政教分離)の反撃』。『ベールに隠された保育士の実態』と題し、パリでイスラム教徒の保育士が密かに園児にお祈りを強制する実態を取材し、暴露した。このサイトは10年前、ライシテの徹底を掲げて開設され、25人のボランティアらで運営する。モスク(イスラム教の礼拝所)に入り切らない信者が道路を占拠し、お祈りする写真を掲載する等、イスラム教徒への嫌悪感に満ちている。閲覧数は1日約4万で、政治情報サイトの上位8位。大統領選が近付き、極右政党『国民戦線(FN)』のマリーヌ・ル・ペン党首(48)の登場が増える。人道的な難民受け入れを主張する無所属のエマニュエル・マクロン前経済大臣(39)には、「イスラム教徒を歓迎する政治家。排除しろ」と批判の矛先を向ける。メゾヌーブさんは約30年前、国際NGO『国境なき医師団』からアフガニスタンに派遣された。出産間際の妊婦を診察しようとすると、イスラム教徒の男たちが銃を向け、「女に触るな」と威嚇した。

妊婦とお腹の赤ちゃんは目の前で死んだ。メゾヌーブさんは、「イスラム教徒の真の姿を知らせたい。イスラム法が絶対で、女性を蔑視する彼らの価値観を排除しないと、フランスは危険」と話す。移民が持ち込む弊害への警戒感は、経済でも広がる。民間調査会社『イプソス』の調査(2010年7月)によると、41%が移民に仕事を奪われる不安を感じている。『ヨーロッパ連合(EU)』離脱を決めたイギリスの38%や、シリア等からの難民・移民が急増したドイツの28%より高かった。ただ、「移民が就ける職業は限られており、フランス人の雇用を奪うのは難しい」(『ル・モンド』)のが実態で、「過剰反応が蔓延している」とも言われる。フランスは、第2次世界大戦後の復興や経済成長に必要な労働力として、植民地だった北アフリカ等からイスラム教徒の移民を積極的に受け入れた。イスラム教徒の人口は現在、8%近くを占める。公的分野で宗教色を排除するフランス社会に溶け込めないイスラム教徒が増えるにつれ、「“自由・平等・博愛”というフランスの価値観や政教分離が脅かされる」と不安に思う人たちは、これまでもいた。近年の危機は、「以前は移民に寛容だった人々までもが、『イスラム教徒と共存できるのか?』という疑念を深めたことだ」と、『フランス国際関係戦略研究所』のジャンイブ・カミュ研究員は指摘する。イスラム教徒に対する世論の風向きの変化を捉え、「フランスをフランス人の手に取り戻そう」とルペン党首は訴える。だが、EUに背を向け、移民を拒む愛国的な響きもまた、多様性や開かれた市民社会を尊重するフランスが、連綿と守ってきた価値観と相容れない。これまで広く受け入れられることのなかった危うい主張が、大統領選を前に力を得ている。

               ◇

三好益史・作田総輝が担当しました。


⦿読売新聞 2017年4月13日付掲載⦿
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