【大機小機】 働き方改革のパラドックス

5年目を迎えたアベノミクスにとって、“働き方改革”は久々のヒット作となった。安倍晋三首相自らが、残業時間の上限規制で『日本経団連』会長と『連合』会長の合意を仕切り、同一労働同一賃金の実現を主導した。左派的な政策で得点を稼がれた労働組合や民進党にとっては、歯痒い展開だろう。『電通』事件で動いた世論は、日本の価値観を変えた。空気のように当たり前だった長時間労働が悪と見做され、首相や経済界首脳が金曜日に早帰りして美術館や旅行へと出かけ、範を垂れる。画期的な光景だ。働き過ぎの是正を否定する人は先ずいない。無駄な残業を止めて効率よく働き、十分な休息や余暇を取る。正しい方向だが、正義と化した残業抑制が、大企業を中心に瞬く間に浸透する“横並びの大波”は、如何にも日本らしい。そこに働き方改革のパラドックスが潜む。本来は働く環境の改善が生産性の向上を生み、経済をより良くする効果が期待される。だが、並みいる企業が“右へ倣え”で一斉に脱残業を進めるだけでは、“合成の誤謬”が生じる。最近の『日経ビジネス』の調査では、働き方改革を実施した企業で、「消費したくなくなった」人の割合が「もっと消費したくなった」を大きく上回った。残業代が減った働き手は、先ず消費を手控え、積み重ねは景気にとって逆風になる。企業収益の好転と裏腹に、個人消費の停滞が続く日本経済にとっては皮肉な構図だ。働き方改革に足を踏み入れた以上、もう後戻りはできない。真の意味で生産性を向上し、労働の参加率を高める取り組みが直ちに伴わないと、雇用慣行の転換も日本経済の再生も虻蜂取らずになる。短時間で効率よく働いた人に報いる賃金体系を、企業は確立できるのか。正規と非正規の壁を取り払い、成長が見込める分野に人材が柔軟に移動できる労働市場を、政府は整えられるのか――。其々の宿題は多い。2年も塩漬け状態が続く“脱時間給”導入の労働基準法改正案は、今国会でも審議はお預けのようだ。柔軟な働き方を目指す改革は、残業規制とは別物なのに、野党の反発を恐れて前に進めない。生産性を高める成長の視点が、“働き方改革”の熱気の中で伝わってこないのが気がかりだ。 (仙境)


⦿日本経済新聞 2017年4月15日付掲載⦿
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