【ヘンな食べ物】(34) 上海人もビックリのゲテモノ喰い

巨大ムカデの唐揚げ・カエルの裸煮・豚の脳味噌炒め・牛の筋とペニス・臭豆腐・蛇肉の唐揚げ…。写真付きのメニューを見るだけで頭がくらくらする。ここは一体、現代日本なのか? 新宿区歌舞伎町の狭い路地奥にある『上海小吃』。店内の表示は中国語のみ、年齢不詳なチャイナドレスの美人店長が上海語でスタッフに何か捲し立てている。異世界にトリップしてしまったみたいだ。実はこの店、以前何度か来たことがあったが、珍味類を異常なほど充実させていることを最近知り、担当編集者のY氏と訪ねてみたのだ。「こういう料理、どんなお客さんが食べるんです?」。気を取り直して店長に訊くと、「ムカデとペニスは、女ほしい人、食べるよ!」と直球の答え。「ホストなんかもよく来て食べるね」。精力増進や滋養強壮に効くという。「上海では皆、普通に食べているよ」というから驚きである。何を注文したらいいか迷っていると、店長が「虫の盛り合わせ、作ってあげるよ」。そんな盛り合わせは初耳だが、ありがたい。ただ、「調理の様子を見たい」と言うと、厨房は取材不可だという。「せめて調理する前の状態が見たい」と駄々をこねたら、「社長に訊いてみる」とのこと。どうも難しいらしい。取り敢えず、それは諦め、他にも牛のペニスや蛇の唐揚げ等、これぞと思うものを一般客として注文。暫くして、虫の盛り合わせが登場した。

「うわっ!」。私たちは思わず、声にならない声をもらした。バッタ・セミの幼虫・巨大ムカデ・タランチュラ・サソリ。気持ち悪いなんてもんじゃない。「これ喰うのか…」。30年くらい世界各地で様々なゲテモノ類を食べてきた私だが、食卓に出されてこんなにたじろいだことはなかった。どうしてだろう? 日本だからなのか、綺麗な白い皿に盛られているせいなのか。幼虫やムカデのテラテラ脂ぎったツヤ、タランチュラの繊毛の生えた足や、バッタの羽根のリアルな質感が半端じゃないのだ。物凄く気が進まなかったが、出されたものは絶対に食べるのが私の流儀。先ず、ハードルの低そうなバッタから。口に入れるとボソボソして、でもぐちゃぐちゃと湿った感じもあり、まさにバッタの死骸という印象。味付けは大変薄い。でも、まぁこんなものだろうか。「中華には珍しく、素材感がありますね」と、顔を顰めながら食べているYさんに言った。続いてセミの幼虫。こちらは外は殻が固いビニールのようで、中は白くてぐじゅぐじゅしており、タンパク質が生々しい。Yさんは泣きそうな顔をして、いつまでも口の中でくちゃくちゃ噛んでいる。飲み込めないようだ。しかし、と首を捻る。どう考えても味が薄過ぎる。塩か唐辛子が足りないんじゃないか。隣室にいる店長にそう言うと、彼女は大声を上げた。「それ、料理してないよ!」「えっ、じゃあこれ生?!」「そうよ、見たらわかるでしょ! そんなの食べたら死んじゃうよ!!」。何てこった。生々しいとか素材感があるも何も、生の素材だったのだ。上海人もびっくりだろう。考えてみれば、私たちが「調理前の状態を見たい」と頼んでいたのに、すっかり忘れていた。Yさんが「ウエ~」と言いながら、口のものを小皿に吐き出した。呆然としている私たちを見て、店長が大笑いした。「あんたたち、今日は歌舞伎町から帰れないね!!」。生虫、滋養強壮に効き過ぎるのだろうか…。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年4月20日号掲載
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