【変見自在】 商売人スノーデン

映画館ではいつも最前列に座る。目の前に座高の高い人が座ると、もう映画どころではなくなるからだ。加えて、空いている。気楽に映画を鑑賞できる。で、先日はオリバー・ストーンの『スノーデン』(ショウゲート)を観に行った。結構空いていたのに、我が最前列に2人も座っていて鼻白んだが、映画のほうも似たようなものだった。『アメリカ国家安全保障局(NSA)』で働く主人公が国家機密文書を盗み出し、イギリスの新聞『ガーディアン』等にリークした顚末をドキュメンタリー風に纏めている。機密情報には、日独仏等35ヵ国の首脳の電話を盗聴していたとかもあった。あれだけスパイ衛星を巡らせ、『U2』も飛び、『エシュロン』とか通信傍受システムも彼方此方に置いているのだから、それくらいの成果はあるだろう。対抗する支那がハッカー 数万人を抱えるというのもわかる気がする。それより、盗聴対象の35ヵ国が何れも“非英語圏”というほうが引っかかった。そんな映画を、朝日新聞の元論説主幹・大野博人が『“安全のため”奪われる自由』のタイトルで、いとも恐ろし気に書いていた。スノーデンが国を裏切るきっかけは、彼の「恋人が他の男と付き合っているのを上司から知らされた」ことだった。「アメリカ政府が自国民さえも監視している、丸裸にされている。それが許せない」となるのだが、大野はそういう政府の監視を、「米国憲法に対するクーデター」と見做す。許せない悪業だ。その上で、「政治権力の監視活動はどこまでも暴走する」ものだと普遍化していく。そこまで読んで、彼の意図がやっとわかった。安倍政権のテロ対策法とかが、実は「自国民監視という政治権力の暴走」なのだと言いたいらしい。

でも、それはどうか。“自国民を裸にして監視している”のはアメリカだ。あの国は黒人奴隷で国を築いた。ホワイトハウスも奴隷に作らせた。黒人が生意気言えば木に吊るして耳を削ぎ、顔の皮を剥ぎ、タールをかけて焼き殺した。そのリンチの煙は、1950年まで毎週どこかで立ち上っていた。アメリカ人はまた、自らを“現代のイスラエルびと”と称して、カナンの地に入ったモーゼのように振る舞った。先住民に遭遇すれば、「男は子供でも殺せ。男を知った女も殺せ。男を知らない処女は神の贈り物だ。喜んで犯すがよい」(民数記)を実行した。いや、ユダヤ人よりもっと残忍だったかもしれない。「妊婦の腹を裂き、女の性器を挟って、それを鞍頭に飾って凱旋した」とサンド・クリークの記録にある。血塗れで創った国は、だから常に報復の恐怖がついて回った。合衆国憲法修正第2条は、その報復から身を守る為に銃の所持を認めている。今、報復権を持つ黒人や先住民は、白人と同じ町に住む。身近になった脅威に備え、アメリカ政府は彼らを盗聴し、監視している訳だ。しかし、日本は奴隷制を持たなかった。「日本人は奴隷を酷使するオランダ人を心から憎んだ」とカール・ツュンベリも書いている。民族淘汰も無かった。聖徳太子の昔から、“和を以て尊しとなす”としてきた。大野は、アメリカという特殊な国の特殊事情を勝手に普遍化して、アメリカとは何もかも違う日本に無理矢理当て嵌めようとしていないか。日本には日本人を監視する必要はない。ただ、そこに紛れ込んで悪さをする存在は警戒する必要がある。テロ対策法は、例えば北京辺りの指令で、数千人の支那人が長野に集まって騒擾を起こすようなケースが対象になる。妙な牽強付会をして政局を弄ぶより、スノーデンが日本でやった極秘任務こそ、新聞人として伝えるべきではなかったか。彼は、「日本がアメリカに逆らった時、一瞬で日本中の電力を停める仕掛けをした」と言っている。そんな悪辣をやってきた。次に機密売りに転職して儲けた。彼の生き方に感銘することは何も無い。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2017年4月20日号掲載
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