【Deep Insight】(07) 中国金融、選べぬ荒療治

牙を剥いた時の市場は怖い。それに気付いた中国政府が、副作用を承知で株式市場をコントロールしている。息の長い成長に道筋をつけたい意図は浮かぶが、危うくないのか。『国家隊』の売りが、中国株市場の焦点に浮上している。株を買い支えてきた政府系ファンドだ。今週末にかけて、時価総額が大きく市場全体を動かす大手銀行の決算発表が山場を迎える。市場の関心は、同時に公表する大株主名簿で、『梧桐樹投資平台』といった名義の持ち株を減らしているか、だ。2015年の夏や2016年の初めに相場が急落した際、当局は買い支えや売りの封じ込めに動いた。今の狙いは逆に、「如何に相場を過熱させないか?」にある。転機は昨夏だ。2015年夏以来凍結し、その後も限定的にしか許していなかった企業の新規株式公開(IPO)を、暴落前のペースまで容認し始めた。先月にはもう一歩先に進めた。不動産大手『万科企業』の株を大量買いし、株価を吊り上げた投資会社を当局が“野蛮人”と断じて処分した。『中国人民銀行』は2月と3月、金融機関への資金供給を引き締めた。どちらもマネーゲームに興じる投機家への牽制とされる。国家隊による株売り観測は、その延長線上にある。政府が警戒しているのは、景気拡大の先にあるバブルだ。高水準のマネー供給は続いており、株式相場が実力以上に跳ね上がるリスクと背中合わせにある。その怖さを嘗てないほど強烈に学んだのが2015年だった。中国株の代表的指数である上海総合指数は、2015年6月までの1年間で2.5倍に急騰した。個人の投資対象だった不動産市場が調整し、人々の不安を抑える為に資産作りの場を提供しようとしたのだろう。国営メディアは、株価の強気を主張する異例の記事を掲載した。だが、バブルは弾け、投資家は傷付き、政府も動揺した。中国が得たのは、“山が高い分、谷も深い”という教訓だ。その後は相場を支え、過熱を抑える微調整を続けて釘付けにしてきた。1年以上もほぼ横這いが続く異様なチャートは、こうしてできた。私は、株式市場を巡る中国当局の過敏とも言える対応を見る度に、疑問を抱いてきた。「何を恐れているのか?」と。株の値動きを止めるのは、市場の機能を奪う行為でもある。中国株の流動性を示す売買代金は昨年、2015年の半分以下に減少した。だが今月、北京での機関投資家の会合に参加して、当局が神経質になる理由がわかる気がした。中国は今、経済の牽引役としての消費を育てる必要がある。会合で中国の投資家は、国内総生産(GDP)の4割以下に留まる消費が、今後拡大していく期待を口々に語っていた。

主役は、改革開放を進めた1980年代以降に生まれ、これから消費を担う世代だ。『文化大革命』の混乱を体験して、節約志向が強い世代と比べて消費を躊躇わない。“二人っ子政策”への転換やインターネット通販の普及も、消費心理を一段と温めるだろう――。株価が急落すれば、会場に飛び交っていたこんな楽観論は揺らぐ。株安は、消費者心理を冷やすのは勿論、金融危機の引き金を引き、消費者の不安を一段と高める可能性がある。株価の急落が、株式を担保に取って個人や企業に融資していた金融機関の経営を脅かしたのも、2015年の教訓だった。何より消費心理が冷え込めば、持続的な成長を目指して習近平国家主席が旗を振っている“投資主導から消費主導へ”という経済の構造改革も躓く。秋の中国共産党大会を、習政権が逆風の中で迎えることにもなりかねない。“釘付け相場”の裏側には、このように背に腹は代えられない事情が見て取れる。暗部も露呈した。市場は牽制力を失い、企業のモラルハザードが広がった。『国際決済銀行(BIS)』によると、中国の事業会社の債務は昨年9月末でGDP比166%と、主要20ヵ国の平均より70ポイント以上も高い。5年間で50ポイント近くも急増しており、債務が経済成長を上回るペースで膨らんでいる。企業は資金を過剰な設備投資に向け、“ゾンビ企業”になった。ゾンビ企業は、死に体なのに政府や銀行が延命を続けた日本企業を指す1990年代の言葉だった。日本は結局、株のバブル崩壊が長期に亘り、企業に債務の圧縮を迫った。銀行と企業は株の持ち合いを解消し、新たに現れた“物言う株主”が更に効率的な経営を求めた。株式市場はバランスシートを正常化するエンジンになった。だが中国は、株価の下落を伴う荒療治を選べそうにない。日本が“失われた20年”を何とか耐えられたのは、金融面でも社会面でも富を蓄えていたからだ。『ボストンコンサルティンググループ』によると、中国の家計金融資産は2015年で18.2兆ドル。日本の10倍を超える人口を擁しながら、金融資産は34%上回るに過ぎない。「自信と気迫も、能力と方法もある」。今月、『全国人民代表大会(全人代)』で李克強首相は、金融システム危機を封じる決意を強調した。2年目に入った真一文字の上海株チャートはその表れであり、国家資本主義の縮図でもある。だがチャートには、経済を思い通りに動かせるという政府の発想だけでなく、市場からの圧力を避けて必要な痛みを先送りする誘惑もちらついている。史上初めてとなる中国発の世界景気後退――。世界が怯えてきたシナリオは、簡単には消えない。 (本社コメンテーター 梶原誠)


⦿日本経済新聞 2017年3月29日付掲載⦿
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