【水曜スペシャル】(575) 儲かっているのに教員を切る必要性は? 東海大学、“メール1通で雇い止め”の異常事態
近年、全国の大学で大量の“雇い止め”による労働争議が後を絶たない。東海大学もそのひとつである。財政難でもないのに、使用者の思いのままに人を切る行為が、現代で許される筈がない――。 (取材・文/フリージャーナリスト 田中圭太郎)

「私は非常勤講師として東海大学と契約期間を1年とする有期労働契約を結び、2004年以降18年に亘って毎年、契約更新を繰り返してきました。それが、2022年4月に『来年の契約は厳しい』と言われました。非常にショックを受けて、他の講師と連絡をとると、他の多くの講師も『来年の契約はない』と言われていることを知りました。私は面談を受けることもないまま、8月に『来年度の契約はない』と通告されました。私だけでなく、長く勤務した多くの講師を、『これまでありがとうございます。もう結構です』というメール1通だけで雇い止めしているのです」――。こう話すのは、同大静岡キャンパス清水校舎で語学を担当していた非常勤講師だ。東海大学は東京、神奈川、静岡、熊本、北海道と全国にキャンパスがある。各キャンパスで長年勤務してきた非常勤講師が、2023年3月末での雇い止めを通告される事態が相次いでいるという。雇い止めの全貌はわかっていないが、かなりの人数に上ると見られている。このうち、神奈川、静岡、北海道のキャンパスに勤務する非常勤講師8人が東海大学を相手取り、無期労働契約の地位確認を求めて、2022年11月17日付で東京地裁に提訴した。更に、別の非常勤講師も提訴を検討していて、今後、集団提訴が拡大する見込みだ。提訴に踏み切った8人の主張は、「期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する」というシンプルなものだ。2013年に改正された労働契約法では、5年以上勤務している有期労働契約の労働者が、無期雇用に転換できる権利を得られるようになった。これは、非正規で働く労働者の雇用を安定させる目的で改正されたものだ。
改正法では2013年4月が起点となる為、2018年4月以降に5年を超えて働いている人は無期転換権を得られる。今回提訴した講師の多くは15年以上勤務しており、中には25年も勤務している講師もいる。にも拘わらず、東海大学は全員に来年度は労働契約を結ばないことを通告してきた。前出の非常勤講師が語るように、2022年4月以降、同大の全国のキャンパスで非常勤講師が次々と雇い止めされていることが明らかになった。同大には労働組合がなかったが、非常勤講師や再任講師らが集まって、2022年5月に東海大学教職員組合を結成。結成集会では全国から不安の声が寄せられた。「『カリキュラムの変更により2023年以降の仕事はありません』という説明があり、契約更新をしないと書かれた書面が送られてきました」「雇い止めされる理由が説明されていない人もいます。どのくらいの人達に雇い止めが通告されているのかもわからない状態です」。教職員組合では、5年以上勤務している組合員について、無期労働契約への転換を東海大学に申し入れた。しかし、大学側はこの申し入れに応じず、組合員の雇い止めを強行する構えだ。大学に非常勤で勤務する講師や職員の大量雇い止めは、労働契約法が改正されて5年が経過する2018年3月末を迎える前にも問題になった。無期転換を阻止する為に雇い止めをしようとした大学が相次いだのだ。しかし、早稲田大学や東京大学で労働争議となった結果、無期転換が認められたことから、多くの大学が雇い止めをしなくなった。その一方で、東北大学のように雇い止めを強行した大学がある他、無期転換権が5年ではなく10年で生じるとして、5年の無期転換を認めない大学も現れた。東海大学もそのひとつだ。改正労働契約法が施行された2013年末の国会では、10年で無期転換権を認めるという特例と言える法律が成立した。それが、現在の『科学技術イノベーション創出の活性化に関する法律(科技イノベ法)』と『大学教員等の任期に関する法律(任期法)』だ。東海大学は、この2つの併用できない法律を根拠として、「無期雇用への転換には10年が必要」と主張しているのだ。科技イノベ法は、科学技術に関する研究者や技術者を対象にしている。科技イノベ法の対象者であることを説明して契約することが求められているが、東海大学ではそのような説明を受けたとする講師はいない。抑もこの法律は、授業のみを担当する非常勤講師は対象にならないと考えられている上、今回の8人の原告は科技イノベ法成立前に入職している。裁判も既に起きている。専修大学が科技イノベ法を理由に非常勤講師の5年で無期転換を認めなかったことから、非常勤講師が大学を提訴し、東京地裁と東京高裁で非常勤講師が勝訴した。現在、大学側が上告中だ。

また任期法は、適用できる教員の範囲が定められている。任期法を適用する場合、大学は予め規則を定めた上で、任期法の特例対象であることについて個別に合意を得ておく必要がある。しかし、東海大学がそのような手続きを踏んだ形跡はない。つまり、5年以上勤務する非常勤講師の無期雇用転換権を認めない理由に、科技イノベ法や任期法を使うのは無理があると言わざるを得ないのだ。東海大学の2021年度の事業活動収支計算書を見ると、収支差額は148億3000万円の黒字だ。100億円を超える利益を出す大学は少なく、全国的に見ても安定した経営をしている大学と言える。数字からは、財政的な理由で大量雇い止めをしているとは考え難い。単に無期雇用転換権を認めたくないだけのようにも見える。労働契約法も、10年での無期転換を定めた2つの特例も、非常勤で働く人を守る為の法律だ。東海大学がこれらの法律を無視していることに対して、今後も様々な抗議活動が起きる可能性がある。教職員組合では組合員の95%以上が雇い止めされる為、スト権確立を全会一致で議決した。当事者の1人は憤る。「使用者の意のままに何でもできる時代ではないことを示していく必要があると考えました。今後、私達のような人が出ないように活動していきたいと思います」。筆者は雇い止めの理由を東海大学に質問したが、期日までに回答はなかった。大学側は「人事刷新の為」と教職員組合に説明しているという。簡単な理由とメール1通による大量雇い止めは許されるのか――。
2023年1月号掲載

「私は非常勤講師として東海大学と契約期間を1年とする有期労働契約を結び、2004年以降18年に亘って毎年、契約更新を繰り返してきました。それが、2022年4月に『来年の契約は厳しい』と言われました。非常にショックを受けて、他の講師と連絡をとると、他の多くの講師も『来年の契約はない』と言われていることを知りました。私は面談を受けることもないまま、8月に『来年度の契約はない』と通告されました。私だけでなく、長く勤務した多くの講師を、『これまでありがとうございます。もう結構です』というメール1通だけで雇い止めしているのです」――。こう話すのは、同大静岡キャンパス清水校舎で語学を担当していた非常勤講師だ。東海大学は東京、神奈川、静岡、熊本、北海道と全国にキャンパスがある。各キャンパスで長年勤務してきた非常勤講師が、2023年3月末での雇い止めを通告される事態が相次いでいるという。雇い止めの全貌はわかっていないが、かなりの人数に上ると見られている。このうち、神奈川、静岡、北海道のキャンパスに勤務する非常勤講師8人が東海大学を相手取り、無期労働契約の地位確認を求めて、2022年11月17日付で東京地裁に提訴した。更に、別の非常勤講師も提訴を検討していて、今後、集団提訴が拡大する見込みだ。提訴に踏み切った8人の主張は、「期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する」というシンプルなものだ。2013年に改正された労働契約法では、5年以上勤務している有期労働契約の労働者が、無期雇用に転換できる権利を得られるようになった。これは、非正規で働く労働者の雇用を安定させる目的で改正されたものだ。
改正法では2013年4月が起点となる為、2018年4月以降に5年を超えて働いている人は無期転換権を得られる。今回提訴した講師の多くは15年以上勤務しており、中には25年も勤務している講師もいる。にも拘わらず、東海大学は全員に来年度は労働契約を結ばないことを通告してきた。前出の非常勤講師が語るように、2022年4月以降、同大の全国のキャンパスで非常勤講師が次々と雇い止めされていることが明らかになった。同大には労働組合がなかったが、非常勤講師や再任講師らが集まって、2022年5月に東海大学教職員組合を結成。結成集会では全国から不安の声が寄せられた。「『カリキュラムの変更により2023年以降の仕事はありません』という説明があり、契約更新をしないと書かれた書面が送られてきました」「雇い止めされる理由が説明されていない人もいます。どのくらいの人達に雇い止めが通告されているのかもわからない状態です」。教職員組合では、5年以上勤務している組合員について、無期労働契約への転換を東海大学に申し入れた。しかし、大学側はこの申し入れに応じず、組合員の雇い止めを強行する構えだ。大学に非常勤で勤務する講師や職員の大量雇い止めは、労働契約法が改正されて5年が経過する2018年3月末を迎える前にも問題になった。無期転換を阻止する為に雇い止めをしようとした大学が相次いだのだ。しかし、早稲田大学や東京大学で労働争議となった結果、無期転換が認められたことから、多くの大学が雇い止めをしなくなった。その一方で、東北大学のように雇い止めを強行した大学がある他、無期転換権が5年ではなく10年で生じるとして、5年の無期転換を認めない大学も現れた。東海大学もそのひとつだ。改正労働契約法が施行された2013年末の国会では、10年で無期転換権を認めるという特例と言える法律が成立した。それが、現在の『科学技術イノベーション創出の活性化に関する法律(科技イノベ法)』と『大学教員等の任期に関する法律(任期法)』だ。東海大学は、この2つの併用できない法律を根拠として、「無期雇用への転換には10年が必要」と主張しているのだ。科技イノベ法は、科学技術に関する研究者や技術者を対象にしている。科技イノベ法の対象者であることを説明して契約することが求められているが、東海大学ではそのような説明を受けたとする講師はいない。抑もこの法律は、授業のみを担当する非常勤講師は対象にならないと考えられている上、今回の8人の原告は科技イノベ法成立前に入職している。裁判も既に起きている。専修大学が科技イノベ法を理由に非常勤講師の5年で無期転換を認めなかったことから、非常勤講師が大学を提訴し、東京地裁と東京高裁で非常勤講師が勝訴した。現在、大学側が上告中だ。

また任期法は、適用できる教員の範囲が定められている。任期法を適用する場合、大学は予め規則を定めた上で、任期法の特例対象であることについて個別に合意を得ておく必要がある。しかし、東海大学がそのような手続きを踏んだ形跡はない。つまり、5年以上勤務する非常勤講師の無期雇用転換権を認めない理由に、科技イノベ法や任期法を使うのは無理があると言わざるを得ないのだ。東海大学の2021年度の事業活動収支計算書を見ると、収支差額は148億3000万円の黒字だ。100億円を超える利益を出す大学は少なく、全国的に見ても安定した経営をしている大学と言える。数字からは、財政的な理由で大量雇い止めをしているとは考え難い。単に無期雇用転換権を認めたくないだけのようにも見える。労働契約法も、10年での無期転換を定めた2つの特例も、非常勤で働く人を守る為の法律だ。東海大学がこれらの法律を無視していることに対して、今後も様々な抗議活動が起きる可能性がある。教職員組合では組合員の95%以上が雇い止めされる為、スト権確立を全会一致で議決した。当事者の1人は憤る。「使用者の意のままに何でもできる時代ではないことを示していく必要があると考えました。今後、私達のような人が出ないように活動していきたいと思います」。筆者は雇い止めの理由を東海大学に質問したが、期日までに回答はなかった。大学側は「人事刷新の為」と教職員組合に説明しているという。簡単な理由とメール1通による大量雇い止めは許されるのか――。

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