【中外時評】 中南米経済、統治で明暗

昨年、大統領が弾劾され罷免されるという激動を経験したブラジルの政治が、また大揺れに揺れている。今月11日、最高裁は98人の政治家に対する捜査を検察当局が始めることを認めた。汚職の疑いをかけられたのは、エリセウ・パジリャ官房長官やアロイジオ・ヌメス外務大臣らミシェル・テメル政権の閣僚8人、連立与党の党首、ジルマ・ルセフ前大統領やルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領ら歴代の大統領4人…。随分と豪華な顔ぶれである。翌12日。最高裁は更なる爆弾を投下した。贈賄した会社幹部らが司法取引の一環で証言した様子を録画したビデオを公開したのである。そこでは、「テメル大統領が4000万ドル(約44億円)相当の収賄に関与していた」とする発言も飛び出した。スキャンダルの要と言えるのは、大手建設会社『オデブレヒト』である。国営石油会社の工事を受注する為の口利き等の見返りに、総額30億ドル超をばらまいたとみられている。捜査が始まって3年余り。オデブレヒト幹部ら既に有罪判決を受けた関係者も少なくない。先週の最高裁の動きは、事態の深刻さを改めてみせつけた格好である。大統領始め多くの政治家は、疑惑を否定している。今後の展開は不透明だが、前大統領の罷免を受けて昨年8月に発足したテメル政権にとって強烈な逆風なのは間違いない。経済への悪影響を心配する声も上がっている。ブラジル経済は、2015・2016年と2年連続でマイナス成長を記録し、“史上最悪の景気後退”に陥った。原油や鉄鉱石等、主な輸出品の国際相場が下がったのが主因だが、13年に及んだ左派主導の政権によるばらまき的な経済政策が傷を深めた面もある。中道の民主運動党が主導するテメル政権は、財政規律や市場原理を重視する経済改革を進めようとしてきた。「スキャンダルで改革が勢いを失うのでは?」との見方が浮上するのは当たり前ではある。

それでも、「今年は3年ぶりにプラス成長に転じ、景気後退に終止符を打つだろう」という期待は揺らいでいない。経済運営のアンカーというべき中央銀行が、課題となっていたインフレの抑制で成果を上げ、それを踏まえ、力強い金融緩和に踏み出したからだ。ブラジル経済への信頼が上向いていることは、通貨・レアルの対ドル相場によく表れている。『アメリカ連邦準備理事会(FRB)』が利上げを加速する構えを見せ、ブラジル中銀は利下げを速めているのに、レアル相場は安定している。当面、スキャンダルによる政治の動揺は収まりそうもないが、それは独立した司法があるからであり、国のガバナンス(統治)の健全性の表れともいえる。ブラジルの北に隣接するベネズエラと比べると、この健全性はわかり易いかもしれない。先月29日、ベネズエラの最高裁は、野党が多数を占める議会の機能を停止する決定を下した。内外からの強い反発を受けて、ニコラス・マドゥロ大統領が再考を求め、今月1日になって最高裁は決定を撤回した。当初の決定が政権の意向に沿ったものだったとすれば、撤回の判断は政権の指示に従ったものだった。「司法をも意のままにできるマドゥロ政権の独裁ぶりが浮き彫りになった」と言えよう。ベネズエラ経済は、2014・2015・2016年と3年連続でマイナス成長に沈んだとみられる。原油の輸出にほぼ頼り切ってきただけに、原油安でブラジル以上に深刻な打撃を受けたのは自然とも言える。問題は、回復の展望が一向に開けてこないことである。とりわけモノ不足が深刻で、『国際通貨基金(IMF)』の推計では、昨年に年率700%を超えたとみられるインフレ率は今年、2000%を超える見通し。物価が落ち着いてきたブラジルとはあまりに対照的である。ブラジルでは、政権の交代が政策の転換に繋がった。政権交代の一因は、政府から独立した司法によるスキャンダルの追及だった。強い中銀がインフレの抑制に成功した。何れもベネズエラには欠けている。健全なガバナンスの欠如が、「人道的な危機」(前国連事務総長の潘基文氏)の根っこにある。 (上級論説委員 飯野克彦)


⦿日本経済新聞 2017年4月20日付掲載⦿
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