【村西とおるの「全裸で出直せ!」】(191) “絶対”を口にする資格は私にはない…貴方にはあるか?
テレビや映画で観る上品な“人気女優”からは窺い知れないことですが、彼女達“女優”という人種の自己顕示欲と承認欲求は、半端なものではありません。嘗てアイドル兼歌手兼女優であったAのPVをハワイで撮影しました。その頃、彼女は高い視聴率のテレビ番組で有名司会者のアシスタントをしたり、レコードを出したり、写真集を出したりの活躍で、多くのファンを獲得していたのですが、プライベートでは人見知りする性格なのか、撮影していても神経を尖らせていて、気を許す気配はありませんでした。であっても、そこは味を知り染めた男と女のこと。満天の星の輝くハワイの夜で、“男と女”の関係となりました。一度関係を結んでしまうと“監督”と“女優”という垣根は取り払われ、日本に戻ってからも”お突き合い”が続きました。互いの体の相性の良さが原動力となったのです。突き合っているうちにAは、不安定な芸能界で生きていく不安を打ち明けました。「安定した収入が約束される副業を持ちたい」との彼女のご要望に応え、5000万円程かけて渋谷円山町のラブホテル街の入口に焼肉店をオープンさせたのです。そこで彼女に芸能界での活動の傍ら、店長をやってもらうことにしたのでした。今では芸能人の副業など珍しくもないのですが、当時はマスコミに取り上げられたこともあって話題を呼び、開店してからは連日大盛況となりました。
ところが、残念なことに順調にはいきませんでした。肝心の看板娘のAから芸能人気質が抜けず、誰彼とご来店のお客様に愛嬌を振りまくという当たり前の芸当ができなかったのです。信じられないことですが、テーブルに座ったお客がお店に出ている彼女を見て、「わぁ、Aちゃんだ!」と歓声を上げると上機嫌に接客するのでしたが、何も反応を示さないお客の時はご機嫌ナナメとなり、冷淡に接したのです。厨房から出来上がった料理を運んで行かず、代わりに厨房の人間が運ぶといったこともありました。料理長からそのことを知らされ、「お客様には分け隔てのない笑顔を」とAを諭しても、「私のファンでもないお客と口も利きたくない」と頑なです。お店は私が芸能人としてのパフォーマンスをするステージ、と信じている彼女の誇りは高く、「私を誰だと思っているのよ!」と鼻息荒く泣きじゃくる前に為す術もなく、1年が経ちました。気がつけばお店に閑古鳥が鳴き、Aもお店に出てこなくなり、「他の人間に店長を変えたら?」との考えもありましたが、「私のお店を他の誰にもやらせたくない」とのAの意向を汲んで、閉店の止むなきに至ったのです。お店に運転資金を入れて1億円を注ぎましたが、Aの“女優のプライド”の前に脆くも砕け散ったのです。
村西とおる(むらにし・とおる) AV監督。本名は草野博美。1948年、福島県生まれ。高校卒業後に上京し、水商売や英会話教材のセールスマン等を経て裏本の制作・販売を展開。1984年からAV監督に転身。これまで3000本の作品を世に送り出し、“昭和最後のエロ事師”を自任。著書に『村西とおるの閻魔帳 “人生は喜ばせごっこ”でございます。』(コスモの本)・『村西とおる監督の“大人の相談室”』(サプライズBOOK)等。
2023年3月23日号掲載
ところが、残念なことに順調にはいきませんでした。肝心の看板娘のAから芸能人気質が抜けず、誰彼とご来店のお客様に愛嬌を振りまくという当たり前の芸当ができなかったのです。信じられないことですが、テーブルに座ったお客がお店に出ている彼女を見て、「わぁ、Aちゃんだ!」と歓声を上げると上機嫌に接客するのでしたが、何も反応を示さないお客の時はご機嫌ナナメとなり、冷淡に接したのです。厨房から出来上がった料理を運んで行かず、代わりに厨房の人間が運ぶといったこともありました。料理長からそのことを知らされ、「お客様には分け隔てのない笑顔を」とAを諭しても、「私のファンでもないお客と口も利きたくない」と頑なです。お店は私が芸能人としてのパフォーマンスをするステージ、と信じている彼女の誇りは高く、「私を誰だと思っているのよ!」と鼻息荒く泣きじゃくる前に為す術もなく、1年が経ちました。気がつけばお店に閑古鳥が鳴き、Aもお店に出てこなくなり、「他の人間に店長を変えたら?」との考えもありましたが、「私のお店を他の誰にもやらせたくない」とのAの意向を汲んで、閉店の止むなきに至ったのです。お店に運転資金を入れて1億円を注ぎましたが、Aの“女優のプライド”の前に脆くも砕け散ったのです。
村西とおる(むらにし・とおる) AV監督。本名は草野博美。1948年、福島県生まれ。高校卒業後に上京し、水商売や英会話教材のセールスマン等を経て裏本の制作・販売を展開。1984年からAV監督に転身。これまで3000本の作品を世に送り出し、“昭和最後のエロ事師”を自任。著書に『村西とおるの閻魔帳 “人生は喜ばせごっこ”でございます。』(コスモの本)・『村西とおる監督の“大人の相談室”』(サプライズBOOK)等。

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