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【習近平3期目のリアル】(04) 脱炭素、視界不良に

20230323 02
中国の習近平指導部は気候変動対策の為、2060年に二酸化炭素(※CO2)排出量の実質ゼロを目指すとの目標を掲げている。中国は電気自動車等新エネルギー車(※NEV)の昨年の販売台数が世界一となり、この分野で脱炭素推進の姿勢を国際社会にアピールする。ところが同年、CO2排出増に繋がる石炭火力発電への回帰が急激に進み、習氏が掲げた脱炭素への道は視界不良となっている。中国内陸部、湖北省武漢市にあるNEVの製造工場。生産ラインには重厚なボディーのミニバンがずらりと並び、流れ作業で次々と部品が取り付けられていく(※右画像)。「我が国のNEVの強みは、市場全体が受け入れに熱心で、政府も強力に後押ししていることだ。短期間で非常に大きな経験を蓄積できている」。国有自動車大手『東風汽車集団』傘下の自動車販売会社で副総経理を務める劉展術氏は、こう強調した。2020年設立の同社では、30万元(※約600万円)超の価格帯の多目的スポーツ車(※SUV)やミニバンを市場に投入。今年6月には国営NEVメーカーで初めて海外進出を果たし、ノルウェーに販売拠点を開設した。劉氏は、「これを足がかりに他の北欧諸国やロシア等でも展開したい」と意気込む。『中国自動車工業協会』によると、昨年のNEV販売台数は前年比2.6倍の352万台。今年には500万台を突破すると予測されている。NEV推進は習指導部肝煎りの政策だ。習氏は2014年、NEVの発展について「我が国が自動車“大国”から“強国”に転換する上で必ず通らねばならない道だ」と強調。産業政策『中国製造2025』も、重点10分野の一つに位置付ける。政府は各メーカーに一定の比率でNEVの製造販売を求め、手厚い補助金制度を導入している。国策となった背景には先ず、この分野で技術的優位性を確保する狙いがある。中国は、ガソリン車やハイブリッド車(※HV)では技術的な蓄積の差が大きい日米欧等のメーカーに太刀打ちできない。そこで、官民挙げてNEVの技術開発と普及に集中投資し、主導権を握る戦略を描いた。海外進出もその延長線上にある。

中国工業情報省の辛国斌次官は6月、習指導部発足以来10年の実績を振り返る記者会見で、「NEVの発展は小から大に、弱から強へと成長し、世界の自動車産業の転換と高度化をリードするまでになった」と誇った。環境対策としての側面も大きい。中国は世界最大のCO2排出国だが、習氏は2020年の国連総会で「CO2排出量を2030年までにピークアウトし、2060年までに実質ゼロ実現を目指す」との“3060”目標を表明。その翌年には「国外での石炭火力発電所の新設をしない」等と宣言した。こうした国際公約の実現に向けて、排ガス規制や再生可能エネルギー推進等に積極的に取り組んでおり、NEVも柱の一つだ。中国が長年に亘り悩まされてきた大気汚染への対策としても有効で、『北京日報』は今年3月、大気の環境が観測史上最も改善され、「北京の奇跡を実現した」と大々的に報じた。この習指導部の脱炭素路線に水を差したのが、昨年9月に中国全土で深刻化した電力不足だった。北京市北部を走る石炭運搬専用鉄路・大秦線を見渡せる場所に立つと、黒々とした石炭を満載した列車が姿を現した。産炭地である山西省大同市を出発する大秦線の列車は約2.6㎞もの長さがあるとされ、眼下を走り抜けていく。中国では、CO2排出量の多い石炭火力発電が発電量の約6割を占める。習指導部は脱炭素推進の為、地方政府にエネルギー消費量削減を求め、石炭の産出量も抑制傾向にあった。だが、新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいた企業の生産活動が回復したことで、電力需要が増加した。夏場の猛暑で電力使用量が増えたが、石炭価格が高騰していた為、電力会社は発電量を増やせず、各地で電力不足が深刻化。停電や企業の操業停止が相次いだ。危機感を抱いた中国政府は昨年9月、石炭の増産を指示。生産量は急増し、2021年通年で前年比5.7%増の41.3億トンと過去最高を記録した。増産は今年も続き、6月までの上半期で前年同期比11.0%増の21.9億トンと、2021年を凌ぐ勢いだ。大秦線で運ばれる石炭も、例年より増えている。李克強首相は3月の全国人民代表大会(※全人代)の政府活動報告で“電力の供給保障”を強調。“石炭火力発電のクリーン・効率化利用の強化”等に言及し、前年は「GDP創出に必要なエネルギー量を3%減らす」等と盛り込んだ単年度の数値目標の公表を取り止めた。秋の党大会を控える政治的に敏感な時期に国民の不満が高まる事態は避けねばならず、国際公約の推進よりも電力不足の解消を優先した形だ。国際情勢の変化も影響した。中国の石油の対外依存度は72%、天然ガスは46%。とりわけ天然ガスはアメリカからの輸入量が多い。ロシアによるウクライナ侵攻で世界的にエネルギー需給が逼迫して、原油価格等が高騰していることや、米中対立の長期化等を受けて、国内でほぼ自給可能な石炭に回帰したというわけだ。脱炭素の国際公約に逆行する動きだが、中国だけの問題とも言えない。ウクライナ危機を受けて、ロシアへのエネルギー依存度が高いドイツ等欧州諸国でも、石炭回帰への動きが出ている為だ。中国のエネルギー事情に詳しい政府関係者は、「中国政府は最近、“3060”の目標をあまり言わなくなった。欧州でCO2削減の目標達成が危ぶまれる中で、しめしめと思っているのではないか」との見方を示した。 (取材・文・撮影/中国総局 岡崎英遠)


キャプチャ  2022年9月3日付掲載
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