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【水曜スペシャル】(580) 長野大学の不正を追及した教授が懲戒処分に…あまりに理不尽な大学と市の対応

公立大学の中には、設置者である自治体が大学を私物化するケースがある。長野県上田市にある長野大学は、幹部の不正を追及した教授を懲戒処分。教授は「納得できない」と提訴した。 (取材・文/フリージャーナリスト 田中圭太郎)



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「私は学部長として当時の副学長の会計不正等を調査し、追及していました。ところが、不正を調査する危機管理委員会の設置を要請したこと等を理由に、懲戒処分を受けました。不正について調査を求めることは社会的に正当な行為です。そのことを不当だとして懲戒処分すること自体、異常な状況ではないでしょうか」――。こう憤るのは長野大学の田中法博教授(※左画像)。自身が2022年10月26日に大学から受けた、3ヵ月間に亘る給料月額10%減給の懲戒処分は「不当で合理性に欠ける」等として、法人に対し処分の無効と減給分も含めた損害賠償を求める訴訟を起こした。12月9日に長野地方裁判所上田支部に訴状を提出し、同日、長野県弁護士会館で記者会見した。長野大学は、1966年に公設民営で開学した本州大学を起源としている。1974年に名称を長野大学に変更。2017年に上田市を設置者とする公立大学法人に生まれ変わった。それまでの学校法人は解散し、大学を運営する理事会は上田市の関係者や市が選んだ理事らで構成されている。田中氏が懲戒処分を受けたのは、「企業情報学部の学部長時代に実施した副学長に対する調査が不適切だった」等という理由だ。当時の副学長に文部科学省や長野県等からの助成金を含む研究費の不正使用の疑いが強まり、大学では2019~2020年にかけて中村英三学長の指示で危機管理委員会を設置して調査した。委員会は不適切な活動を確認し、副学長と学外関係者らが共同使用していた部屋の使用停止を決定している。ところが、大学はこの調査結果に対して副学長の処分はせず、逆に今回、部屋の使用禁止は危機管理委員会の権限を越えた措置だとして、田中氏ら4人を懲戒処分とした。大学によると、4人の中には学長の中村氏も入っているという。

更に田中氏に対しては、危機管理委員会の設置を中村氏に強く働きかけたことも懲戒の理由にしている。田中氏は次のように反論する。「委員会の開催を決めるのは学長で、私には何の権限もありません。何故、懲戒なのかわかりません」。田中氏の懲戒には別の理由もある。調査の過程で、学内の誰もがアクセスできるサーバーに不適切な写真が公開されていたのを見つけた為、拡散を防ぐ為にサーバを停止させ、学長に報告した。田中氏の行動は当たり前の対応だと思われるが、そのことも大学は問題視しているのだ。しかし、そこに公開されていた写真こそが問題だと、田中氏の代理人弁護士である山下潤氏は指摘する。「在籍していた未成年の女子学生が長野大学や上田市の関係者と飲酒している写真で、学生が肩を抱かれている写真もありました。長野大学は、田中教授がこの写真を閲覧できないようにしたことが重大な違反だと言っているのです」。また、減給10%・3ヵ月という重い処分が、労働契約法第91条に定められている減給額を超えているとして、懲戒処分は無効と田中氏は主張している。一方、問題の副学長は田中氏らが追及した件とは関係なく、自己都合退職している。それにしても、大学は何故2年前の不正調査を持ち出して、今頃になって懲戒処分を出したのか。実は、学外には殆ど公表されていないが、大学によると10月26日以降の約1ヵ月間で、4人以外にも別件で2人が懲戒処分され、1人が口頭注意の処分を受けている。田中氏によると、この7人の多くが副学長ら大学幹部の不正の調査に取り組んでいたという。つまり、不正を追及したことに対する報復が疑われるのだ。大学が抱えている問題はそれだけではない。今年度に入って、コンプライアンス違反が疑われる事案が多数発生している。ひとつは労働基準法に違反したとして、労働基準監督署から度重なる是正勧告を受けたこと。タイムカードと実際の勤務時間が異なることや、36協定に違反して長時間働かせた等として、2021~2022年9月までに合計5件もの是正勧告を受けている。二つ目は、情報システムの導入を巡る混乱だ。本来は競争入札すべきところを、市から出向している幹部が主導して、幹部と懇意にしていると見られる業者と随意契約した。その結果、システムが正常に機能せず、1年生が履修登録できないトラブルが起きたのだ。学生によるクレームは500件に及び、トラブルは地元メディアでも大きく報じられた。

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10月に実施された次期学長選考にも問題がある。教職員側が推す候補と、上田市等理事会が推す候補の2人が立候補したが、候補が出揃った後に学長選考のルールが変えられ、教職員による意向投票に上田市から出向している職員も参加できるようにした。その結果、市や理事会が推す候補の票が僅かに上回り、次期学長に決まっている。処分が相次いでいるのは、この学長選考が終わってからだ。教員は約60人なので、1割以上が僅か1ヵ月の間に処分されたことになる。田中氏らは、こうした大学運営に対しても問題を提起し、説明を求め、責任を追及してきた。それが大量処分の背景にあるのではないかと田中氏は感じている。田中氏らが処分された一方で、大学側は誰も処分されず、問題は有耶無耶のままだ。それどころか、上田市の幹部が圧力をかけてくることもあると田中氏は証言する。「上田市の幹部から『取るに足らないことで追及するな』といった趣旨のことを言われました。しかし、副学長の活動の中では数百万円が行方不明になっている他、公立大学法人化されてから学内には不正会計が蔓延っています。1件は数万円でも、年間では600万円に上るケースもあります。これが“取るに足らないこと”であれば、上田市の感覚は社会の常識とずれているのではないかと心配になります」。一方、長野大学は「訴状が確認できていないので何もコメントできない」と話している。不正追及に対して大学側が懲戒処分という強硬な態度に出たことで、教職員には不安が広がっている。その中で田中氏は、「処分は到底納得できない。裁判で幹部の責任を追及していきたい」と提訴に踏み切った。裁判はこれからだが、少なくとも長野大学に自浄能力がないことは明らかである。


キャプチャ  2023年2月号掲載
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テーマ : 教育問題
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Author:George Clooney

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