『三菱自動車』、ゴーン流改革にプロパー社員から失望の声――『日産自動車』主導の改革に失望感、『三菱商事』の販売力に期待

20170425 11
「結局、あの時と同じなんですよ」――。今月中旬、『三菱自動車』のある社員は、溜め息交じりにこう打ち明けた。軽自動車4車種に端を発する一連の燃費不正が発覚したのは、昨年4月20日。その翌月12日、『日産自動車』が三菱自動車の発行済み株式34%を取得して、傘下に収めることを発表した。“あの時”とは2000~2005年、三菱自動車が『ダイムラークライスラー』(現在の『ダイムラー』)の支配下にあった時代を指す。2000年にリコール隠しが発覚した後、ダイムラーは三菱自動車と資本提携すると、直ぐに新経営陣を送り込んだ。だが、現場の社員との溝は埋まらず、2004年に2度目のリコール隠しが発覚。その翌年、ダイムラーは三菱自動車から資本を引き揚げた。その危機を救ったのが、『三菱重工業』・『三菱商事』・『三菱東京UFJ銀行』の三菱グループ3社だった。日産による今回の提携もダイムラーの時と構図は似るが、多くの社員は「今回は日系企業。きっと自分たちの気持ちを理解してもらえる」と期待していた。ところが今月、日産主導の“ゴーン流改革”が本格化すると、期待は失望に変わったという。「上司が外国人になり、会議が英語に。上層部を日産出身者が占める等、ダイムラー時代との共通点は多い。『またか』とがっかりした」(前出の三菱自動車社員)。“上司”というのは昨年11月、日産のカルロス・ゴーン会長の命を受けて三菱自動車COOに就任したトレバー・マン氏のこと。複数の社員によると、現在、実質的な経営トップは、三菱商事出身の益子修CEOではなく、日産出身のマン氏だという。客観的に見れば、日産主導の組織改革は理に適っている。今月13日に三菱自動車が開いた説明会によると、今月からスタートさせた組織改革の目玉は2つ。“階層のフラット化”と“三権分立体制による責任の分散と明確化”だ。日産から昨年6月に送り込まれた山下光彦副社長が、改革の中核を担った。山下副社長は、ゴーン会長の下で十数年に亘り、日産のV字回復に尽力した人物。三菱自動車の改革では、「日産で成功した手法を積極的に取り入れた」(山下副社長)という。

ところが、この新組織が逆に、プロパー社員から“(日産主導の)統治の強化”と受け取られる要因となってしまった。その最たる例がフラット化だ。これまで4階層あった階層を2階層に減らし、本部長がその部門のトップである副社長に、何か問題が起きたら直ぐに相談できる体制を整えた。通常なら上手く機能しそうだが、三菱自動車の社員の受け取り方は違った。上層2階層の殆どのポストを、日産か他の三菱グループの出身者が占めたからだ。副社長は日産出身の山下氏、三菱商事出身の白地浩三氏、三菱東京UFJ銀行出身の池谷光司氏の3人。今月1日からは、本部長を兼務する常務3人が新たに日産から送り込まれた。「2階層にしたといっても、それは日産や商事の出身者が三菱自動車のプロパー社員に目を光らせる為。組織のフラット化と言えば聞こえはいいが、結局は統治強化が目的だろう」(ある社員)。社員がこんな穿った見方をするのには理由がある。組織をフラット化すると、当然ながらポストの数は減る。その時、「生え抜き社員には担当部長等、部下のいない職務が宛がわれた」というのだ。既に退社を決めた30代社員は、「同期で辞める人も多い。将来が見えないですから…」と打ち明ける。「ルノー・日産との合算で(販売台数)1000万台が見えてきた。我々がもうちょっと頑張れば、本当の意味でトップに肩を並べられる」。今月13日の説明会で山下副社長は、「私が言う立場にないが」と前置きをした上で、ルノー・日産の三菱自動車への期待をこう語った。ルノー・日産が期待する三菱自動車の役割は、新組織の人材配置からも垣間見える。既に顕著なのが、“新興市場における三菱商事の販売力”。新組織では、海外営業を担当する部門の重要地域の本部長を三菱商事出身者とし、その販売力を活用できる体制を整えた。これから予想されるのが、日産への技術系人材の出向だ。あるOBは、「EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)の関連技術を持つ若手が日産に出向するのでは?」と予想する。自動車業界では、EVや自動運転といった新技術開発への投資が拡大。昨年度の日系7社の投資額は過去最高を記録した。中でも『トヨタ自動車』は1兆800億円とダントツで、日産の5600億円を大きく引き離す。“1000万台クラブ”──。トヨタや『フォルクスワーゲン』が首位争いを繰り広げる中、ルノー・日産連合もその仲間入りを果たすには、株式取得に2370億円を費やした三菱自動車の販売力や技術力を有効活用することが欠かせない。目的達成に向けて着実に歩を進める経営陣を冷めた目で見る社員たち。現時点で両者の温度差は大きいが、山下副社長に焦りは見えない。「社員の意識改革が直ぐに進むとは考えていない。5~10年経って振り返ると、『考え方や行動が良い方向に行っていた』とわかる。意識改革とはそういうものではないか」。優秀な人材がこれ以上流出する前に、如何に経営陣と社員の温度差を縮められるか。ゴーン流改革の成否はそこにかかっている。 (取材・文/本誌 池松由香)


キャプチャ  2017年4月24日号掲載
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