【ヘンな食べ物】(35) 巨大ムカデと人類の叡智

新宿区歌舞伎町の『上海小吃』でゲテモノ料理に挑むつもりが、間違えて生の虫を食べてしまった我々取材班。「Yさん、気付かなかったんですか?」と今更担当編集者を咎めると、「だって百戦錬磨の高野さんがパクパク食べているから…」との答え。私の百戦は“錬磨”でなく“連敗”だってことを、彼は知らなかったらしい。昔も、タイの市場で売っていた生の芋虫を間違えて食べてしまったことがある。何度も同じ間違いをするのが私の特徴だ。扨て、改めて調理された“虫の盛り合わせ”が運ばれてきた。「おおっ、食べ物だ!」とびっくり。姿揚げなので形状はそのままだが、質感が“生”とは全然異なり、ちゃんとした料理に見える。火を通すとこんなにも違うのか。ゲテモノ料理挑戦から解放された思いで、順番に気楽に摘んでいく。先ず、生の時は粉っぽくて死体じみた味がした(というか死体だったのだが)バッタは、カリッカリに揚げられ、塩味と唐辛子も効いており、まるでスナック菓子の『カール』みたいな食感。ビールが進む。セミの幼虫は、先程の(生の)むにゅむにゅしたタンパク質がどこへ行ってしまったかと思うくらいカスカス。栄養分が失われ、勿体ない気すらする。続いてタランチュラ。こちらは昔、カンボジアで食べた物と同じ味。前の虫2つより中身が詰まっている。運良く遅れてやってきて“生”を食べずに済んだ、同じく本誌の女性編集者・Iさんは、「土っぽい」と適確な表現。言い得て妙だ。足が焦げて炭化しているせいかもしれない。

お次はサソリ。長さ10㎝。巨大なハサミと、反り返った立派な尾を持っている。他の虫は北京から輸入しているが(※首都に各地の名産品が集まるらしい)、これは山東省から来たという(※「山東省はサソリで有名」と店長)。鋼鉄のようなボディーをしているだけあり、囓るとバリバリと大きな音がする。中には灰色の内臓があり、やや苦い。「ちょっとエビみたい」と、Iさんがまた鋭い指摘。確かに、ぷりぷりした肉の部分を除いたエビと考えるとしっくりくる。でも、一番美味い部分の無いエビって…。そして、ラストは愈々巨大ムカデ。長さ20㎝、幅は胴体が1㎝、足を入れると2㎝。これを生で喰わなくて本当によかったと思う。恐らく、これは熱帯の国から来たのではなかろうか。私も、東南アジアのジャングルで生きて動いているものを1~2度見た記憶がある。他の虫は串から外して1つずつ食べたが、これは串のまま囓る。サソリ同様、外側はサクサク(※ガサガサとも言える)、中はグレイな内臓だが、「こっちは薬っぽいですね」とIさん。確かに、ちょっと漢方系の香りがする。「Iさんは素晴らしい。常に冷静で適確な指摘をしてくれるこの女性が初めから居合わせてくれたら、私たちも虫を生で食べずに済んだだろう」と心底残念なほどだ。さてさて。虫の盛り合わせで、どれが一番美味かったか。答えは巨大ムカデ。実際、“取材”を終えて他の普通の料理(※こちらも美味しい)も頼んでいるのに、私はどうしてもムカデに手が伸びてしまう。理由はバランスの良さ。他の虫はハサミとか頭とか形状にばらつきがあるが、ムカデはどこを齧っても足・殻・内臓と均一で適度な香り・苦み・食べ応えがあり、火の通り具合も良い。生では超絶なゲテモノが、見事なつまみになっている。腕の良いシェフと“火の利用”を発見した人類の叡智に乾杯である。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年4月27日号掲載
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