【Deep Insight】(08) 2人の“商人”と車の未来

2人の“商人”は違いが多い。1人は不動産王のドナルド・トランプ大統領、もう一方は『日産自動車』のカルロス・ゴーン社長だ。前者はドイツ移民の3世としてアメリカで生まれ育ち、家業を大きくして“president(大統領)”に上り詰めた。今日、日産の“president(社長)”を退く後者はレバノン系ブラジル人だが、フランスで教育を受け、ヨーロッパ・アメリカ・日本の自動車産業で成功を収めた。“単一か多様性か”だけではない。最も対照的なのは“時間軸”だろう。『トランプ自伝』によれば、トランプ大統領は「計画をたてる際はもっぱら現在に視点を合わせる」と語っている。経営の軸はどちらかといえば“短期”らしい。ゴーン社長は多分、長期だ。『PDCA』と言われる日々の業務管理やキャッシュフロー経営に厳格だと言われるが、実は長期の投資や事業戦略でも欧米のビジネススクールでは頻繁に研究対象になっている。社内で猛反発を受けつつ進めた“中国進出と成功”や、リーマンショックでも止めなかった電気自動車開発が代表例だ。2人の間には未だ直接対話が無い。だがトランプ大統領は、“アメリカファースト”という自国主義政策を掲げ、グローバル化の象徴である自動車産業、とりわけ日本のメーカーに対米投資の拡大を迫る。今月15日の業界を交えた会合では、『トヨタ自動車』と日産を再び名指しした。アメリカの自動車メーカーは快哉を叫んでいる筈だ。トランプ大統領は、日本の自動車市場が閉鎖的との議論や為替問題を蒸し返し、大型車の多いアメリカメーカーに配慮した燃費規制の緩和策まで検討しているという。一方、ゴーン社長は表向き、無言の構えだ。今年初め、トランプ大統領の政策について質問を向けたことがあるが、答えは「世界を見渡したらいい。アメリカも特別な国ではなく、政権が変われば政策も変わる。それだけのことだ」と簡単だった。要は、大統領が決めたなら“従うだけ”との立場である。だが、そこには無言の抵抗もあるかもしれない。ゴーン氏は日産の社長を退くが、今後も『ルノー』・日産・『三菱自動車』の取締役会議長であり、『ルノー日産アライアンス』の長でもある。日産社長という日常を離れれば、より大きな課題に時間を注ぐことが可能だが、ゴーン社長が今後取り組みたいと話すアジェンダ(論点)には、トランプ大統領が言うような単純な“アメリカ工場建設”は見当たらない。

では、ゴーン社長のアジェンダとは何か? 1つは、社長退任を発表した日に語った“ITと自動車の連携・融合”だろう。自動車産業は今、100年に一度の大きな転換期を迎えつつある。イギリスの『バークレイズ』が発表した調査報告書によれば、複数の人で車を保有するカーシェアリングや、『ウーバーテクノロジーズ』のようなライドシェアリング(乗り合い)が普及したら、世界の自動車需要は現在の6割程度にまで減少する可能性があるという。アメリカで言えば、『フォードモーター』や『ゼネラルモーターズ(GM)』の北米での自動車生産は半分以下に減るそうだ。日本も例外ではない。「自動車は既に、アメリカよりも低稼働な資本財になっている」と『みずほ銀行』産業調査部の斉藤智美調査役は指摘する。日本の1日当たりの車の平均利用時間は28~37分。乗車人数も1.3人だ。「カーシェアやシェアライドで十分」という世代が運転年齢人口で多数になれば、日本の自動車メーカーもハード重視のままではいられなくなる。車には、移動価値・体感価値・所有価値の3つがあるとされている。この内、移動価値と所有価値は徐々に陳腐化していき、経営の仕方も限られた販売台数を起点にどう高収益を上げるかに重心が変わる可能性がある。アメリカの『Google』や『Apple』等、IT産業からの新規参入企業も間違いなく、そうした状況を作り出そうと動く筈だ。異業種がそこまで影響力を持つのは初めてだ。産業界では今、人工知能(AI)の進歩を背景に、既存産業を揺るがす破壊的技術、所謂ディスラプションが生まれ易い状況だ。勿論、ハードは重要だが、付加価値が“繋がる車”や“モビリティー”と言われる情報サービス分野に流出するのは止めようがないだろう。今年1月。ゴーン社長が仕事始めに向かった先は、恒例の『デトロイト自動車ショー』ではなく、シリコンバレーだった。日産が『アメリカ航空宇宙局(NASA)』と進める自動運転の共同実験を視察した。車輪とハンドル、ガソリンエンジンの発明で産業の王に上り詰めた自動車産業には今、またイノベーションの大波が押し寄せる。ライバルも味方も散らばっているのは“世界”である。アメリカに閉じこもり、アナログな車を作り続けたり、反グローバルを叫んだりすることなど“あり得ない”のが、今なのである。歴史を紐解けば、「グローバル化やイノベーションの担い手は古来、国際商人だった」と、京都産業大学の玉木俊明教授は話す。ゴーン社長の遠い祖先、古代フェニキア人はアルファベットを発明し、地中海沿岸の貿易・商取引を活発にした。大航海時代・『東インド会社』・蒸気機関も、時々の商人たちの野心・ニーズが生んだものだ。国内の内なる成長に拘るトランプ大統領と、グローバルな産業再創造を志向するゴーン社長。歴史に進歩のダイナミズムを刻むのは、どちらの国際商人だろう。 (本社コメンテーター 中山淳史)


⦿日本経済新聞 2017年3月31日付掲載⦿
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