fc2ブログ

【WEEKEND PLUS】(358) 学歴・学費不問の“超”学校…パリ発祥のエンジニア養成機関、教師不在でも世界企業注目

教師はいない。教科書もない。卒業後は『グーグル』や『Apple』といった世界に冠たる巨大IT企業へ就職――。若者が今、こんな夢のような学校の門を叩いている。ただ、この学校、入学試験の合格率が4%という狭き門。ビジネスに必要な才能をひたすら追求する、完全な実力主義なのだ。しかも学費は無料。一体、誰が開校し、どんな教育をしているのだろう。



20230526 01
六本木の高層ビルの一室。窓越しに東京タワーが見える教室に入ると、数百台のパソコンが目に入った(※右画像、撮影/加藤美穂子)。しかし、生徒達は必ずしも一方向を向いて着席していない。窓際のソファーに凭れてノートパソコンを開く人もいれば、友人と語り合う人もいる。そこに教師の姿はない。『42Tokyo』は2020年に開校した。パリ発祥のエンジニア養成機関『42』の分校で、元々フランスの資産家が私財を投じて2013年に作った学び舎だ。GAFAと呼ばれる大手ITや、『フォルクスワーゲン』に『テスラ』等、世界を牽引する企業へ続々と卒業生を輩出している。デジタル人材の獲得競争が各国で激化する中、その実績が評判を呼び、日本を含めて世界28ヵ国に関連校を開設している。授業や教師なしに何をどう学ぶのか。42の特徴は、生徒が互いに作ったプログラムの仕組みを見せ合ったり、問題点を改善したりする中で課題を解いていく“ピアラーニング”だ。教科書はなく、プログラミングの方法も生徒同士で教え合ったり、インターネット上で検索したりして学習。課題をクリアすると次の課題が出され、ゲームのように進めていくうちに、アルゴリズムの知識やアプリ開発の技術等が身に付いていくという。教室は24時間開いている。時間を好きに使って、自由な時間に生徒同士が教え合う。しかし、気楽なものではない。寧ろその逆だ。“Piscine”(※ピシン。フランス語でスイミングプールの意味)と呼ばれる世界共通の入学試験の合格率は約4%。詳しい内容は非公開だが、プログラミングの“プール”に潜り、4週間もの間、ほぼ一日中、課題を解いていく形式だという。

42Tokyoによると、試験はプログラムのコードを書く力を試すものではない。粘り強さ、思考力、他人と協力する能力という、点数では測れない“無形の力”がある人が選ばれ易い。たとえ入学できても、一定の課題をこなせなければ即退学となる。一般的な日本の大学とは全く異なり、完全な実力主義とも言える42Tokyo。集まったのは、これまでの日本教育の型にはまらない人材だ。2020年11月から在学する奈良昴さん(22)は、小・中学校時代に苛めに遭って不登校気味だった。興味があったプログラミングが学べる工業高校に入るも、不真面目な生徒が授業妨害するような環境で不登校に。将来について悩んでいた時、母親がインターネットで42の存在を見つけてくれた。入学試験のピシンは、あと一歩で解けそうで、解けないもどかしさがあった。どうすればいいか他の受験生と話し合ううちに、「42には学びたい、学ぶことを楽しく思える人が集まっている」と感じた。開校と同時に入学した舟生悠さん(22)は、カナダの高校からアメリカの大学に進学。アラブ首長国連邦(※UAE)にあるキャンパスで大学生活を送っていた。プログラミングは未経験だったが、試しに受けた42の入学試験でその面白さに目覚め、大学を中退して日本に戻った。カナダに留学する前は青森県に住んでいた。デジタルの力を生かし、「自分と同じように、地方の人が学ぶ為の色んな選択肢を持てるようなことができたら」と意気込む。実践的にデジタルについて学びたい東大生もいれば、新しい技術を身に付けて転職に生かそうと40代で入学した生徒もいる。経歴や年齢は様々だが、共通しているのは“本気で学びたい”という強い意志だ。パリ発祥のエンジニア養成機関が、何故日本に開校したのか。「面白い仕組みを広めるのが俺の仕事だ。珍しく、お金儲けしていないからさ」。こう話すのは、42を日本に誘致した『DMMグループ』の創業者である亀山敬司会長だ。フランス校の始まりに倣って、亀山氏は50億円超の私財を投じ、42Tokyoを開校させた。ビジネスを学びたい若者がDMMの給与を貰いながら、好きなことに挑戦できる私塾『DMMアカデミー』(※2016年、現在は終了)を作る等、元々“人への投資”を積極的にしてきた亀山氏。新たな投資候補として42のフランス本校を視察した際、生徒同士が活発に意見を出し合う姿に魅了された。

20230526 02
60~70代の先生から一方的に教わるのではなく、同年代の者同士で教え合う。40代が20代に教わることもある。「やらなければ残れない、という環境で互いが刺激し合っているのがいい」。何より魅力を感じたのは、あらゆる人のチャンスを広げる“完全無料”・“学歴不問”という仕組みだった。フランスは日本より極端な学歴社会と言われる。限られた名門校で、専門的な勉強をした人だけが高給の職に就き、逆転の機会は少ない。名門校には自ずと教育にお金がかけられる裕福な家庭の子供が多く、大学で得た知識は実務とかけ離れていることが多い。42は、そんな常識を覆そうという理念で生まれ、実際に結果を出している。亀山氏は高校卒業後、専門学校に入るも中退。原宿での露天商やレンタルビデオ店経営を皮切りに、今や動画配信に英会話、証券業、欧州サッカーチーム経営と、DMMを約60もの事業を展開する大企業へと成長させた。「人生やり直そうと思ったらやり直せる」。そんな自らの経験もあり、学歴ではなく実力で築いた資産で次世代を支援することにした。目指すは、42を“大学進学を蹴ってでも入学したくなる存在”にすることだ。但し、学費を無料にしているだけに、5~6年は私財を元にした当初の予算で運営できる想定だが、その先はわからない。大金を投じた“人への投資”で望むのは、42で育った人材が就職先でその能力を示したり、起業で成功したりすることで、協賛企業が増えることだ。善意のお金で学校が成り立つのか。42は、そんな社会実験でもあるのだという。「日本では寄付はあまり馴染みがないが、“恩返し文化”はあるのではないか。会社で出世したら寄付しよう、起業して上場して、株で儲かったから寄付しよう、となったら嬉しい」。

42では厳密な“卒業”という概念はない。2~3年程学び、一定レベルに到達した生徒は就職や、若しくは海外の42へ移籍して更に勉強する、といった道を辿る。開校から約3年経ち、日本でも従来型の新卒一括採用とは違う形で、42から巣立った生徒が徐々に社会に出始めている。42出身の岩佐由喜さん(26)は1年前、人工衛星の製造・運用をするスタートアップ『アークエッジスペース』に就職。衛星製造の効率化等に関わるエンジニアとして働いている。法学部生だった大学4年の時、「本当のやりたいこととは違う」と感じていたコンサルティング会社の内定を辞退。一からプログラミングの勉強を始めた。親に頭を下げ、卒業後暫くはアルバイト生活だった。だが、現在の会社で宇宙業界のことを知ることで、昔から漠然と思い描いていた“宇宙飛行士選抜試験を受ける”という目標が、現実味を帯びてきた。約2年間、エンジニアになる為の勉強を続けた為、「42は単に早く稼ぎたいという人には勧めない」という。それでも、希望の仕事に就く力は備わり、「結果的に夢に近付くことができた」。42Tokyoは国内外の名だたる企業がスポンサーとなっており、その中で『サイバーエージェント』や『メルカリ』等が既に42出身者を採用している。予々問題視されてきた日本のデジタル化の遅れは、コロナ禍で浮き彫りとなった。政府は2021年9月にデジタル庁を発足させる等、官民一体となって社会のデジタル化を急いでいる。ただ、経済産業省の調査(※2016年)は、日本のIT人材は2030年には最大79万人不足する可能性があると試算。スイスの『国際経営開発研究所(IMD)』による世界競争力年鑑(※2022年)では、日本はビジネス効率性において対象63ヵ国・地域中51位。その中の企業のデジタルトランスフォーメーション(※DX)分野では最下位の63位と、専門人材の少なさは危機的だ。企業のDXや人材育成に詳しい『はたらくAI&DX研究所』の石原直子所長は、サービス業や金融等幅広い分野でデジタル人材の必要性が高まり、数が足りていないとする一方、「“リスキリング”という名目で、社員にただオンライン講座を受講させ、人材が増えました、という社もある。企業は事業戦略に基づいて、学歴に関わらず必要なスキルを持った人を採用し、育てるべきでないか」と話す。対話型AI『チャットGPT』等、従来の業務を劇的に効率化していく生成AIの登場によって、「単に大学の偏差値が高い、言われたことを要領よくするという人材の価値が下がっていく」とし、「デジタル技術を使いこなし、ビジネスにおいて何ができるかを考えられることがこれからの価値になっていく」と指摘する。 (取材・文/経済部 加藤美穂子)


キャプチャ  2023年5月11日付掲載
スポンサーサイト



テーマ : 専門学校
ジャンル : 学校・教育

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接