【企業人必読!キャリアアップの為の組織防衛術】第1部・製薬会社広報編(03) 不祥事の内助の“巧”
【広報の会議室での勉強会】
入鹿(頭脳明晰で仕事の速い女性部長)「今日は国際政治学者の三浦瑠麗さんの件を事例研究してみましょう。身内が不祥事を起こした時に、どんな言動をしたらいいかしら?」
平目(上司へのごますりが上手な男性課長)「私は彼女のファンですけど、『夫を支えながら推移を見守りたい』というコメントには、内助の功を感じましたね。月刊誌の独占告白も読みましたが、家族の強い絆を感じさせられて、ジーンときました」
倉華(見た目と違って攻撃的な女性係長)「えーっ!? 私は逆です。夫の側についている印象を与えるから、犯罪を憎む姿勢、即ちコンプライアンスの欠如を感じました。特に『罪証隠滅の恐れもないはずで…身柄を拘束されて非常に残念』というあたりは、検察批判とも受け取られかねませんし、彼女が検察の事情聴取の中身を詳しく知っているかのようにも感じられます」
平目「でも、彼女は『夫の会社経営には全く関与していない』と言っているから、無実を信じているんじゃないかな?」
倉華「そこも問題だと思いますよ。写真週刊誌が『瑠麗さんの会社と夫の会社がコンサルティング契約を結んでいた』と報道しましたから、知らぬ存ぜぬは無理があると思います」
入鹿「まぁ、事実は今後明らかにされていくと思うけど、彼女のコメントは夫を庇っているとか、自分を蚊帳の外に置きたいという印象を与えるから、社会の処罰感情を解消する効果は低いわね」
平目「なるほど! そういえばそうですね。仰る通りです。私は敢えて夫に対する厳しい言葉や、自責の念を感じさせる言葉を発するべきだったと思います」
多古(ピント外れで軽率且つ未熟な男性新入社員)「『もう夫を信じられなくなりました。夫を監視しなかった私も悪いんです』とかですか?」
倉華「そこまで言わなくても、『私は政府の成長戦略会議で太陽光発電事業を推してきました。その分野で夫が起訴されるなんて慙愧に堪えません』とか」
入鹿「そのコメント、良いわね。でも、その前にコメントだけにするのか、記者会見を開くのか。それを決めなければいけないと思わない?」
多古「先日教えていただいた“謝・調・原・改・処”を順番に語るんですね」
平目「それを語るべきは瑠麗さんじゃなくて、夫だと思うがね」
倉華「瑠麗さんはマスコミに頻繁に登場してきた方ですから、記者会見を開いて説明責任を果たすべきだと思います。マスコミ出演でメリットを得てきた人が、デメリットのある時に逃げるのは身勝手だと思われますので」
平目「でも、東京地検特捜部の捜査を受けて、これから裁判が始まる中で色々語るのは如何なものかな?」
倉華「夫の会社経営には全く関与していないっていうのが本当なら、瑠麗さんの発言は捜査や裁判には影響が出ないんじゃないでしょうか」
入鹿「倉華さんは瑠麗さんに反感を抱いているのね。そんな倉華さんの処罰感情を鎮めるには、どんな言葉が効果的なのかしら?」
平目「確かに…。処罰感情を鎮めるという意味では、独白という一方的な情報開示よりも、きちんと質問を受ける形の会見を開くべきですね」
入鹿「そうね。会見は針の筵のようつらいけど、一つの社会的制裁を受けたことにはなるわね」
多古「でも、発言の内容によっては、火に油を注ぐことになりませんか?」
平目「それもそうだね。月刊誌のような内容を会見で語ったら、会見場は大炎上するかもしれないね。かといって夫の悪口を言うのも違うだろうし…。難しいね」
倉華「瑠麗さんの子供にとっては大切な父親ですから、人間としての夫を批判するんじゃなくて、犯した罪のほうを非難する言葉がいいと思います」
多古「“罪を憎んで人を憎まず”ですね」
平目「それなら、『夫が横領の罪で世間をお騒がせして申し訳ありません。しかし、可愛い我が子の父親ですから、見捨てるわけにはいかないのです。陰ながら支えていきたいと思います』かな?」
倉華「『お騒がせして…』なんて言ったら、逆に処罰感情が高まってしまいますよ。発生させたことでなく、発覚したことを詫びているだけですから」
入鹿「うちの社員が顧客のお金を横領して逮捕されたら、どんなコメントを出すといいと思う?」
多古「『会社は横領事件には関与しておりません』でしょうか?」
倉華「それじゃ瑠麗さんと一緒じゃない!」
平目「部長、頓珍漢で申し訳ありません。そろそろ正解を教えて下さい」
入鹿「内助は“功”ではなく“巧”、巧みさが大切なの。だから、ガス抜きの言葉が必要ね。『起訴後の有罪率が高い日本において、夫が起訴されたことに打ちのめされております。この容疑が事実ならば、不法行為を察知できなかったことに、強い自責の念を感じ、悔やんでいます。夫には真実を語ってもらいたいと思っております』とかね」
倉華「あぁ、それなら罰を受けている印象がありますね」
多古「罰なら夫は受けていますよ。女性誌が、瑠麗さんの、夫以外の男性との腕組みデートを報じていましたから。あれで同情が集まって、少しは夫への処罰感情が収まるかも知れませんね」
倉華「何言ってんの! 瑠麗さんへの処罰感情が高まっただけでしょ」
田中優介(たなか・ゆうすけ) 『リスクヘッジ』代表取締役・岐阜女子大学特任准教授。1987年、東京都生まれ。明治大学法学部法律学科を卒業後、『セイコーウオッチ』に入社。お客様相談室や広報部等に勤務後、2014年にリスクヘッジ入社。企業の危機管理コンサルティングに従事。著書に『スキャンダル除染請負人 疑似体験ノベル危機管理』(プレジデント社)・『地雷を踏むな 大人のための危機突破術』『その対応では会社が傾く プロが教える危機管理教室』(弊社刊)。

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