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【農協と郵政・昭和型組織の末路】(14) 日本郵政に迫る“750億円減損リスク”…楽天とのチグハグ提携の末路

『日本郵政』は『楽天グループ』を事業のてこ入れ等のパートナーとして選び、出資した。だが、楽天の携帯電話事業や宅配等において、日本郵政の力を最大限に引き出す協力体制を築けていない。

20230529 03
日本郵政グループは旧郵政省が母体となっているだけあって、その組織風土は“減点主義”の官僚機構に近い。だがその半面、数年に一度、トップダウンで電撃的に大型提携に乗り出す“癖”がある。“癖”とネガティブな書き方をしたのは、既に一度、巨額損失を出す失敗をやらかしているからだ。2015年に6200億円を投じた、オーストラリアの物流会社『トールホールディングス』の買収がそれである。海外での物流事業の知見がない日本郵政は、トールの経営陣をグリップできず、収益を改善できなかった。結果的に、2016年度に特別損失4003億円を、2021年度に同674億円を計上するに至った。失敗の主因は、買収当時、日本郵政社長の座にあった西室泰三氏が、十分な資産評価等をせずに巨額買収に突き進んだことだった。そして現在、トール買収の“二の舞”になりかねない巨額損失リスク案件が、日本郵政で進んでいる。楽天グループとの資本提携がそうだ。日本郵政が楽天に1500億円を出資したのは昨年3月のこと。それから1年半――。楽天の株価は出資当時(※1株1367円)から半値程度の水準まで下落している。企業会計では、保有する有価証券の時価が取得原価の50%以下に目減りした場合、減損処理を迫られる。日本郵政が楽天に出資した際の株式取得単価が1株1145円(※楽天が公表した第三者割当増資の募集価額)とすると、その半値である572.5円を時価が下回れば、減損損失の計上を余儀なくされる。減損の額は出資額の半分に当たる750億円に上る。こうした巨額減損リスクに晒されているのだから、日本郵政が楽天に出資したメリットが一つぐらいあってもよさそうなものだ。しかし、現時点で希望が持てそうな協業案件は見られない。両社の提携に暗雲が垂れ込めているのだ。

その最大の要因が、提携の柱である物流事業での協業だ。これまで楽天は、EC『楽天市場』の物流網を自社で構築しようと、8つの物流センターを建設してきた。だが、同センターの運営事業は収益性でも将来性でも行き詰まっていた。楽天は物流網の構築計画を撤回し、日本郵政に下駄を預けることにした。こうして設立されたのが『JP楽天ロジスティクス』(※株主構成は日本郵政グループで物流を担う日本郵便50.1%、楽天49.9%)だ。同社は、楽天の“ECの物量”と“自前の物流センター”に、日本郵政のリソースを掛け合わせて競争力のある物流代行サービスを生み出そうとしたが、その構想は絵に描いた餅に終わりそうだ。ビジネスモデルからすれば、楽天市場の出店者の大部分がJP楽天ロジスティクスによる物流代行サービスを使うようにならなければ、収益化は難しい。だが、「現状では同社の物流代行サービスの利用者は、出店者の2割以下にとどまる」(同社に詳しい物流企業幹部)とみられる。本来、JP楽天ロジスティクスの設立を機に、思い切った投資と価格改定を行なって出店者の利用率を高める必要があったが、現状は低水準のままなのだ。日本郵政側にも問題がある。『日本郵便』は宅配の配送を8割以上外部委託している為、宅配の知見が蓄積し難い。況して、物流センターを運営するノウハウはなく、楽天出身の社員に任せざるを得ない。結果的に、日本郵便はJP楽天ロジスティクスの主導権を楽天に握られている。「楽天本体との連絡窓口は楽天出身のJP楽天ロジスティクス社員が行なっており、日本郵便はきちんと関与できていない」(同)。子会社の事業をグリップできず、巨額損失を出したトール買収の失敗に酷似した構図だ。楽天の資本提携のもう一つの柱、携帯電話事業(※『楽天モバイル』事業)での協業も上手くいっているとは言い難い。楽天の株価下落の主因となっている楽天モバイルの収益改善は、減損リスクに直面している日本郵政の切なる願いだ。しかし、楽天モバイルに追い風を吹かせられるほど貢献できていないのも事実なのだ。というのも、楽天モバイルの申し込み受け付けは、ほんの一部の郵便局でしか行なわれていない。郵便局には大型の単独マネジメント局(※単マネ)と、小規模なエリアマネジメント局(※エリマネ)があるが、楽天モバイルの申し込みブースは単マネ281局、エリマネ6局にしかない。申し込み受け付け実施率は単マネで全体の23%、エリマネは0.03%しかない。実は、前述のJP楽天ロジスティクスの事業にも、エリマネは殆ど関わっていない。日本郵便関係者は、「楽天との協業において、エリマネは蚊帳の外だ。日本郵政のリソースを上手く投入できておらず、中途半端だ」と話す。日本郵政グループの社長がトップダウンで決断した巨額投資の失敗が繰り返されるのか。そうなれば、日本郵政は“過去の教訓を生かせない組織”の烙印を押されてしまう。経営へのダメージは、750億円の減損だけでは済まされない。


キャプチャ  2022年11月5日号掲載
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テーマ : 経済ニュース
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