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【中小企業のリアル】(59) カジワラ(東京都台東区)――食品加工機械で美味しさ求め



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「『この機械が完成したら俺に売ってくれ』と言ってくれた客がいて、開発に弾みがつきました。かっぱ橋ならではです」と語るのは、東京のかっぱ橋道具街の中央に本社を構える『カジワラ』の梶原徳二会長だ。飲食店が必要とする道具を売る店ばかり凡そ170軒が軒を並べるこの町で、1960年に焦げない餡練り機を開発し、以来、食品加工機械に注力してきた。カジワラは1939年、徳二会長の父で町工場の職人だった保男氏が独立したのが始まりだ。元々は蒲鉾製造用の小型のチョッパー(※魚肉を挽く機械)や魚肉撹拌機等、蒲鉾機械の修理が中心だった。当時の町工場では家族全員が働くのが当たり前で、徳二会長も中学生の頃からチョッパーの刃をみかん箱に入れて、赤羽橋(※東京都港区)周辺の浸炭焼き入れ屋に運んでいた。父親が“機械の病院”という看板を出していたので、色々な修理の依頼があったが、菓子職人から「これからは菓子の需要が増える」と、菓子用の餡を製造する機械の改良を頼まれたことから、菓子関係機械の製造と修理に特化することになった。当時の餡練り機は練っていると中心部が焦げることが多く、有名菓子店の餡練りは職人の名人芸に頼っていた。職人たちは小豆の細胞を壊さないように潰して砂糖と混ぜる為、へらを立てたり寝かせたりして鍋に密着した餡を掻き取っていた。徳二会長は、この動きを研究・工夫して、小豆を攪拌する羽根を自転公転させることを考えついた。「鍋の底に密着している部分も掻き取るには、羽根の回転軸を伸縮させればいい」と思いついたが、実際にどうすればいいか工夫することは非常に難しい。

悩んでいたある日、父が大八車で機械を運んでいる夢を見た。それがヒントになって、羽根の回転軸の中にローラーを入れて上下にスライドさせるアイデアを思いついた。完成した第一号機の価格は、これまでの餡練り機の3倍ぐらいになったが、冒頭に書いた試作品づくりを偶々目にして興味を持った和菓子屋が購入してくれた。実は徳二会長には長兄がいたので、家業を継ぐことは全く考えていなかった。大学は一橋大学商学部に入学。外交官になりたいと、3年生で法学部に転部。外交官試験に合格したものの、結核が見つかり、緊急避難的に家業に関わることになった。因みに故・石原慎太郎氏とは同窓で仲が良く、氏の都知事時代には徳二会長は中小企業関係施策のモニター役(※実質的ブレーン)だった。徳二会長の画期的な開発は、食品機械業界に大きな衝撃を与えた。1964年に『煮炊攪拌機』の名前で特許を取得。御法川発明賞と通産大臣賞を受賞した。世の中になかったものを作った喜びと、それが評価されたという満足感で、会社は大いに活気づいた。煮炊撹拌機の名称は、将来の市場を直感したからだ。「当初、営業担当は『そんな高いものは絶対売れない』と反対しましたが、結果的には成功しました。その後、菓子以外の業界にも浸透し、ジャムやカレールー等加熱攪拌を必要とする多くの調理加工食品に使用され、機種の開発も進み、マーケットが大きく広がったんです」(徳二会長)。1970年には更にハイスピードで、攪拌する軌跡も非常に複雑な、世界初の混合攪拌機を完成した。元々文科系の徳二会長だが、理科系の嗅覚も並大抵ではない。ヨーロッパに視察に行った時は、銅鍋にステンレスを溶接している製品を発見した。銅鍋は熱伝導率が高いが、耐熱性や衛生面ではステンレスが優っている。「これなら錆びない銅鍋が作れる!」と、日本でも銅とステンレスの溶接を実現しようと、日本大学生産工学部の教授に助っ人を頼んで研究し実現。これも世間をアッと言わせた。現社長の秀浩氏は1983年に入社し、父である徳二会長の右腕となった。会社の業務に役立ちそうなものを発見するのが得意で、商品開発や市場開拓に携わってきた。漫画コラムニスト・夏目房之介さんのファンで、カジワラの忍者のキャラクターを作ってもらった。カジワラ(=忍者)は表に出ず、裏で大きな役割を果たす…という意味を込めている。「海外の巨大展示会を見て、そのスケールに仰天し、『我が社も絶対出展しなくては』と思いました。また、海外の他社から、我が社の製品が食品だけではなく、化粧品や化学薬品にも使えるという示唆を受け、なるほどと納得しました」(秀浩社長)。埼玉県八潮市にある『カジワラカスタマーセンター』は、顧客が材料を持ち込んでカジワラの機械を利用し、試作する場所だ。機械を見てもらい、実験してもらい、機械の利用法の講習会も開く…という総合施設で、2004年の設立。海外展示会等、数多くの視察経験を持つ秀浩社長ならではの発想だ。「私が社長を引き継いだ途端にリーマンショックが来た。約3ヵ月間は仕事が少なく、お得意さんの機械のメインテナンスをして歩きました。おかげで赤字にならずに済んだし、次に何をやるかを考える良いチャンスになりました」(秀浩社長)。

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後継者育成も独特だ。これからは海外展開がポイントと考え、息子は中学校からイギリスの全寮制学校に入れ、大学はオーストラリアで機械工学を学ばせた。日本の心を忘れないように、休暇で帰国した時は一緒に日本の小説を音読した。カジワラの基本理念は“より多くの人々により美味しい幸せ”。実は、食品が一番美味しくなる調理法は、素材毎に異なる。その為、長年に亘り顧客企業と共同研究を重ね、美味しさをワンランク上げる為の技術革新を進めてきた。カジワラでは、自分達の機械づくりを“フードメーション”と呼ぶ。単なる量産化の為でなく、味づくりのキーポイントがどこにあるのか、経験に科学という視点を加え、複雑な加工プロセスを数値で解きほぐしながら開発設計するという意味だ。「会社は社員一人ひとりの力が強くないといけない。しかし、それだけでは十分ではない。社員皆が同じ目標に向かって連帯している感覚が大事」と考える秀浩社長は、社員研修や会社行事にも力を注いでいる。新人合宿研修の後は『カジワラ技塾』という社内スクールで、技術職も営業職も約3週間に亘って、機械・電気の基礎知識、工具の使い方等のものづくりの基本を覚えていく。こうした経験を一緒に積み、繋がりを生むことが会社の力を高める。「現在、特に力を入れているのは加熱調理。高周波加熱、マイクロウェーブ加熱、急速冷却、真空脱水等々の最近の技術進歩をどう応用していくか、考えればまだまだ面白いものがいっぱいあります」と、秀浩社長は目を輝かせている。


橋本久義(はしもと・ひさよし) 政策研究大学院大学名誉教授。1945年、福井県生まれ。東京大学工学部卒業後、通商産業省(※現在の経済産業省)に入省。情報産業局鋳鍛造課長や中小企業庁技術課長等を経て、1994年8月に埼玉大学教授。1997年10月より政策研究大学院大学教授。著書に『今世紀最後の好景気始動 JIS儒教精神が不況を救う』(かんき出版)・『中小企業が滅びれば日本経済も滅びる』(PHP研究所)等。


キャプチャ  2023年4月号掲載
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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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