【劇場漫才師の流儀】(264) 出番と出番の合間時間
漫才師としてデビューして、もう50年近くなるんですけど、未だに苦手なものがあります。それは、舞台出番の空き時間の過ごし方です。出番と出番の間の時間が大体3時間くらいありまして、この時間の使い方が未だにわからないんです。2回公演の日とかなら合間は1回だけなので未だいいんですけど、コロナ禍が明けてからというもの、土曜日の『なんばグランド花月(NGK)』の通常公演は4回公演が当たり前になっています。4回公演の日は、4回漫才をやるのも大変なのですが、それ以上に、3回もある合間の時間を過ごさなければならないのが大変。「何して過ごせばいいんやろ…」と毎回悩むんです。勿論、それだけ出番を頂けるのは、とてもありがたいことなのですが。一番苦労するのは食事です。3回公演の日だったら、1回目が終わった後が丁度昼時だったりするので、外に食べに行けるんですけど、4回公演となると抑も合間の時間が短くなるんです。そうなると、外で食べられないんですよね。出前が好きな人もいますが、僕は外に出て食べるほうが好きなんです。気分転換にもなりますし。でも、土曜日のNGK周辺は人出が半端ないですから。飲食店もごった返していますしね。なので、コンビニでインスタントラーメンとおにぎりを買ってくる…みたいなお手軽な食事になりがちなんです。
あと、晩ご飯は家でゆっくり食べたいんですけど、4回公演の日は帰ったら夜の9時半とか10時になっているんでね。うどんとかお茶漬けをさらっと食べる程度しかできない。他の芸人さんはどうしているのかな。意外と他の人が空き時間をどう使っているか、知らないもんなんですよね。阪神君は寝ている時以外は、よう外に出ていくんですよ。恐らくパチンコをしているんでしょうね。西川のりおさんは大体、家に帰っていますね。家から劇場までが近いと、そういうこともできるのがいいですよね。僕は漫才が終わる度に舞台衣装のスーツを脱ぐんですが、のりおさんはスーツを着たまま楽屋入りして、その格好のまま帰っちゃう。それも家と劇場が近いからできるんでしょうね。あるベテラン漫才師の方は、出番が多い日には近所のホテルに部屋を取っていましたね。それもいいですよね。ゆっくりテレビも見られますし、シャワーを浴びることもできますし。僕は食事以外となると、ロビーでテレビを見ていることが一番多いかな。ただ、オリンピックとか高校野球とか相撲とか、何かスポーツがやっている時期はいいんですけど、そうでないと見るものがなくて結局困っちゃうんです。あっ、でも最近になって、やっとひとつ新たな時間の過ごし方を覚えました。非常階段に出て、深呼吸をしながら人の流れを上からウォッチングするんです。でも、それも直ぐ終わっちゃうんでね…。何か良いアイデアはないですかね。こんなことに50年近く悩んでいるとは、人間、中々成長しないもんですね。 (聞き手・構成/ノンフィクションライター 中村計)
オール巨人(おーる・きょじん) 漫才コンビ『オール阪神・巨人』のボケ担当。1951年、大阪府生まれ。大阪商業高校卒業後、1974年7月に『吉本新喜劇』の岡八朗に弟子入り。翌1975年4月に素人演芸番組の常連だったオール阪神とコンビを結成。正統派漫才師として不動の地位を保つ。著書に『師弟 吉本新喜劇・岡八朗師匠と歩んだ31年』・『さいなら!C型肝炎 漫才師として舞台に立ちながら、治療に挑んだ500日の記録』(ワニブックス)。近著に『漫才論 僕が出会った素晴らしき芸人たち』(ヨシモトブックス)。
2023年6月5日号掲載
あと、晩ご飯は家でゆっくり食べたいんですけど、4回公演の日は帰ったら夜の9時半とか10時になっているんでね。うどんとかお茶漬けをさらっと食べる程度しかできない。他の芸人さんはどうしているのかな。意外と他の人が空き時間をどう使っているか、知らないもんなんですよね。阪神君は寝ている時以外は、よう外に出ていくんですよ。恐らくパチンコをしているんでしょうね。西川のりおさんは大体、家に帰っていますね。家から劇場までが近いと、そういうこともできるのがいいですよね。僕は漫才が終わる度に舞台衣装のスーツを脱ぐんですが、のりおさんはスーツを着たまま楽屋入りして、その格好のまま帰っちゃう。それも家と劇場が近いからできるんでしょうね。あるベテラン漫才師の方は、出番が多い日には近所のホテルに部屋を取っていましたね。それもいいですよね。ゆっくりテレビも見られますし、シャワーを浴びることもできますし。僕は食事以外となると、ロビーでテレビを見ていることが一番多いかな。ただ、オリンピックとか高校野球とか相撲とか、何かスポーツがやっている時期はいいんですけど、そうでないと見るものがなくて結局困っちゃうんです。あっ、でも最近になって、やっとひとつ新たな時間の過ごし方を覚えました。非常階段に出て、深呼吸をしながら人の流れを上からウォッチングするんです。でも、それも直ぐ終わっちゃうんでね…。何か良いアイデアはないですかね。こんなことに50年近く悩んでいるとは、人間、中々成長しないもんですね。 (聞き手・構成/ノンフィクションライター 中村計)
オール巨人(おーる・きょじん) 漫才コンビ『オール阪神・巨人』のボケ担当。1951年、大阪府生まれ。大阪商業高校卒業後、1974年7月に『吉本新喜劇』の岡八朗に弟子入り。翌1975年4月に素人演芸番組の常連だったオール阪神とコンビを結成。正統派漫才師として不動の地位を保つ。著書に『師弟 吉本新喜劇・岡八朗師匠と歩んだ31年』・『さいなら!C型肝炎 漫才師として舞台に立ちながら、治療に挑んだ500日の記録』(ワニブックス)。近著に『漫才論 僕が出会った素晴らしき芸人たち』(ヨシモトブックス)。

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