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【ニュースの“B面”を追え!】(06) “官製婚活”は試行錯誤

20230602 06
結婚せず、子供はいない…。その生き方を良しとしない空気があるような気がする。そんなことを同世代と語り合っていたアラフォー記者は、『ツイッター』である投稿を見つけた。「結婚等に対する強迫観念を排除していきます」。そう呟いたのは広島県安芸高田市の市長。少子化対策として、2代前の市長が始めた結婚支援事業の廃止についての説明だ。市長は記者と同世代。呟きの背景を知りたくて、取材を始めた。昨年11月、出張で上京した石丸伸二市長(40)に真意を聞いた。「結婚推奨は少子化対策にならない。日本より出生率が高い欧州は婚外子の割合も高い」。元銀行員の市長は、男女の結婚を起点とする少子化対策を論立てて批判した。更に、こう続ける。「結婚というプライベートに行政が介入すべきでない。結婚が正しいとの価値観の押し付けになる」。多様性を受け入れようという今の時代に合わない、との主張だ。市長が2021年に廃止したのは、どんな事業だったのか。東京から新幹線で広島市に向かい、40㎞ほど車を走らせると、山々に囲まれた安芸高田市に到着した。「大学に進んだ子は出会いがあるけど、ここで働いていると本当にない。事業は残せばいいのに」(19歳・会社員女性)。「結婚に興味はない。税金がかかる事業ならやらなくていい」(38歳・林業男性)。道の駅で尋ねると、事業廃止への受け止め方は様々だった。市によると、12年間続いた事業で59組が結婚に至った。事業費は総額約4600万円。市認定の20人程の結婚コーディネーターが年3回イベントを催し、お見合いもセッティングする。コーディネーターは月1回の会議出席で日当を受け取り、結婚に至れば報奨金30万円が貰える。「結婚式に手ぶらじゃ行けんし、子供が生まれたらお祝い。収支はトントンとちょっとくらい。『2人目が生まれました』なんて年賀状が嬉しくてね」。コーディネーターの連絡会議で会長を務めた吉田修さん(76)は、そう懐かしむ。

10人の元コーディネーターに話を聞いて回ると、一様に事業廃止を残念がった。同時に聞かれたのは、参加者集めの苦労だった。元々、女性が集まり難い上、男性の顔ぶれも固定化していく。そんな中、複数のコーディネーターが「指輪をはめていない人を見つけたら登録させていた」「婚活に興味がないのに来た女性もいたかもしれない」「外国人の女性も参加していた」と口にした。吉田さんを再び訪ねて聞くと、「『(女性の参加者が少ないと)かっこつかんけぇ、日本人でなくてもいいけ頼むわ』と(外国人と親しい人に)頼んでいた」と明かす。開発途上国の人材育成支援名目で来日した技能実習生の女性も、イベントに参加していたという。過去に実習生を雇用していた男性は、こう打ち明けた。「うちの実習生も参加していたのは確か。でも、結婚する気はなかったですね」。歪みも生じていた事業だったが、今は元コーディネーター達の中で無償で無理のない形で復活させようとする動きもある。抑も、何故“官製婚活”は盛んになったのか。国の予算で2013年度補正に地域少子化対策強化交付金として初めて結婚支援が登場し、自治体の事業を後押しするようになった。内閣府によると、2000年以前に結婚支援事業を始めた市区町村は172だったが、昨年度調査で婚活イベントを過去も含めて行なったのは1034に上った。内閣府の担当者は、「事業の効果について出せるデータはない」と答える。国の交付金を使って結婚支援をしている自治体の一つに、隣県・岡山県の奈義町がある。1人の女性が生涯に産む子供の数に相当する合計特殊出生率を、1.41(※2005年)から2.95(※2019年)に伸ばしたことで、“奇跡のまち”と呼ばれる。結婚支援事業が功を奏したのか。「効果は殆ど…」。奥正親町長は苦笑交じりに言った。10年以上続く町の結婚支援事業で結婚したのは3組程。高校も駅も産婦人科もない中、就学支援や育児サポート等で子育て世代の安心感を高めた結果が、出生率の伸びに繋がったと説明する。ただ、町の人口は5759人(※昨年12月)。2000年から1000人近く減った。進学、就職、結婚を機に町を出る若者は依然として多く、若者を繋ぎ留め呼び込まなければ、高出生率を維持できても人口減は続くとみている。そんな中、結婚支援事業も変化しつつある。これまで民間業者に婚活パーティー開催等を委託してきたが、結婚が前面に出ると参加を敬遠されるようになった。昨年秋に開催されたイベントは、業者を通さずに参加者自らが企画し、縁日をテーマにした。参加した実村紗奈さん(29)は、「お見合いパーティーと言われると参加し難い。文化祭みたいに皆でやると他の人のこともわかるし、これくらいがいいのかも」と実感を込めて言う。一方で、結婚支援を一旦は廃止しながら、復活を視野に入れている自治体もある。千葉県香取市は“縁結び大作戦”と名付け、8年余り続いたイベント開催を2019年に「コストパフォーマンスが悪い」として廃止した。ただ、人口減に歯止めがかからず、昨年秋の市議会で市議が復活を求めると、市側は新たな結婚支援に前向きな姿勢を見せた。12月中旬、記者は長閑な田園風景が広がる香取市を訪ね、話を聞いて回った。ある市議は「大作戦の廃止を残念がる声が多い」と話した。自治体が結婚支援をする目的については、「ただ仲良しになればいいわけじゃない。産んでもらわないと困る」と少子化対策であることを強調した。30代後半の独身男性は、大作戦に数回参加した。結婚のきっかけとして近年増えているマッチングアプリも利用したものの、香取に住もうという女性とは出会えなかったといい、「田舎に住み続ける男にアプリは向かない。婚活イベントはありがたい」と話す。ただ、「結婚しないと自分がだめなのかなという雰囲気があるじゃないですか。そう考え出すとつらい」とこぼした。大作戦で約10年前に結婚し、子育て中という40代の夫婦がいた。事業の廃止について聞くと、夫は「時代だな」とぽつりと呟き、続けた。「私と妻にはありがたかった。でも、自治体からの結婚の押し付けだって言われたら、廃止もしょうがない」。 (取材・文/社会部 山田奈緒・渡辺暢) =おわり


キャプチャ  2023年1月7日付掲載
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テーマ : 社会ニュース
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Author:George Clooney

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