【熱狂!アニメビジネス最前線】(03) 「人を雇用し、育てなければ、アニメ制作はダメになる」――川口典孝氏(『コミックスウェーブフィルム』代表)インタビュー

20170502 04

ヒットが相次ぐのは偶然ではない。ヒット作を仕掛けたキーマンには、緻密な戦略と強烈な危機感があった。誰も予見できなかったマグナムショットである。新海誠監督の映画『君の名は。』(東宝)は、公開から7ヵ月近く経った今もロングラン上映中で、興行収入は246億円に達した。この実績は、国内のアニメ映画としては、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(東宝)に次ぐ2位。映画全体でも、『千と千尋の神隠し』・『タイタニック』(20世紀フォックス)・『アナと雪の女王』(ウォルトディズニースタジオモーションピクチャーズ)を追う歴代4位だ。「20億円は行くと思ったが、ここまでは予想しなかった。未だ夢の中にいるようだ」。そう語るのは、同作を制作した『コミックスウェーブフィルム』の川口典孝代表。「何故成功したのか、正直言ってわからない。だが、このヒットで得た収益を何に使うべきかは、僕にとっては極めてクリアだ」。2007年設立の同社は、社員数40人余りの小さなスタジオだ。それが今春、社員を一挙に15人採用する。同業他社から転職してくる中堅アニメーターもいるが、大半は新人。直ぐには戦力にならず、当面はコストをかけて育成せざるを得ない。つまり、人への投資が儲けの使途なのだ。「新海はもう飛び立った。それより今は業界が危うい」。アニメ市場が2兆円規模に膨らみ、外資が流れ込んでも、制作現場は一向に潤わない。限られた制作費で作品を作る為、低賃金と長時間労働が蔓延る。新人の8割が疲弊して、数年で業界を去っていく。「きちんとコストをかけて人を雇用し、育てなければ、どんなに市場が膨らんでも、日本のアニメ制作は早晩ダメになる」。川口氏は危機感を募らせる。同業の多くはプロデューサー・監督・経理担当程度しか雇用せず、アニメーターは業務委託でかき集めている。これに対してコミックスは、アニメーターから美術・デザインスタッフまで、制作本数に比して多くの社員を抱える。この高固定費を可能にしているのは、新海作品の安定的なヒットであり、更にそれを支える特異な経営手法だ。コミックスは制作だけでなく、自社で劇場配給からDVD販売まで手掛ける。ヒットに伴う収益を総取りでき、制作費だけを収益源とする同業より稼ぐ力がある。また、製作委員会に出資して幹事会社を務めており(※『君の名は。』では東宝)、制作やPRを巡る重要な意思決定において、クリエイターの意見が尊重され易い環境を整えている。ただ、このスタイルは先行投資が必要になる為、手元に資金が無ければ不可能だ。このファイナンス面で、川口氏はプロデューサーとして優れた手腕を発揮してきた。

川口氏は1993年に青山学院大学を卒業し、『伊藤忠商事』へ入社。コンテンツ事業部に配属され、出資先だったコミックスの前身企業に出向する。そこで新海氏に巡り合い、才能に惚れ込んだ。だが、監督デビュー作『ほしのこえ』(MANGAZOO.COM)は、無名の新人の作品としてテレビ局等では門前払い。自社でDVDを製作・販売せざるを得なかった。『秒速5センチメートル』(コミックスウェーブ)を公開する時点で、川口氏は「新海作品を世界に飛び立たせる」と決意。金融機関等から1億4000万円を個人名義で借り入れて、前身企業のマネジメントバイアウト(MBO)を行い、コミックスを立ち上げた。高給の商社マンという身分を捨てての賭けだ。MBOから3年過ぎると、銀行から運転資金の借り入れを始め、5年目には3億円の融資を獲得した。小額を借りては返し、融資実績を積み上げて信用を得るという、一般企業では常識の地道な努力。何かあれば返済を迫られるカネだが、借り入れ自体が難しい同業が多い中、自転車操業の不安は小さくなった。3億円というのは、製作委員会方式で資金調達せずとも、映画を1本作れる最低限の額である。新海氏が好きな映画を作れるよう、3億円を常に会社に蓄えておく必要があるのだという。「年500万円の金利がかかるが、理想的な制作環境を作る為の必要経費だ」(川口氏)。監督が誰の意向にも振り回されず制作に没頭するには、プロデューサーを筆頭とするチームの情熱が勿論必要だ。だが、それと同等に、外部に口を出させないだけの経済的自立も必要。制作現場からの叩き上げプロデューサーが多い業界では、忘れられがちな現実だ。「監督もアニメーターも、現場は良い作品を作ることしか考えていない。その純粋さに接していると、こっちも打算が無くなる。だから、僕は経営者として、カネを出す“大人”にハードネゴシエーションをする」。交渉の中で最も折り合わないのが、テレビアニメの制作費。川口氏が求める額は、30分アニメ1話で4000万円と、相場の倍以上だ。「経営者として利益を出し、若い世代に賃金を払って育てることを前提にすれば、この額でないと成立しない。業界相場の1500万円なんて破格に安い。だから、現場のコストを法外に下げないと回らない」。この額を聞いて、多くの製作関係者が「冗談でしょう」と言って去るから、テレビ作品が中々実現しない。映画史に残る成功の裏側には、大胆なリスクテイクと、業界の常識への挑戦があった。「アニメーターを豊かにする方法はある」――。川口氏はそう信じ、次の挑戦に踏み出した。 (聞き手・構成/本誌 杉本りうこ・宇都宮徹)


キャプチャ  2017年4月1日号掲載

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