【電通の教訓】(中) 働き方改革、阻む“社風”

20170502 06
「過重労働には大きな損失のリスクが潜んでいる」――。講師がこう切り出すと、約100人の企業の労務担当者らが真剣な表情でノートにペンを走らせた。先月上旬、東京都主催の過重労働防止をテーマとしたセミナー。募集開始から僅か1週間という異例の早さで定員に達し、担当者も関心の高さに驚いた。セミナーでは、労働基準監督署で勤務経験のある講師が、「悪質な違反事案では企業名の公表や送検される恐れがある」等と説明。参加した大手小売りチェーンの労務担当者は、「うちもバリバリ働く社風だが、『変わらなければいけない』という意識が強くなった」と話した。ただ、中には「危機感はあるが、何から改善すればいいのかわからない」(運送会社の人事担当者)等と、戸惑いの表情を見せる参加者もいた。社員の過労自殺や杜撰な労働時間の管理が、トップの引責辞任にまで発展した大手広告代理店『電通』の違法残業事件を目の当たりにした経済界では、企業の自主的な働き方改革が加速している。「19時以降の残業の原則禁止」。今月から大胆な労働時間の短縮を始めた『三井住友海上火災保険』では、広報担当者が「難しい決断だったが、電通事件以降の世論の高まりに後押しされた」と説明する。家具製造販売大手の『ニトリホールディングス』も、退社から出勤まで10時間以上空ける“インターバル規制”の導入を決定。

今年の春闘では、会社側が「長時間労働の是正に取り組む」と回答したのは109組合で、前年の約3倍(※先月末現在)に上った。しかし、長年の長時間労働の体質を変えるのは容易ではない。電通では1991年にも、入社2年目の男性社員(当時24)が過労自殺。遺族が起こした損害賠償請求訴訟で2000年に和解する際、電通側は「事件を反省し、不幸な出来事が起こらないよう努力する」と謝罪したが、悲劇は繰り返された。何故、電通の体質は変わらなかったのか――。「過度の精神主義を武器に、広告業界で天下を取った。その成功体験を経営陣が捨てられなかったことが原因」。そう指摘するのは、過労自殺した高橋まつりさん(当時24)の労災申請で、高橋さんの母・幸美さんの代理人を務めた川人博弁護士だ。電通は戦後、“広告の鬼”と呼ばれた吉田秀雄社長(当時)が社員の心得“鬼十則”を作成。「取り組んだら“放すな”、殺されても放すな、目的完遂までは…」。身を粉にして働く精神が原動力となり、電通は連結売上高約5兆円という世界有数の広告会社に成長した。数年前、体調を崩して退社した30代の元社員は、「完璧な仕事をして当然。中途半端な仕事を残すのは“生き恥”という風潮があった」と振り返る。石井直前社長も昨年末の辞任表明会見で、「クオリティー志向やプロ意識が過剰だった」と企業風土を反省。変革に向けて、22時の全館消灯や人員の増強等、矢継ぎ早に長時間労働の是正策を打ち出した。「企業が労働者の長時間労働で成長する時代は終わった」と言い切る『日本総合研究所』調査部の山田久部長は、読売新聞の取材にこう続けた。「労働人口が減少する中、労働時間を短縮して生産性を高める努力をしなければ企業の発展は難しいことを、今回の事件は示した」。


⦿読売新聞 2017年4月27日付掲載⦿
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