【電通の教訓】(下) 過剰サービス見直す時

20170502 07
「お客様は神様です」――。嘗て、昭和の演歌歌手が聴衆に感謝の気持ちを込めて、笑顔でそう語っていたが、大手広告代理店『電通』ではまさに、顧客企業が絶対的な存在だった。ある男性社員は数年前、企業との打ち合わせで、提案したテレビCMの企画が気に入らず、突然、担当者に激高された経験がある。「こんな内容じゃダメだ」「今直ぐ窓から飛び降りてしまえ」。人格を否定するような高圧的な物言いだったが、男性は反論したい気持ちを堪え、心の中で自らに言い聞かせた。「顧客は神様。満足してもらえるよう、ひたすら奉仕するのがうちの仕事」。深夜に顧客企業から依頼された仕事も嫌な顔をせず、朝までに仕上げる。“仕事を断らない矜持”を掲げてきた電通も、女性新入社員の過労自殺が明らかになった昨年12月以降、深夜の残業を原則禁止。それでも別の社員は、「顧客から『会社の携帯やメールが使えないなら私用を教えろ』と迫られることがある」と打ち明け、「残業を減らすといっても、我が社だけでは限界がある」と零す。厚生労働省が2015年度に民間委託で行った企業アンケート調査では、残業が発生する理由で最も多かったのが「顧客・消費者からの不規則な要望への対応」(44.5%・複数回答)だった。一般社会でも、過剰なサービスに慣れた利用者の要求が過重労働に拍車をかける。インターネット通販の拡大で荷物が急増した宅配便大手の『ヤマト運輸』も、即日配達や頻発する再配達で現場が疲弊。

昨秋に退職した元運転手の30代の男性は、「指定時間に訪問しても留守ばかりで、再配達の繰り返し。食事や休憩も取れず、限界だった」と話した。娯楽が多様化した1990年代初頭、ヤマト運輸は象徴的なテレビCMを流した。アニメでオス猫がフラフラになりながらスキーやゴルフの道具を運び、メス猫が手ぶらで楽しむ。キャッチコピーは“日本のわがまま運びます”。制作したのは電通だった。そのビジネスモデルが限界を迎えている。“顧客からの急な要望を断る”という大胆な経営方針で、全国の企業から注目される会社が福岡市にある。従業員約70人の建設機材リース会社『拓新産業』。週休2日制で、残業ゼロや有給休暇の完全消化を実現する。昨年度は、2人の採用枠に100人超の応募が殺到した。取り組みを始めたのは約30年前。大口の顧客企業への依存を止め、小口を増やして、契約が切られても影響が最小限に留まるよう工夫。藤河次宏社長(71)は、「残業ゼロを達成する秘訣は、顧客至上主義からの脱却。目先の利益を追求し、社員に無理をさせる経営は間違っている」と語る。“客の意識改革の必要性”を訴えるのは、消費生活アドバイザーで作る民間団体『サステナビリティ消費者会議』代表の古谷由紀子さん。同会議は先月、宅配業者の長時間労働を軽減する為、「再配達防止に努める企業を選ぶ」「まとめて発送を依頼する」等、利用が配慮すべき点をチェックリストに纏め、インターネット上で公開した。古谷さんは、「『現代の便利過ぎる生活は、誰かの過重労働の犠牲の上に成り立っているのかもしれない』と消費者が思いを巡らせるようになれば、きっと社会は変わる」と信じている。労働行政に詳しい早稲田大学の黒田祥子教授も、「日本社会は“おもてなし”の過当競争を見直す時期に来ている。長年染みついた体質を変えることは、1つの企業や個人ではできない難題で、国は環境作りを進め、企業や個人も意識を変える必要がある」と指摘する。

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太田雅之・田中健太郎・木村雄二が担当しました。


⦿読売新聞 2017年4月29日付掲載⦿
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