赤字路線と民鉄以上の鉄道事故件数を抱える『JR東日本』の苦悩――全路線の4割超で採算性に問題、旅客系では断トツに多い事故数

2015年3月の『北陸新幹線』の金沢延伸や、2016年3月の『北海道新幹線』の一部開業で、自社の営業エリアに絡んだ新幹線の整備が全て完了した『JR東日本』。新幹線頼みでやってきた従来型成長モデルの見直しを迫られている。旧国鉄の分割民営化で誕生してから、今月で丸30年。転機を迎えているJR東日本の今を追った。

20170502 20
「他人事ではない。うちも早急に何らかの方向性を打ち出さなければ、何れ大変なことになる」――。経営不振の続く『JR北海道』が、「単独での維持が困難」として、新たに10路線13区間での廃線、又は廃線の可能性を表明した昨年11月、JR東日本の幹部はこう呟いて、危機感を滲ませた。JR北海道が“維持困難路線”として掲げたのは、営業係数が100を大きく超え、輸送密度が概ね2000人未満の路線。つまり、100円の収入を得るのにそれ以上の費用がかかっている営業赤字の路線で、1㎞当たりの1日の平均輸送人員が2000人にも満たない路線だ。ところが、JR東日本は、その北海道を遥かに上回る数の不採算路線を抱え込んでいるのである。具体的な赤字路線数は明確ではない。JR北海道と異なり、JR東日本では路線毎の営業収支を開示していない為だ。しかし、グループ関係者によると、営業係数が100を超える路線はざっと40以上。しかもこの内、凡そ6割の路線で営業係数が200を上回っているとされている。100円稼ぐのにその倍以上もの費用がかかってしまっているという訳だ。一方、開示されている路線別利用状況をみると、輸送密度(※JR東日本では“平均通過人員”と呼んでいる)2000人未満の路線は2015年度で20路線に上り、JR北海道の2倍。旧国鉄再建法(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法)で廃止対象の基準とされた“輸送密度4000人未満”に枠を広げると、実に28路線にまで膨れ上がる。JR東日本の在来線は66路線。その4割超が採算性の問題に直面しているということになる。とりわけ「早期の抜本策が不可避」(JR筋)と取り沙汰されているのが、「事実上の破綻状態を指す」(民鉄関係者)とも言われている“輸送密度500人未満”の7路線だ。

岩手県の盛岡駅と釜石駅を結び、全路線中で輸送密度最低(248人)の山田線(※営業キロ数157.5㎞)を始め、気仙沼線(※前谷地駅~気仙沼駅・72.8㎞)・只見線(※会津若松駅~小出駅・135.2㎞)・北上線(※北上駅~横手駅・61.1㎞)・陸羽西線(※新庄駅~余目駅・43.0㎞)・花輪線(※好摩駅~大館駅・106.9㎞)・米坂線(※米沢駅~坂町駅・90.7㎞)の各線で、沿線人口の過疎化が進んでいたところに、東日本大震災の直撃等も重なって、輸送人員の落ち込みに一段と拍車がかかった。深刻なのは、何れの路線も500人割れが常態化してしまっていることだろう。2011年度以降の統計を見ても、7路線全てが5年連続500人割れ。陸羽西線と北上線に至っては、2015年度の旅客運輸収入が其々7800万円・7400万円と、1億円にさえ届かない水準だ。「営業キロ数が42.6㎞と、陸羽西線とほぼ同じ横浜線(※東神奈川駅~八王子駅)が同じ年度に稼いだカネが379億5700万円。その僅か500分の1の売り上げしかないというのだから、我が事ながら呆れ返る」。JR東日本関係者の1人も、苦笑いを隠さない。JRグループ関係者らの間で、「7路線の内、採算的に見て実は最も苦しいのでは?」とみられているのが只見線だ。2015年度の輸送密度は321人。路線ベースでは山田線や気仙沼線よりはマシとはいえ、全路線4線区からなる中で、会津川口~只見線区は何とたったの35人。500人はおろか、50人にすら達していない有り様だ。「うちが昨年12月4日で廃止に踏み切った留萌線の留萌駅~増毛駅間における輸送密度が、直近で67人。営業係数は2538だった。その留萌線よりも輸送密度が低いということは一体、どれくらいの赤字を垂れ流しているのやら…」。JR北海道幹部の1人も、皮肉交じりにこう指摘する。そんな中、毎年のように膨らみ続けているのが、線路の保守や安全・安定輸送等に関わる維持更新コストだ。2012年度に3162億円だった運輸業における維持更新投資は、2013年度に3259億円、2014年度に3365億円、2015年度に3452億円と年々増大。2016年度には3580億円に達した模様で、運輸業全体の設備投資額に占める比率は、ここ5年間で84%強から90%近くにまで跳ね上がった。在来線の老朽化が進行している上、東北・上越の両新幹線も、1982年の開業から既に35年が経って「ヨレヨレ」(業界筋)。JR東日本関係者によると、今後も維持更新投資は増加傾向か、高止まりが避けられない見通しだ。それでも、これまでのように実入りが着実に増えていくというシナリオが描けるのなら賄えよう。実際、2012年度に1兆7951億円だった運輸業収入は、2013年度に1兆8274億円、2014年度に1兆8520億円と、まさに「堅調増」(市場関係者)。北陸新幹線効果を満喫した2015年度には1兆9545億円にまで拡大し、高水準の維持更新費用を埋め切った。部門営業益もこの間、毎年度成長を遂げ、2012年度に2664億円だったそれは、2015年度には3485億円にまで増加している。だが、これからは屋台骨を支える新幹線の収益増は見込み難い。幾多の不採算路線を抱える一方、成長に向けたタマをほぼ撃ち尽くした感もある中、維持更新の為の費用をどう捻り出していくのか――。

20170502 21
冨田哲郎社長らJR東日本の首脳陣にとって悩ましく、且つ苛立たしいのは、こうした巨額の維持更新投資を重ねながらも、輸送障害事故の発生件数が尚も「殆どと言っていいほど減っていない」(幹部)ことだろう。国土交通省が取り纏めている『鉄軌道輸送の安全にかかわる情報』によると、大手民鉄15社や中小私鉄を含む2015年度の輸送障害事故の総件数は4733件で、前年度比10.5%減少した。この内、運転手等係員のミスや車両・施設のトラブル等、鉄道会社側に原因がある“部内原因”は1430件、同7.7%減っている。なのに、JR東日本は377件(※新幹線分を除く、以下同)で、同3.6%増。JRグループの旅客系6社の中では、前年度の13件が22件に増加した『JR四国』と共に、発生件数を悪化させているのだ。営業キロ数が長いこともあって、絶対数では無論、断トツだ。中でも増えたのが、車両トラブルによる事故。係員等、所謂人為的ミスによる事故発生件数は62件で、前年度の64件から減っているのに対し、車両トラブルに起因する事故は192件と、同8.5%増。国交省関係者からは、「車両設備の老朽化の進行度合いに更新投資が十分追い付いていないのではないか?」といった不信の声すら上がる。列車100万㎞走行当たりの事故件数を示す発生率の水準も高い。分母となる走行距離数自体が伸びたことで1.42%と、前年度の1.65%から改善はしたものの、気象条件が格段に厳しいJR北海道の5.21%を例外とすれば、これも旅客系で最悪だ。

国交省がこの統計を取りはじめたのは2006年度から。前年4月に起きた『JR西日本』の福知山線脱線事故がきっかけだ。JR各社とも、それが余程骨身に沁みて堪えたのだろう。統計開始時の2006年度に事故発生件数443件だったJR東日本も、暫くは順調に件数を減らし、2009年度には315件までの削減にこぎつけた。しかし、2010年度から再び増加に転じ、2012年度には400件の大台に逆戻り。その後は一進一退を繰り返している。背景として労組幹部らが指摘しているのが、膨らみ続けるコストを少しでも抑えようと、この頃から本格化させ始めたとされる修繕や検査業務等の外注化だ。これにより、一連の業務における技能やノウハウの伝承が断たれ、質が低下。思うように事故が減っていかない一因になっているのではないかという訳だ。「当時、経営陣は『部内を起因とする事故件数を3分の1にまで減らす』等と息巻いていたが、最早、絵に描いた餅。それに、国交省の統計には、列車の遅延時間が30分未満の事故や事故が発生しても、運行に特段支障が無かったものは含まれていない。これら小さなトラブルを合わせると、事故は減るどころか、寧ろ増えている感じがする」。こう漏らす関係者も少なくない。それにしても不可解なのは、事故発生件数や発生率における大手民鉄とJR東日本との圧倒的と言える差だ。2015年度における大手民鉄の事故発生件数は、15社計で僅か61件。発生率は0.19%に過ぎない。JR東日本は発生件数でその6.2倍、発生率では7.5倍だ。過去10年間の統計で見ても、大手民鉄は発生件数が70件を超えたのは、2006年度と2014年度の2回だけ。発生率も大半の年度で0.2%を下回っている。一方、JR東日本は発生件数が300件を下回った年度はゼロ。殆どの年度で発生率1.5%を超えている。JR東日本幹部の1人は、「規模で大きな格差があり、単純比較はできない」と弁明するが、2015年度の総走行距離数はJR東日本の2億6628万㎞に対し、民鉄大手15社は計3億1856万㎞。民鉄のほうが長い距離を走っているにも拘わらず、JR東日本より遥かに事故の発生が少なかったことになる。「東京、いや日本のグローバルなゲートウェイをこの地に創る」。今年2月10日に行われた起工式。冨田社長は、その意気込みをこう強調してみせた。新幹線の収益の伸びが頭打ちとなるリスクが現実のものとなりつつある中、JR東日本が次の成長のエンジンとして選んだのが都市開発事業だ。その最大の目玉が品川開発プロジェクト。品川-田町間に広がる車両基地跡地約13万㎡の再開発。1971年4月の西日暮里駅以来となる山手線と京浜東北線の新駅を開設すると共に、オフィス・住宅・ホテル・商業文化施設等からなる高層ビル7棟(※延床面積100万㎡)を建設しようというもので、このほど本格着工した。新駅は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を目途に暫定開業。“街びらき”は施設が6割程度完成する予定の2024年頃を目指し、総事業費約5000億円を投じる。更に同社では、この新駅を基点として、東京駅方面・新宿駅方面・新木場駅方面の3ルートから、『東京貨物ターミナル』を経て羽田空港に直結する地下新線も、今後10年程度をかけて整備。国際交流の拠点ともなる新たな街としていきたい考えだ。

20170502 22
だが、大手デベロッパー等の間からは「抑々、JR東日本に街づくりのノウハウなどあるのか?」(『三菱地所』関係者)として、計画に疑問の声が上がる。確かに、JR東日本はJRグループの中でも不動産開発のフロントランナーだ。ターミナル駅前等の自社用地に、オフィスビルを始めとした賃貸ビルやホテルを多数保有。駅ビル等を利用する形で、160ヵ所のショッピングセンターも運営する。昨年春には新宿駅新南口駅舎跡地を再開発、オフィスや商業施設等からなる複合ビル『JR新宿ミライナタワー』も完成させている。ただ、これまで手掛けてきたプロジェクトは何れも駅及びその周辺に限られ、案件も殆どが単発だ。「せっせとハコモノ作りに精を出してきた会社に、各施設を有機的に結び付けて、全体として1つの街に仕上げていくような芸当ができるとは思えない。下手をすると、ただ高層ビルが乱立しているだけの味気ない街並みになりかねず、それでは街づくりとは言えない」(『森ビル』関係者)という訳だろう。その点で「品川開発の成否を占う試金石になる」(『三井不動産』関係者)とみられているのが、竹芝ウォーターフロント開発だ。『ゆりかもめ』竹芝駅北側にある自社の浜松町社宅や、『劇団四季』の劇場、『シーサイドホテル芝弥生』等を取り壊し、跡地2.3万㎡を一体開発して、新劇場棟・ホテル・商業施設等が入居する高層ビルを建設するプロジェクト。2020年春から順次開業させる計画だが、不動産業界筋からは「ここで躓けば品川は規模縮小か、単独事業から共同事業への移行を余儀なくされる可能性もある」との観測も飛ぶ。次の30年に向けたJR東日本の姿は、未だ見えていない――。


キャプチャ  2017年4月号掲載
[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

「スーパー新幹線」が日本を救う [ 藤井聡(社会科学) ]
価格:842円(税込、送料無料) (2017/5/2時点)



[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

北陸新幹線レボリューション [ 藤澤和弘 ]
価格:864円(税込、送料無料) (2017/5/2時点)


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

現美新幹線殺人事件 [ 西村 京太郎 ]
価格:972円(税込、送料無料) (2017/5/2時点)


スポンサーサイト

テーマ : 鉄道関連のニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

搜索
RSS链接
链接
QR码
QR