尖閣危機、その時日米中は――ワシントンで行われた日米机上演習を特別取材

沖縄県の尖閣諸島に武装集団が上陸し、日本の海上保安庁・警察が制圧に手こずる中、中国が介入を示唆して、軍艦を尖閣周辺に派遣した――。こうした幾つかの架空のシナリオを基に、日米の元政府高官や自衛隊OBら約20人が、日本・アメリカ・中国の各政府役の3チームに分かれ、其々対策を出し合う机上演習が先月末、ワシントンの調査研究機関『笹川平和財団米国』の主催で行われた。緊迫のやり取りを再現し、問題点を検証した。 (本紙アメリカ総局長 小川聡)

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――重武装した日本の右翼集団20人余りが、尖閣諸島の魚釣島に上陸。インターネットを通じ、日本による尖閣の物理的な占有を訴えた。
演習の1つは、こんな状況設定から始まった。日本チームは、海保の巡視船3隻(※1隻はヘリコプター搭載型)に海保・警察の合同部隊100人を乗せ、現場に派遣することを決めた。武装集団が日本人だったこともあり、自衛隊を使わずに対処する方針で一致した。その時、日本チームの電話が鳴った。中国チームからだ。中国側は、「中国海軍は48時間は行動を取らないが、いつまでも待つことはできない」と告げた。「何れは中国海軍が武装集団の排除に乗り出す」という警告だった。中国側は「日本政府が密かに武装集団を支援しているのではないか?」と疑い、軍艦を尖閣に近付けた。日本チームは「尖閣は日本の領土であり、今回の事案は日本の国内問題だ」と反発し、平行線のまま電話会談は終了した。中国は、尖閣諸島を「中国の領土だ」と主張している。中国チームは、「何もしないまま時間が経てば、国内で政府批判のデモが起き、政権にとって危険な状況になる」と危惧した。日本チームは、武装集団の逮捕を急いだ。中国の“48時間”警告には、「国内でナショナリズムが火を噴けば、中国政府は何かをやらなければならなくなる」と警戒しながらも、「自衛隊が動かなければ、中国軍が入ってくることはないだろう」と判断した。

――警察を乗せた海保のヘリコプターが尖閣に向かうと、島から銃撃が。日本が武装集団を制圧できないまま、48時間が経過した。
日本チームに衝撃が走った。チーム内では、陸上自衛隊を治安出動させるかどうかが議論になったが、海保役が「自衛隊無しで事態収拾が可能だ」と主張し、出動は見送られた。「日本人相手に自衛隊を出すべきではない」という意見や、「自衛隊を出せば、中国に軍を派遣する口実に使われる」という警戒感が背景にあった。事態の長期化を懸念したアメリカチームは、日本に「事態を早期に収拾できるという確証を得たい」と説明を求めた。アメリカ側は、日本が自衛隊を派遣する可能性を念頭に、日米安全保障条約5条に基づく共同防衛の要請があれば、アメリカ軍を派遣するつもりで検討していた。これに対し日本チームは、「自衛隊は派遣せず、海保が40㎜機関砲で海上から射撃し、武装集団を殺傷してでも制圧する」という新たな方針を伝えた。「日本の国内問題だ」と繰り返し、アメリカ軍の支援も望まなかった。アメリカチームは、“戦争を避け、状況悪化を防止すること”を最大の目標としていた。この為、非軍事に徹する日本の対応を歓迎し、支持した。同時に中国に対しては、軍事行動を起こさないよう自制を求めた。一方で、緊急事態に備え、アメリカ軍に西太平洋への部隊の移動を内々に指示したが、危機が直ぐに起こるとは考えていなかった。中国チームの対応は、日米の予想を超えるものだった。「領土問題では妥協できない」との立場から、48時間が経過し、事態が長期化するのであれば、尖閣領海にミサイル駆逐艦を派遣し、特殊部隊を島に送り込む案を検討していたのだ。アメリカ軍が圧力を強めなかったこと等から、「アメリカ軍の介入は無い」とも考えていた。日本チーム内では、「事態を悪化させないように自衛隊の派遣は控える」というのが共通認識だった。しかし、中国チームとのコミュニケーション不足もあり、中国は逆に「事態収拾に対する日本の意思・能力が十分でない」と判断し、中国軍の尖閣派遣という危険な選択に向かった。演習は、ここで終わった。

――中国海警局の公船6隻と20隻以上の漁船が、尖閣諸島沖の領海に侵入。海保の巡視船と中国公船が衝突し、中国の乗組員が海に投げ出された。
日本チームは、海保の巡視船10隻を応援派遣し、島への上陸阻止を最優先に対応する方針を決めた。事態拡大に備え、海上自衛隊のイージス護衛艦を、中国軍艦よりも尖閣に近い位置に移動した。アメリカチームは、“紛争拡大の防止と緊張状態の解消”を最優先事項とし、日中双方に抑制的な行動を求めた。中国チームはアメリカに接触し、「日本が先に挑発的行動を取った」と主張。尖閣周辺から日中双方の船を同時に撤収する案を提案し、アメリカに仲介を求めた。アメリカチームは、この提案を「緊張状態の解消に繋がる」と歓迎し、日本に受け入れを打診した。日本チームは「尖閣領有に関する日本の立場を弱めようとする中国側の策略だ」と警戒し、受け入れを拒否した。しかしアメリカチームは、即時の同時撤収を改めて日本に強く求めた。再考を迫られた日本チームは、「“撤収”は受け入れられない」としながらも、「自衛隊や海保の増派を止めて、船の数を減らし、海保による平時のパトロール態勢に戻す」という方針を決めた。日本から新方針を電話で伝えられたアメリカチームからは、「外圧が成功した」と歓声が上がった。演習はここで終了したが、日本チームの1人は「アメリカが、尖閣領有に関する日本の立場よりも、中国との紛争回避を優先するとわかった」と不満を漏らした。

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机上演習は、バージニア州サフォークにあるアメリカの航空機大手『ロッキードマーチン』の専用施設で行われ、読売新聞は特別に取材を許可された。日本からは、元防衛審議官の徳地秀士氏、元統合幕僚監部運用部長(元空将)の廣中雅之氏、元海上自衛隊佐世保総監(元海将)の吉田正紀氏ら、アメリカからは、元国防次官のウォルター・スローコム氏、元国家安全保障会議アジア上級部長のデニス・ワイルダー氏、元海軍太平洋艦隊司令官のウォルター・ドーラン氏らが参加した。中国政府役は、ワイルダー氏らアメリカ側参加者が務めた。元国家情報長官(笹川平和財団米国会長)のデニス・ブレア氏が、演習全体を管理した。参加した元日本政府高官によると、尖閣諸島のような微妙な問題で、日米両国の元高官が一緒に机上演習を行うのは前例が無いという。参加者たちは演習後、「相手の考えを理解できず、対応を読み誤った」と、コミュニケーションの難しさを口にした。演習ディレクターを務めた笹川平和財団米国のジェームズ・ケンダル氏(元海兵隊中佐)は、演習の教訓について次のように語った。「日本やアジアに関与した経験を持つアメリカ政府高官たちでさえ、“自衛隊を派遣しない”という日本チームの決断に驚かされた。日本の制約や懸念の大きさを理解していなかった。中国チームは大きな疑念を持ち、誤解に基づいて対応した。こうしたことは、現実にも起こり得る。その意味で、今回の演習は、日米両政府に対して重要な教訓を与えるだろう」。


⦿読売新聞 2017年4月27日付掲載⦿




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