【ふるさと納税が日本を滅ぼす】(05) 返礼品競争が市町村の良識を奪っていく

20170508 02
「えっ、損をしているんですか? 田舎を支援する制度じゃなかったの?」――。北海道富良野市の飲食店。「市のふるさと納税が赤字になった」と告げると、50代の女性経営者は狐につままれたような顔になった。ふるさと納税は、政府が2008年度に導入した制度だ。人は田舎で育っても、多くが都市部で就職する。つまり、子供の時の教育費等は田舎の自治体が負担するのに、いざ成長すると都会で納税してしまうのだ。「人口減少で只でさえ疲弊している田舎は、税源不足でダブルパンチを受ける」――。そうした批判に応える為に、納税者が住民税の一定割合を、選んだ先に“納め”られるようにした。但し、住んでいる自治体に納税する現行の税制度では仕組みが作れず、寄付と控除を組み合わせた方法を編み出した。先ず、支援したい都道府県や市区町村に寄付をする。所得や家族構成によって年間の限度額はあるが、寄付先は一自治体でなくていい。すると、2000円を除いた寄付の全額が、翌年度の住民税等から控除されて手元に戻る。大雑把に言えば、2000円の“手数料”で複数の自治体に“税”が移動できるのだ。寄付先は生まれ育った土地である必要はない。この為、少しでも多く集めようとする自治体が、寄付者に特産品等を贈る“返礼品競争”が激化した。自治体が贈る品を決めるのではなく、肉・魚・野菜・お菓子・料理・工芸品、更には電化製品まで含まれたメニューから寄付者が選ぶ方式も一般化していった。

そうした中で、全国の返礼品が“買える”民間のインターネットサイトも登場した。これを介して寄付をすると、クレジットカードで決済できる為、多くの自治体が参加している。いくら寄付すればどこでどんな品物が得られるか、ジャンル別に調べられるので、返礼品が目当ての“消費者”には便利がいい。2000円ぽっきりで高額商品が買える“お得な通販サイト”だと言われている。だが、ふるさと納税は都市部の住民だけが利用できる制度ではない。若し、田舎の人が同じように他の自治体へ寄付をしたらどうなるだろう? その額が、ふるさと納税を受けた額より大きかったとしたら…。富良野市は2015年度、約173万円のふるさと納税を受けた。しかし、市民が他の自治体に“納税”する等して、控除された市民税は約255万円に上る。差し引き82万円の赤字になった。「前年まではプラスになっていたので、マイナスになるとは思ってもみませんでした」と、市総務課総務係の菅原誠係長は語る。「制度が認知されてきて、これまで利用していなかった人がするようになったせいでしょうか」と言葉少なだ。「変ですよね」と冒頭の女性が訝る。嘗て3万6000人を超えていた富良野市の人口は、2万3000人を切った。「市は将来、1万5000人ほどにまで減ると試算しています。本当なら支援される側の筈ですよね。でも、これは市民が悪いのだと思います。余所に寄付しているのは市民自身なのだから。こうした収支はもっと公表して皆で考えていかなければ、日本全体でも大きな問題になる筈です」と話す。「自分が得することしか考えていない人がいるんだよね。エスカレートして赤字が膨らんだら、市道の補修が遅れたりしないのかな…」と不安そうに語る40代の女性もいた。富良野市の一般会計は、2015年度の歳入が約126億2800万円だった。その内、個人市民税は約9億3400万円だ。約82万円のふるさと納税の赤字は、呑み込めない額ではない。「でも、納税者にとっては大きい額ですよ」と冒頭の女性が憤慨する。市は何千円・何万円という税を徴収する為に、差し押さえまで行ってきた。そうした“血税”が巡り巡って、肉や魚に消える。女性の怒りはわからないでもない。総務省が公表したデータを基に、2015年度のふるさと納税の寄付額と控除額の収支を計算すると、全国1741の市区町村の内、525団体で赤字になっていた。その内、過疎自治体は22(※第2回参照)。富良野市もその1つである。市町村合併による特例で過疎指定された団体も含めると、“赤字の過疎自治体”は更に増える。過疎自治体の指定要件は、人口減少率や財政力の低さだ。ふるさと納税では当然、“税”の移転先とされるべきだろう。確かに、全国616の過疎自治体の多くはプラスになっている。だが、一部であっても赤字の過疎自治体が出ていることは、ふるさと納税制度の欠陥を象徴していないだろうか?

20170508 03
富良野市は、ふるさと納税本来の目的に拘ってきた。返礼品競争に参入するよう求める議員や市民もいたが、「特典を設けての募集は行わない」(能登芳昭市長の議会答弁)という姿勢を貫いてきた。「寄付はあくまで善意が前提で、品物で釣って集めるようなものではない」という考えからだ。この為、謝意の品は、1万円以上の寄付者に対して、市営ワイナリーのワインや第三セクターのチーズ(※3000円相当)を一律に贈るに留めてきた。あまり“お得”ではない。だから、寄付者は主に出身者で、数件程度の年が多かった。「テレビドラマ“北の国から”(フジテレビ系)を見て、舞台となった富良野が好きになった」「雄大な自然を守ってほしい」と寄付する人もいた。ところが、それでは奪われる。市は“赤字”に追い立てられるようにして、この12月から方針を転換し、民間のインターネットサイトに加わった。返礼品は“1万円以上”から“5万円以上”の4コースで、約60品目にした。ワインやチーズの種類を増やした他、野菜ジュース・高級ケチャップ・ジャム・スイーツ・ジャガイモ・タマネギ等も加えた。出荷時期を迎えていないメロンやアスパラガスは、予約の受け付けを始めた。友好都市である兵庫県西脇市の特産の播州織でできた扇子も選べるようにした。すると、いきなり同月中に「1000件単位」(菅原係長)の申し込みがあった。「富良野の名前は知られているので、これまでも電話で『どんな返礼品があるか』と聞かれることが多くありました」と菅原係長は振り返る。「メロンは無いの?」と聞かれて、「ありません」と答える。「じゃあいい」と切られる繰り返しだった。そうした人々が、一気に返礼品に飛びついたのだろうか。市は方針転換について、地場産業の振興を目的としている。「経済関係者から、『特産物をもっとPRしたい』という声がありました。ふるさと納税を使った観光誘致策も考えていきたい」と菅原係長は説明する。

富良野の名前を全国的に知らしめたのは、何といっても『北の国から』だろう。しかし、ドラマは2002年に終了し、同年度に約249万人を数えた観光客数も、2015年度には約188万人まで減った。『北の国から資料館』も昨年閉館した。一方で外国人観光客は増えている。これを背景にした宿泊者数は、2002年度に約57万人だったのが、2015年度までに約76万人に伸びた。ただ、「外国人はお金を落とさない。泊まっても素泊まりで、先ず聞かれるのはスーパーマーケットやコンビニエンスストアの場所。やっぱり、単価の高い日本人客に来てほしいので、ふるさと納税を活用するのも1つの手だと思います」と、宿泊施設の経営者は話す。「隠れた農産加工品があるので、“メイドイン富良野”を全国に発信したい。雲海やアウトドアスポーツ等、富良野の知られていない魅力も、この機会に伝えたい」と、返礼品関連の事業者の1人は意気込む。ただ一方では、「だからといって返礼品競争に加わるのか? 物販や観光の振興も、他の自治体の“税”で行うのは如何なものか?」と首を傾げる人もいる。菅原係長は、「うちが儲ければ他の自治体は奪われる」と複雑な思いを捨て切れないでいる。過疎自治体の最高赤字額は、北海道函館市の約3066万円だ。2015年度の寄付は約1703万円あったが、控除が約4769万円と、入りの3倍近くが流出していた。2015年10月の国勢調査人口が26万5979人の同市は、北海道第三の都市だ。しかし、前回2010年の国勢調査から減少した人口は1万3148人と道内最多で、市勢の衰退が著しい。同市もやはり、ふるさと納税の本来の目的を守り、返礼品で寄付をかき集めるようなことはしてこなかった。お礼の品は、2008年から2年間は市内の名所の写真を印刷した観光トランプ、次の年はイカスミで染めた手拭いと1000円程度だった。その後は経費を増額したが、寄付額に応じて1万円相当の水産加工品までだった。寄付金を元手に行った事業は翌年度、充当額や効果を記し、写真を添えた報告書を作成して、寄付者へ送る。この時にお礼の品を添えるので、品物は寄付者が忘れた頃に届く。寄付を集めるのに熱心な自治体が、注文から直ぐに品物を届けるのとは対照的だ。しかも、品物は翌年度になってから決めるので、寄付時に「お礼に何をくれるのか?」と尋ねても担当者は答えられない。それでも、毎年のように寄付してくれる人が多かったのが同市の特徴だ。2015年度も240件の寄付の内、半数以上がリピーターという。「『経済情勢が厳しい函館の為に…』と仰る人もいます。出身者等が純粋な気持ちで応援してくれたのだと思います」と、市財務部管財課庶務係の葛西亘係長は語る。

20170508 04
同市が寄付者全員に贈ってきた物がある。“函館人証明書”だ。台紙に函館市街の航空写真が刷ってあり、寄付年月日や氏名を印字する。ただ、これがあるからといって市の施設割引等の特典は無い。「こんな物は欲しくない。得をしなければ誰も見向きはしない」と批判する市民もいるが、「大事にしてくれる人もいます。『古くなったから再発行してほしい』と申請する人までいるのです」と葛西係長は微笑む。その第1号の所持者は、関西在住の男性だ。函館市の生まれだが、実家はもう無い。毎年少しずつ“納税”してくれる。これこそ、あるべき姿だろう。しかし…。同市の収支は、東日本大震災の被災地への寄付が多かった2011年度以外はプラスだった。それがいきなり2015年度、大幅な赤字になった。市内では大きな問題になり、市幹部らに弁済を求める市民までいた。だが、間違ってはならないのは、他の自治体に寄付をしたのは市役所ではなく、市民である。同市は今年4月から返礼品を拡充し、民間のインターネットサイトに加わる等して方針転換する。「返礼品市場に参入して産業振興を図るべきだ」とする経済界からの要望が強くなったからだ。政府も、「制度を拡大させる方向にある」と判断した。工藤壽樹市長は、「函館市自身の税収が少ない中で、今のままでは貴重な税をもっともっと他の市町村に奪われていくということになりかねません。その辺の対策ということで考えた」と議会で説明している。富良野市や函館市のように、赤字の過疎自治体は、愚直に返礼品競争と一線を画してきたところが多い。それなのに、やはり両市と同じような転換が相次いでいる。

例えば2015年度、函館に次ぐ約185万円の赤字だった群馬県東吾妻町だ。昨年6月から町内の農産品や水を返礼品として、民間のインターネットサイトに加わった。それまでは、寄付者に広報誌を送付していただけだった。何故なのか? どの市町村も一様に、「返礼品を活用した地域のPRと、地場産業の振興が目的」と説明している。だが、ある赤字自治体の担当者が本音を漏らす。「やらなければやられる。奪われた以上に奪わなければ、財源が減ってしまう」。ふるさと納税で赤字になるのは、住民が他の自治体に寄付をするからだ。これをしなければ少なくとも赤字にはならず、受け取る“納税”が僅かであっても儲けになる。そうした自治体が全国に25ある。何れも人口が少なく、高齢化が進んだ過疎の町村だ。財政が厳しいだけに、住民が一丸となって財源を守ろうとしているのかと思ったが、そうではないらしい。「高齢者が多く、関心を持つ人がいないのでは?」(高知県大川村)、「職員には『余所に寄付をしないで』と話しているが、住民には強制できない。話題になってきたので、今年は行った住民がいる」(和歌山県北山村)と其々、担当者が語る。「年金暮らしだと税の納付も控除も無いので、他自治体への寄付は丸々財布が痛む。いくら返礼品が欲しくても、流石にする人はいない」と解説する過疎地の高齢者もいた。逆に、ふるさと納税の受け入れがゼロだった市町村が12ある。返礼をしていない自治体が多く、和歌山県岩出市の担当者は「問い合わせはあります。ストレートに『寄付をしたら何が貰えるのか?』と尋ねられるので、『ありません』と答えると電話を切られる。住民が余所に行った“納税”が赤字に直結しかねず、極めて問題だと考えています」と話す。では、寄付額と控除額の差がプラスになれば黒字になるのか? 群馬県太田市は2015年度、約6050万円の寄付があった。控除額は約6037万円で、差し引き約13万円が手元に残った。しかし、返礼品の調達に約2442万円かかった。事務費等も含めると総経費は約2609万円となり、これを引いたら約2595万円の赤字になった。返礼に力を入れてこなかった富良野市や函館市の経費は数万円から数十万円程度だが、返礼は行えば行うほど費用がかかる。その分を差し引くと赤字になる自治体は、寄付と控除の収支がマイナスになった525団体より更に多くなる。

岡山市は約1億2560万円も寄付を集めた。しかし、控除額がそれを上回る約3億2082万円に上った上、返礼品等の経費に4490万円かかった。合計すると約2億4012万円の赤字だった。1億円以上の寄付があっても、2億円を超える赤字になったのだ。「岡山は果物王国なので、返礼品は市内の果物が主力です。但し、1万円以上の寄付に対して3000円相当の品、3万円以上には5000円相当の品と、節度のある返礼にしています。返礼品として人気があるのは肉のようですが、岡山市の特産ではありません。この“魅力の差”がそのまま額に出たのだと思います。来年は少しでも取り返さないと」と、担当者は焦っていた。ところで、全国には富裕とされる自治体がある。税収が豊かで地方交付税の配分が無く、“不交付団体”と呼ばれている。2015年度は60市町村だった。この内、寄付と控除の収支がプラスになったのは16市町村だ。中には、ふるさと納税を集めまくっている自治体もある。その筆頭は、原発立地自治体の佐賀県玄海町だ。約11億9178万円もプラスになった。「毎月産品を送る定期便が好評です。事業者も、届いたら直ぐ食べられる等の工夫をしています」と、担当者が説明する。不交付団体なのに多額の寄付を集めていることについては、「外から言われることではない。そのような批判は寄せられたことがない」と強い口調で反論した。約6億3646万円もプラスになった静岡県湖西市は、想定外の収入だった。以前は一部を除いて市長の礼状を送るだけにしていたが、「市を知ってもらうきっかけになり、地元も活性化する」と2015年度に返礼品を導入した。すると申し込みが殺到し、準備した500万円の費用は開始から2日で底を突いた。「浜名湖のウナギが人気で、返礼品の9割を占めています。『高くて土用にも食べられないのに、実質2000円で手に入る』と喜ぶ寄付者もいます」と、担当者は話す。こうして、不交付団体が他の自治体の“税”を食う。過疎自治体の赤字とは逆の意味で制度の矛盾だろう。「歪な制度はいつまでも続かない」と見ている自治体もある。富良野市の隣の中富良野町。過疎自治体だ。返礼はしてこなかったので、2015年度は赤字だった。2016年度に“町内で獲れた物・作った物”に限定して返礼品を導入したところ、メロン等に人気が集まり、12月までの寄付額が1億円を超えた。だが、寄付集めが目的ではない。「制度が終わるまでに、生産者にできるだけ多くの消費者と繋がって、販路を拡大してほしい」と、中富良野町定住促進係長兼広報統計係長の高橋麻希子氏は話す。「花の町です。観光に来てもらう為にも、過度な競争に加わって下品なイメージを付けたくない」とも語る。ふるさと納税への関わり方は、地区によって様々だ。だからこそ、その自治体の体質が透けて見える。しかし、“やらなければやられる”という恐怖が、良識のあった市町村を次々と返礼品競争に巻き込む。その勢いは留まるところを知らない。恐ろしい制度だ。貴方のまちの“税”は、どれだけ肉や魚に消えているだろうか――。 (取材・文/地方自治ジャーナリスト 葉上太郎)


キャプチャ  2017年3月号掲載




スポンサーサイト

テーマ : 地方創生
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR