【Global Economy】(35) 竹森俊平の世界潮流:英仏の行く先を握る議会

イギリス、フランス、ドイツのヨーロッパ3大国の選挙に注目が集まる。イギリスやフランスの政治は混乱している。背景には、『ヨーロッパ連合(EU)』や単一通貨『ユーロ』が齎す影響がある。国際経済学者である慶應義塾大学の竹森俊平教授が解説する。

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イギリスのテリーザ・メイ首相が急遽、6月の総選挙を決めた。メイ首相は今年3月、EUからの離脱交渉を始める手続きを取った。交渉は2年以内に終えなければならない。それを見据えて総選挙に踏み切ったのだ。2年間では、EU予算へのイギリスの支払い義務確定等、離脱の後始末が精一杯だ。これは困難な交渉が予想される。離脱後もEUとの自由な貿易取引を維持するには、新たな協定が必要だ。しかし、新協定の交渉をする時間は無い。交渉の時間を稼ぐには、“移行措置”が不可欠と考えられる。移行措置が認められた期間については、イギリスは離脱が決まっていても、EUとの自由貿易をある程度維持できる。他方、移行措置の間はEUからの労働者の流入を制限できない等、EUルールに従う必要が生じる。一刻も早くEUと決別したい保守党内の強硬派は反発しかねない。イギリスのEU離脱は国民投票で決まった。だが、どう離脱するかが問題だ。新たな自由貿易協定が結ばれないまま離脱が無秩序に進めば、イギリスはEUとのビジネスの機会を失う。EU市場を窺う日本等外国の企業は、ロンドンを逃げ出す。結局、イギリスの政治を決めるのは議会だ。議会に対する立場の強化の為に、保守党を率いて選挙で足場固めをする必要があることを、メイ首相は漸く理解した。フランスの大統領選は進行中だ。第1回投票では、中道のエマニュエル・マクロン前経済大臣、極右政党『国民戦線』のマリーヌ・ル・ペン党首が1・2位につけた。今月7日の決選投票で過半数を得た候補が大統領になる。

国民戦線は、移民排斥やユーロ離脱等、反グローバリズムの姿勢を鮮明にする。国民戦線への支持は、似た姿勢のアメリカのドナルド・トランプ大統領の場合と同様に底堅い。それだけに、国民戦線支持者は第1回で既にルペン氏に投票しており、決選投票での伸びしろは少ない。他方、国民戦線の過激性を嫌うフランス国民は多い。彼らは第1回でどの党に投票していても、決選投票では国民戦線に対抗する政党に票を投じる。第1回で2位だったルペン氏が勝利する可能性は低く、マクロン氏が大統領になるとみられる。寧ろ、問題は大統領選の後、来月中旬に行われる国民議会選挙の行方だ。マクロン氏が結成した『前進』という名の政治運動は、議席を持たない。マクロン氏が嘗て経済大臣を務めたのは社会党政権。その社会党は崩壊寸前だ。議会選で多数党は共和党になる見通しだ。フランスの奇妙な政治システムの下では、大統領が議会の多数党から選ばれない“ねじれ”状態の場合、混乱が起きかねない。フランスの大統領には、2つの大きな権利がある。内閣を率いる首相を任命する権利と、議会を解散する権利だ。一方、議会は内閣の不信任を決議できる。大統領と議会のねじれの下で、大統領が議会の多数党の党首を首相に任命しなければ、議会は内閣不信任に訴えることができる。これで政治の主導権は議会に渡る。だが、議会が意に反した行動を取れば、今度は大統領が議会の解散権を行使する。両者が妥協しない限り、不信任と解散の繰り返しとなり、フランスの政治は機能停止する。マクロン氏は大統領に就任しても、ねじれの下で妥協を図り、政治を進めるしかない。大統領と議会の対立が激化し、政治が機能停止となれば、国民戦線等反体制派の勢いを強めるだけだ。今回のフランス大統領選は、社会党のフランソワ・オランド大統領の歴史的な不人気を受けて行われた。本来なら、多くの議席を持つ共和党から大統領が選出され、議会とのねじれは生じない筈だった。ところが、大統領選の本命だった共和党のフランソワ・フィヨン元首相が政治スキャンダルで失墜した為、こうした展開になった。オランド大統領は何故、人気が無いのか? フランスでは、オランド大統領も、その前任者であるニコラ・サルコジ前大統領も、不人気の為に1期限りで大統領の座を追われている。隠れた大きな原因はユーロにある。

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サルコジ前大統領もオランド大統領も、政府の民間経済への介入に肯定的なフランスの伝統を受け継いだ。当初は政府予算を拡大し、経済対策を充実させるつもりだった。しかし、現在の市場は、ユーロ圏で財政が最も安定しているドイツを基準に、国債のリスクを評価する。ドイツに比べて財政状態が悪くなれば、その国の国債は売られ、金利は跳ね上がる。何しろ、フランス国債もドイツ国債も、同じ通貨ユーロで購入でき、ユーロで元本と利回りを受け取れる。しかも、ユーロ圏内の資本取引に制限は無いから、持ち換えは簡単だ。フランス国債の金利が上がると、国債金利を基準に決められているフランス企業の調達金利も上昇する。これは、同じ為替レートでドイツ企業と競争しなければならないフランス企業には痛い。フランス政府は、こうした仕組みを理解した。ドイツの方針を見習い、政府予算の拡大に繋がる構想を後退させた。フランス国民は、政治指導者の“変節”に失望した。サルコジ前大統領もオランド大統領も、国民の目にはドイツのアンゲラ・メルケル首相の“鞄持ち”に映る。健全財政の本家であるドイツでは、政治は極めて安定している。極右政党も退潮傾向にあり、今年9月の総選挙は従来通り、2大既成政党の戦いになるだろう。フランスでは、当面はポピュリズム(大衆迎合主義)勢力が敗れ、ユーロ離脱の見通しは後退する。しかし、国民が既成政治に幻滅する傾向は続くだろう。それ故、政治が長期に安定する道筋は見えない。


竹森俊平(たけもり・しゅんぺい) 経済学者・慶應義塾大学経済学部教授。1956年、東京都生まれ。パリ大学留学(サンケイスカラシップ)。慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院経済学研究科修了。同大学経済学部助手やロチェスター大学留学を経て現職。著書に『世界経済危機は終わった』(日本経済新聞出版社)・『欧州統合、ギリシャに死す』(講談社)等。


⦿読売新聞 2017年5月5日付掲載⦿

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