国際競争入札で負け続け、喧嘩を忘れた日本企業――“ルールは無用”の韓国勢、テスラの戦術に嵌った『トヨタ自動車』

20170509 07
「まさか、世界屈指の親日国で、あれほどの重要な案件を失注するとは…」。経済産業省の幹部は、未だ3ヵ月前のショックから立ち直れていない。“重要な案件”とは、今年2月に決着が付いたトルコの巨大吊り橋プロジェクトの国際競争入札だ。アジアとヨーロッパ文化の十字路、イスタンブールから約300㎞。“トロイの木馬”で有名なトロイア戦争の舞台としても知られるダーダネルス海峡に、世界最長2000m級の吊り橋が2023年までに出現する。建国100周年を記念する一大プロジェクトには、約100㎞の高速道路建設も含まれ、総工費は100億リラ(約3140億円)。だが、建設するのは日本企業ではない。新興国におけるインフラ受注の“宿敵”、韓国の財閥系企業『SK建設』と『大林産業』だ。関係者が悔しがるのは、受注にそれだけ自信があったからに他ならない。トルコ政府が国際競争入札による吊り橋建設を打ち出したのは2014年秋。以来、成長戦略の柱として掲げられている“質の高いインフラ輸出”の好事例と安倍政権からも位置付けられ、今年1月の応札まで、『IHI』を中心に入念な準備が進められてきた。加えて、経産省幹部の言う通り、トルコは世界有数の親日国だ。1890(明治23)年に和歌山県沖で遭難したトルコの軍艦『エルトゥールル号』の乗員を地元住民が救助して以降、積み重ねた“日土親善”の歴史は127年。IHIはトルコで、総工費約1400億円(※当時)の第2ボスポラス橋(1985年)の受注等、様々なインフラ建設の実績も持つ。これだけの条件が整っていながら、韓国勢に不覚を取ったのは何故なのか? 様々な分析がなされているが、日本国内で最も有力な説は「韓国勢が無茶をした」だ。

同プロジェクトは、受注企業は橋・高速道路の通行料収入で建設費を回収し、その後、設備をトルコ側に譲り渡す“建設・運営・譲渡(BOT)方式”。受注企業が設備を早く譲渡すれば、トルコ政府の負担はそれだけ減る。最終的に日本勢が提示した譲渡時期は17年10ヵ月後だったが、韓国勢は16年2ヵ月後に引き渡すとした。「韓国勢が短い期間を打ち出してくるのはわかっていたが、差は半年程度と思っていた。20ヵ月は想定外」と、前出の経産省幹部は振り返る。要は、「実績も技術でも勝っていたが、相手が受注ありきの強引な商売を仕掛けてきたから仕方ない」という訳だ。ところが、本誌の取材によると、トルコ政府関係者から全く別の理由が挙がっている。「コストや品質云々の前に、日本勢には、競合相手と喧嘩をしてでも商売をものにしてやろうという姿勢が無かった」。政府中枢と強力なパイプを持つ『トルコ海外経済評議会』(※日本の『経団連』に相当)アジアパシフィック会長のネジデット・デミュルレック氏は、こう話す。デミュルレック氏によると、こうした印象は今回の吊り橋の入札に限らず、トルコ国内の対日ビジネスを手掛けている経営者の多くがここ数年、感じていることだという。先ず、韓国勢に比べ、顧客に密着しない。「トルコではコーヒーを飲みながら自己紹介し、信頼関係を作ってからビジネスの話をするのが常識だが、日本人は顧客と距離を取りたがる」(デミュルレック氏)。また、「オンオフ関係なく顧客との距離を詰めてくる韓国勢とは対照的」と補足するのは、慶応義塾大学総合政策学部の柳町功教授。「顧客に密着しさえすれば、違反すれすれの際どい接待から、自社に有利な情報のリークまで何でもできるし、実際に韓国企業は何でもやる」(柳町教授)。ビジネスは顧客を奪い合う喧嘩で、喧嘩にルールは無用という訳だ。また、トルコ外交筋の大物関係者は、こう話す。「トルコのビジネスは、相手企業のキーパーソンと会わないと何も話は進まない。中国や韓国勢は決定権を持つキーマンとのパイプ作りに躍起になるが、日本人は誰がキーマンかすらわからず、商談している印象」。更に、日本企業のトルコ進出を支援している『森・濱田松本法律事務所』の梅津英明弁護士は、「トルコの経営者からは、『日本人は優秀だけど、“RINGI(稟議)”というものに時間を割いてばかりで、腰が重い』とよく聞かされる」とも指摘する。今回の吊り橋プロジェクトの場合、そんな日本勢の姿勢をトルコ側関係者が最も痛感したのは、昨年7月15日に発生したクーデター後の対応だったという。同日夜、トルコ軍の一部反乱勢力が、ボスポラス海峡に架かる2つの橋を部分的に封鎖。休暇を取っていたレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の拘束を企てた事件だったが、中国勢は3日後の同18日にはイスタンブール入り。韓国勢も直ちに現地入りし、情報収集に当たっていたが、日本勢は直ぐには来なかった。「何か事件が起こった時、日本企業は直ぐ従業員に渡航の自粛を呼びかける。それに対し、例えば中国勢は、競合相手との差を埋めるチャンスと捉える。十分な保証を付けた上で、間髪入れず社員を派遣し、相手国の自国に対する心証を良くすると共に、敵の評価を相対的に下げようとする」(中国のグローバル企業に詳しい近畿大学経営学部の徐方啓教授)。デミュルレック氏は、こう結論付ける。「誤解無きように言っておくと、日本人は好きだし、一生懸命なのも知っている。ただ、敵から顧客を奪い取ろうという闘争心や、その為の戦術は欠けている。品質の差が圧倒的だった時代はそれでよくても、今後はトルコ以外でも苦労するのではないか」。

20170509 08
実は今、国際交渉に詳しい国内の専門家の間でも、デミュルレック氏と同様の懸念が広がっている。「トルコに限らず、国際ビジネスは、相手との距離感を如何に縮めるか全て。ロシアの場合、サウナに一緒に入り、素っ裸の付き合いができて、初めて話が進む。今の日本にそこまでやる経営者やビジネスマンが何人いますか?」。こう話すのは、様々な国際交渉の舞台裏を見てきた新党大地の鈴木宗男代表。一方、『多摩大学ルール形成戦略研究所』の藤井敏彦客員教授は、「キーパーソンを攻め切れていないのは、トルコだけの話ではない」と強調する。「新興国における橋や高速道路の受注で、相手国の一番のキーマンになるのは軍関係者。将来の経済効果といった夢と共に、クーデターや戦争等、有事の際に如何に防衛するかまで含めたプランを作成し、軍の後ろ盾を得れば、交渉は一気に有利になる。だが、そんなビジョンを持つ日本企業は殆ど無い」(同)。こうした識者の危惧を裏付けるかのように、重要な国際競争入札で日本勢が敗退するケースはここ数年、世界中で起きている。その中には、日本勢が圧倒的に有利との下馬評だった案件も少なくないが、敗因が、コストや品質でなく、重要人物との関係作りや相手の評判を引き下げる戦術等、“敵から顧客を引き剥がすノウハウの差”にあったのだとすれば、それも納得がいく。記憶に新しいのは、官民連携で受注を狙っていたインドネシアの高速鉄道の失注だ。首都のジャカルタとバンドン間を結ぶ約140㎞の総工費は50億ドル規模だったが、2015年に中国勢に敗れた。有利な交渉をひっくり返されたのは、キーマンであるリニ・スマルノ国営企業大臣とのパイプ作りが不十分だったからだと言われている。

アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビでも、現地のインフラ受注では韓国勢に押されているのが実情だ。アラブ諸国初となる原子力発電所建設の入札でも、『日立製作所』と『ゼネラルエレクトリック(GE)』の日米連合が2009年、『韓国電力公社』を中心とする韓国勢に敗れる波乱が起きている。原発と言えば、2014年にはハンガリーでも、『三菱重工業』とフランス企業の企業連合が、増設工事の受注でロシアの国営原子力企業に敗退。また、ミャンマーでも2013年、新国際空港の建設・運営事業に『新関西国際空港会社』と『大成建設』が共同で入札したものの、韓国の企業連合の前に失注した。更に、日独仏で受注を競ってきたオーストラリアの次期潜水艦事業でも、日本の提案が2016年4月に落選。こうして“逃がした魚”は、紹介した案件の合計だけで10兆円を超える。国際競争入札における日本勢の不振の要因が、本当に“競合相手を蹴落としてでも商売をものにする戦術の欠如”にあるなら、事態は深刻と言わざるを得ない。というのも、海外勢は“日本勢から顧客を奪い取る技術”に益々磨きをかけているからだ。例えば、“市場ルールを自分たちの都合のいいように変えて相手の競争力を無力化する戦術”だ。有名なのが、『トヨタ自動車』のカリフォルニア州における環境規制の件。現地には、自動車メーカーに対し、新車販売台数の14%を“ZEV(排ガスゼロ車)”とすることを義務付ける“ZEV規制”があり、1990年の規制導入以降、HV(ハイブリッド車)である『プリウス』も、EV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)と共にZEVとして認められてきた。ところが、2018年モデルからはHVがZEVの枠組みから外され、2018年にはZEVの販売比率も16%に引き上げられることになった。トヨタは、旗艦車のプリウス無しでこの規制をクリアせねばならず、未達の場合は罰金等のペナルティーが待ち受ける。「規制変更の背景には、明らかにEVの量産に目途がついたテスラの存在がある。トヨタは、生産する際のCO2(二酸化炭素)排出量の多さ等、EVの矛盾を突く等して、何としてもルール変更を阻止すべきだった。やはり、日本企業は“品質競争以外の喧嘩”が苦手。プリウスがZEVから外れることで、顧客を他のメーカーに奪われることも考えられる」(国際規制問題に詳しい専門家)。敵から貪欲に顧客を奪い取り、あらゆる手を使って相手の力を引き下げる――。そんな企業間競争での喧嘩ができなければ、今後、品質面での差が縮小していく中で、国内でも海外勢に市場を奪われかねない。何故、こんな事態になってしまったのか? 多摩大学大学院の徳岡晃一郎教授・研究科長が言う。「答えは単純明快。今の日本には、企業同士が力づくで激しいシェア争いをする局面が無いからだ。喧嘩をしたことがない人に喧嘩の知恵を求めても無理なのと同じ理屈」。 (取材・文/本誌 吉岡陽・西雄大・日経ビジネスアソシエ 水野孝彦)


キャプチャ  2017年5月8日号掲載
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