【宮崎哲弥の時々砲弾】 未来は今(01)

教育国債・子ども国債の発行案について、早速、日本経済新聞がケチを付けている。例えば、先月28日付朝刊の『政策レーダー 教育無償化 群がる与野党』という解説記事は、「幼児期から小中学校、大学に至るまで家計に大きな負担を伴う教育費。この無償化をめざす動きが与野党に広がっている」と情勢を概観した上で、予算規模が凡そ5兆円となり、この「防衛予算にほぼ匹敵する額を捻出するため、自民党内では“教育国債”を発行し、財源にあてる案が出ている。歳入不足を補う事実上の赤字国債だ」と直ちに財源論に踏み込んでいる。将来に亘る投資対効果、延いては長期的財政効果の吟味も無く、いきなり近視眼的財政論議だ。これだけで記事のレヴェルが知れる。この動きを警戒する財務省幹部の所見を紹介し、記事全体は「教育無償化は現役世代の負担増でやるべきだ」「教育国債より増税が先」というその立場を支持する形で纏めてある。教育に目的を特化した国債の是非を巡っては、その数日後、同じ日経のコラム欄『大機小機』に『教育国債の摩訶不思議』なる目覚ましい愚論が載った(先月30日付朝刊)。いきなり、「かつて乱発された建設国債の亡霊」がまた徘徊し始めたとある。教育費負担の先送りになるというのだが、建設であれ、教育であれ、その効用は長期に及ぶ。支出が発生した時点の世代だけが受益者ではないのだ。その弁済を繰り延べ、負担を均すことのどこが悪いというのか? それより、現時点で然るべき教育を授けていれば、高い知識と技能を身に付けた人材に育ち得る若者が、経済的な理由によって進学を断念してしまうことのほうが、余程未来に損失を齎すだろうに…。

しかも、このコラムはトマ・ピケティの“6年前”の新聞論説を引用し、恰も彼が日本の財政状況を危惧し、「これに対処することが喫緊の課題だ」と力説しているかの如き印象を与えている。勿論、ピケティはそんなことは主張していない。2年半ほど前の日経新聞のインタヴューを見直してみよう。彼はこう発言している。「1945年の仏独はGDP比200%の公的債務を抱えていたが、1950年には大幅に減った。もちろん債務を返済したわけではなく、物価上昇が要因だ。安倍政権と日銀が物価上昇を起こそうという姿勢は正しい。物価上昇なしに公的債務を減らすのは難しい。2~4%程度の物価上昇を恐れるべきではない。4月の消費増税はいい決断とはいえず、景気後退につながった」(2014年12月22日付朝刊)。抑々、日本の公債の発行額が急激に増大したのは1998年度以降である。1997年度までの10年間の平均額は12兆円強だったのに、本格的なデフレに突入し、マイナス成長が基調となった1998年度を境に、発行額が激増した。2015年度までの平均額は約37兆円にも上っている。そのデフレ経済の下で、例外的にプラス成長を持続した2006・2007の両年度の公債発行額が唯一、20兆円台に留まったのをみれば、“借金”の膨張を食い止める為には先ず何をなすべきかは明らかである。また彼は、2年前の来日時のインタヴューで、歳出削減だけで100年掛けて財政を立て直した19世紀イギリスの事例を挙げている。「そのかなりの金額を国内の金利生活者に対する利払いに使ってしまって、教育に回すお金をどんどん減らしてきた」為、経済格差を助長し、社会全体を疲弊させてしまった。その歴史的蹉跌を踏まえた上で、ピケティは「やはり成長に投資をし、教育に投資をし、次世代に投資をすることによって、公的債務を急激に減らしていく方法がいいと思います」と提案しているのだ(トマ・ピケティ氏、「民主主義は闘争。誰もが関わらなければならない」と日本の若者にメッセージ~『BLOGOS』2015年1月30日掲出)。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2017年4月27日号掲載
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