【ヘンな食べ物】(36) 蛇肉は美味いのか問題

蛇肉の味がわからない。それが悩みだ。4~5回食べたことがあるのに、訊かれると困る。所詮、肉の味なんてかなり“相対的”なものだ。牛肉だって、すき焼きとローストビーフではまるで違う肉のように感じる。松阪牛の霜降りとオージービーフのランプ肉も別物だ(値段も別物のようだが)。味つけ・調理法・部位・種類等で、肉の味は大幅に変わってしまうのだ。蛇もそう。味の記憶が混沌としている。コンゴで食べて美味しかったと思ったのは、何れも全長3m以上のニシキヘビである。確か、ぶつ切りにして椰子油で煮込んだものと、燻製肉をキャッサバの葉と和えて煮込んだ料理だったように思う。前者はかなり味つけが濃く、後者はスモークされており、緑色野菜と煮込んでいる分、臭みが無く、肉も軟らかかった筈だ。味は鰐肉に似ていたと記憶する。鰐肉については以前書いたが、「口にした時は白身魚のようだけど、噛んでいるとだんだん噛み応えが出てきて、飲み込む時には鶏肉そっくり」というもの。一方、同じコンゴのニシキヘビでも、狩猟採集民のムブティのキャンプ地で食べた時は臭みが強くて不味かった。それから、タイのチェンマイにある料理屋で、自転車のタイヤほどの太さの蛇(アオダイショウくらいか)の炭火焼きを食べたことがあるが、それこそゴムタイヤのように固くて、食えたものではなかった。他でもベトナムかカンボジアで食べたと思うが、この時は小骨が多くて、やはり途中で嫌になった記憶がある。但し、調理法や味付けは覚えていない。「あぁ、一体、蛇の味って何なんだ!」と苛々が募る。

そこで満を持して、日本屈指の珍味系料理のワンダーランド、新宿歌舞伎町の『上海小吃』。刺激的な“虫の盛り合わせ”の後は、蛇肉に挑むことにした。蛇の唐揚げ。揚げ物はいい。肉の味が外に逃げないし、タレ無しなら濃い味付けもない。“相対的”の1つにしても、蛇肉の基本形に近いのではなかろうか。調理前の蛇を見せてもらう。皮を剥ぎ、折りたたみ自転車のタイヤほどの大きさに丸めて冷凍されている。チェンマイで食べたものと同じサイズだ。暫くして、薄く衣の付いた唐揚げが登場。形といい大きさといい、ケンタッキーフライドチキンにも間違えそうだ。一口がぶっと囓る。「おおっ!」と思う。美味い。あっさりふっくらした白身肉で、中身もKFCに似ている。ただ、サンマやアジのような小骨がびっしり生え揃ったところは如何にも蛇らしい。また、よくよく味わうと、飲み込んだ時に若干臭みがある。総合的に言えば、コンゴのニシキヘビ肉の記憶に近い。つまり、“蛇肉≒ワニ肉≒鶏肉”という仮説が得られた訳だ。頭のもやもやが解けて嬉しい。面白いのは、同席している担当編集者のY氏。元々、珍味系に不慣れな上、この日、私と一緒に間違って生のバッタやセミの幼虫、また、調理済みとはいえ巨大ムカデやタランチュラも渋々食べていた。そのせいだろう、最早蛇肉の唐揚げなど抵抗感は皆無らしい。「美味しい~。でも、小骨が多いですねぇ。鱧の料理人なら、この小骨も綺麗に切ってくれるでしょうね~」と言葉も滑らか。こんなにホッとした顔で蛇を食べる人も珍しい。臭みも全然気にならないよう。初めから蛇肉だったら、到底、こうはいかなかっただろう。「肉の味は、別の意味でも“相対的”なものだ」と再認識させられたのだった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年5月4日・11日号掲載
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