【東京情報】 sontaku

【東京発】『森友学園』問題に端を発する一連の疑獄騒動の中、“忖度”という言葉が注目を浴びている。学園の籠池泰典前理事長は、有楽町の『日本外国特派員協会』で記者会見を開き、国有地の売買等について説明。『ニューヨークタイムズ』の記者が「“大きな力が働いた”・“神風が吹いた”との発言部分が不明瞭だ」と指摘すると、籠池は「安倍首相や昭恵夫人の意向を忖度して、財務省の官僚が動いたのではないか」との見解を示した。通訳は最初、“忖度”を“read between the lines(行間を読む)”と訳したが、誰が行間を読んだかはっきりしなかった。そこで、通訳は“conjecture(推測する)”・“surmise(推量する)”といった例を出し、「英語で直接言い換える言葉は無い」と付け加えた。結局、そのまま“sontaku”という言葉を使うことになったようだ。ドイツ人記者が笑う。「俺たち古参の特派員は日本での生活が長いから、忖度の意味は何となくわかる。そのニューヨークタイムズの記者は新米だったのかな。ドイツ語の“vermuten”は“推測する”という意味だが、忖度には“相手の気持ちを勝手に推測する”というニュアンスも含まれているだろう。“空気を読む”という日本語とも微妙に違う」。“忖度”はアジア的な言葉であると言えるかもしれない。中国最古の詩集とされる『詩経』にも登場する。つまり、中国文化圏では少なくとも、3000年前には“忖度”が行われていたのだ。日本語には、“推量する”・“心中を察する”・“斟酌する”・“慮る”といった言葉が存在する。これは、日本文化が相手の気持ちを想像することに重きを置いているからではないか。

アメリカ人記者が頷く。「日本は基本的に単一民族の社会でしょう。ムラ社会は同一の価値観で動くので、敢えて言葉にせず、お互いに察することができた。逆に言えば、忖度のできない人間は“村八分”になってしまうのよ。こうした問題点もあるけど、基本的には、忖度という行為には日本人の美徳があると感じられるわ」。日本文学も忖度で成り立っているところがある。和歌のように、短い文章に豊かな意味を持たせる為には、受け取り手の想像力が必要になる。俳句はもっと短い。松尾芭蕉の“古池や 蛙飛び込む 水の音”という句は誰もが知っているが、字面通りに受け取っても仕方がない。つまり、受け取り手は歌や句を詠んだ人の気持ちを忖度しなければならないのだ。各人が多様な意味・情景を想像する余地が大きいのが、日本文学の特徴ではないか。アルバイトの小暮君が言う。「僕が好きなのは、“勧進帳”の安宅の関です。追手から逃げる源義経と弁慶が関で尋問を受ける。弁慶は山伏に扮し、『東大寺再建の為の勧進を行っている』と嘘を吐き、義経は従者のふりをします。関守が『それならば勧進帳を読み上げてみよ』と試すと、弁慶は只の巻物を恰も勧進帳であるかのように堂々と読み上げ、ピンチを切り抜けます。ところが、関守は従者の正体がお尋ね者の義経であることに気付いてしまう。すると、弁慶は咄嗟に杖で義経を打ち付けます。『お前のせいで疑われたではないか』と。関守はそれが演技であることに気付いたが、弁慶の気持ちを忖度し、気付かぬふりをして関を通してやります。自分の主人を杖で打つのは、武士には絶対にできないことです。そこまでして主人を守ろうとする弁慶の忠義に心を動かされたんです」。アメリカ人記者が首を竦める。「日本人なら誰もが感動するシーンだけど、欧米では理解できない人が多いようね。“勧進帳”は欧米で公演されることもあるけど、関守は自分の任務に背いているのだから、契約違反だと思ってしまうのよ」。元々、“忖度”は純粋に“他人の心中を推し量ること”という意味で使われていたが、今では政治を分析する為のキーワードの1つとなっている。

欧米には“忖度”と完全に一致する言葉は無いが、それに近い現象は存在する。1938年の『ミュンヘン会談』には、アドルフ・ヒトラー、ベニート・ムッソリーニ、ネヴィル・チェンバレンらが出席したが、そこでヒトラーはチェコ北東部の割譲を要求する。チェンバレンは「この要求を呑めば、ヒトラーはそれ以上、領土拡大の野望を持たないだろう」と考え、受け入れてしまった。しかし、ヒトラーがそれで満足する筈がない。これも“忖度”の一種と言えるだろう。ドイツ人記者が唸る。「中国の習近平は権力を持ち過ぎて、ほぼ独裁体制になっている。これに対し、正面から異を唱える人物もいない。中国では、国民全員が習近平の意向を忖度している訳だ」。嘗て、朝日新聞が中国政府の意向を忖度して失敗したことがあった。『文化大革命』の際、日本の大新聞は記者を引き揚げたが、朝日だけは記者を残した。「そのほうが便利だし、いい記事が書ける」との判断だろう。それ自体は理解できるが、実際には逆のことが起こった。朝日以外の新聞は毛沢東と林彪の対立を記事にしたが、朝日は「これを書けば追放されるのではないか?」と中国政府の意向を忖度した結果、スクープを逃すという大チョンボをやらかした。小暮君が頷く。「戦後、鳩山一郎がGHQによって公職追放を受けた際、吉田茂に政権を引き継ぐように打診しました。鳩山は『これは一時的な処置であり、時期が来たら吉田が政権を鳩山に返すだろう』と考えていたが、その後、2人は袂を分かつことになる。鳩山は吉田の意向を勝手に忖度していたが、そうならなかった訳ですね」。タチが悪いのは、権力者の意向を忖度することを口実に、勝手な行動を取ったり、目下の者に忖度を押し付けることだ。4月17日、銀座にオープンした商業施設の式典挨拶で、安倍晋三は売り場に並ぶ各地の名産品を紹介した後、そこで読み上げた原稿について、「残念ながら山口県の物産等々が書いてありません」「私が申し上げたことを忖度して頂きたい」と発言。このタイミングで危ういジョークを飛ばしたことで、野党は猛反発した。アメリカ人記者が纏めた。「敢えて総理の気持ちを忖度すると、『これ以上の追及は止めてくれ』ということではないかしら?」。 (『S・P・I』特派員 ヤン・デンマン)


キャプチャ  2017年5月4日・11日号掲載




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