【ナゾノミクス】(01) デフレ、安く買ってはいけないの?

良いものを安く買い、低い金利でローンを組む。病気になったら病院に行く――。当たり前の日常生活が、日本経済の足枷になっている。“普通のことがおかしなこと”。こんな日本経済の謎、“ナゾノミクス”を覗いてみる。

20170512 06
予定時刻は19時。福岡県に住む木戸祐太さん(仮名・30)は、インターネットショッピングのタイムセールに目当ての商品が出てこないかチェックを始めた。「これから安くなるのに、その前に定価で買いませんよね?」。この“何れ安くなる”が長く続くのが、日本経済を苦しめてきたデフレだ。ものやサービスの値段が下がり続けるこの現象から抜け出そうと、政府と日銀が知恵を絞る。しかし、“安く買える”ことの何が悪いのか? デフレの裏側には、買う側と売る側の“需給のズレ”がある。ある企業が自動車を100台造って90台しか売れなければ、残り10台は値下げしてでも売ろうとする。抑々、値下がりを待つ人が増えれば、企業は常に値下げを迫られる。「売り上げが増えない企業で働く人は、給料が増えず、安いものしか買えない。これで全体の消費市場が小さくなってしまう」(『ニッセイ基礎研究所』の久我尚子氏)。景気の悪い動きに歯止めがかからないのが、デフレが悪とされる理由だ。日本は何故、デフレになったのか? 『大和総研』の小林俊介氏は、「少子高齢化が進んだ結果、1990年代から働き手が増え難くなったことが原因の1つだ」と言う。「働き手が増えないと消費は伸びないが、工場(供給)は急には減らず、“需給のズレ”が大きくなった」という見方だ。

バブル経済の崩壊もあった。1990年頃、経済の実力以上に値上がりしていた株式や土地が急落。損をした企業や財産を失った個人が守りに入ったことも、停滞の一因とされている。“失われた25年”となったこの間、企業で働く人の給料(所定内給与)の伸びは年平均0.5%に留まる。2016年度の世論調査では、20~30代は「貯蓄や投資で将来に備える」との答えが、「生活を楽しむ」を上回った。『ホットペッパービューティーアカデミー』主席研究員の猪狩裕喜子氏は、最近の若い世代について、「美容室に通っていた男子が、安くてサービスが良い理髪店に回帰している」ことに注目する。デフレから逃れるには、「商品はこの先値上がりするから、今買ったほうがお得」というタイムセールの渦中に、人々を引き込むことが必要だ。物価を安定させるのが仕事の日銀は今、毎年2%の物価上昇を目指している。大前提は、経済が活気を取り戻すこと。日銀は企業がお金を借り易いように金利を下げ、お金を大量に刷って市場に流通させている。安倍首相は、企業に給料を上げるよう呼びかける。こうした施策で、足元の景気は回復基調にある。日銀の黒田東彦総裁は先月27日の記者会見で、「需給のズレは無くなった」との見方を示した。そして、給料が増えた時、人々が将来に不安を感じず、お金を使えるかどうか。日本経済が成長していくと期待し、“良いものを安いうちに買う”動きが広がることが、デフレ脱却に繋がる。 (平本信敬)


⦿日本経済新聞 2017年5月2日付掲載⦿
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テーマ : 経済・社会
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