北朝鮮が中国に売った日本海の漁場――金正恩の為に命を捨てる漁民、海域侵犯に日本は如何に対抗すべきか

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昨年12月、NHKの記者から「石川県能登町の漁民が不審船を映した映像を分析してほしい」との依頼を受けた。漆黒の闇夜の海上に、そこだけ白昼のように白く光り輝く空間が映し出されていた。その中央には、青白く大型漁船の姿が浮かび上がっている。その強烈な光は、船上の集魚灯から発せられていた。船体からは、長さ40mほどの棒状のものが数本、横向きに伸ばされている。海上から四方に開いた大きな網を落し、魚を獲る“かぶせ網”漁船である。船体には、中国の五星紅旗が掲げられていた。その場所が問題だ。日本海の中央部、“大和堆”と呼ばれる海域で、原則として日本の漁船だけが漁を行うことが国際法で認められている排他的経済水域内だったのである。更に次の映像では、前述の中国の大型漁船が青い海原に浮かんでいた。その船は、船体に書かれた船名から、中国南部の海南島の漁業組織の船であると推測される。しかし、その船名の一部は消されていた。そして、その大型漁船に追随するように、長さ30mほどの錆びた鉄製の漁船も航行していた。船尾には、ハングル文字で“清津”という北朝鮮の日本海沿岸の港湾都市の名が書かれていた。2001年に奄美大島西沖で自爆沈没した北朝鮮の工作船を思い出す。更に後には、甲板に10人ほどを乗せた長さ凡そ15mの木造漁船が追っていた。昨夏、韓国の報道機関が伝えた情報によると、日本海に大量の中国船が進入している。その数は最大700隻にも及び、日本の排他的経済水域内にまで進入し、違法操業を行っているというのだ。

尖閣諸島の国有化を目指した2012年には、五島列島玉之浦に、台風の緊急避難を名目に、100隻を超える船団が現れた。安倍政権と中国が緊迫した政治情勢になった2014年には、小笠原諸島海域に珊瑚の密漁船と称する最大212隻もの船団が現れ、漁場を荒らし回った。昨年は、尖閣諸島海域に300隻ほどの漁船を送り込むのと同時に、中国海警局の警備船を日本の海域に進入させた。そして遂に、日本海にもやって来たのだった。日本海に進入する中国船の情報を初めて聞いたのは、2012年のことだった。長崎県壱岐の漁師から、大量の中国漁船の目撃情報を得た。イカ漁の為に北海道沖に行ったところ、日本海中央部で無数の中国船を目撃したということだった。当時、中国漁船が北朝鮮海域で乱獲を行っている為、韓国のイカ漁がダメージを受けていることを同国の新聞が伝えていた。それから5年、時折、対馬海峡を通航する中国船団の情報は伝えられるものの、その実態は謎に包まれていた。中国漁船がいたのは、前述の大和推という場所だった。日本海中央部は水深が凡そ3000mと深くなっているが、その中央部に九州ほどの面積に広がる“大和海嶺”と呼ばれる海底の山脈がある。その海嶺の最も浅い場所が、水深236mの大和堆である。大和堆周辺海域は、北から豊富なプランクトンを運ぶリマン海流と、南からアジやサバの群れを乗せて流れる暖かな対馬海流に包まれている。また、海底地形の影響を受けた海流により、海底から湧き上がる湧昇流が起きている。この湧昇流は、栄養塩やプランクトンを海の上層へと運び込む為、この海域は日本海の中でも最も魚が集まる好漁場である。ただ、能登半島辺りからでも300㎞ほど離れている為、燃料費が嵩み、中々出漁することができない。しかし近年、沿岸部の漁業資源の枯渇が進み、より豊漁が望める大和堆まで魚影を求めて出漁することも多くなっている。ところが、多額の燃料代をかけて大和推に着くと、日本の海域であるにも拘わらず、中国船団と北朝鮮漁船が我が物顔で走り回り、網を引いているのだ。送られてきた映像の中には、長さ15mほどの木造の小型漁船が映し出されていた。船体が海面に近く、船底の平らな構造が北朝鮮木造漁船の特徴である。沿岸漁業用の船であり、本来、北朝鮮の海岸から500㎞ほど離れた大和堆付近まで出漁するなど考えられない。波高は2mほどの海上で、10人ほどが両舷の手すりにしがみ付くように座っていた。船上には櫓が組まれ、その柱を結ぶように張られたロープに、開かれたイカが隙間なく吊り下げられていた。船内には冷蔵装置が無く、獲ったイカを保存の利く干物に加工するのであろう。小舟は、甲板に波を被りながら、木の葉のように漂いながら進んでいた。速度も遅く、バランスを崩したらいつでも転覆しそうな情況だ。近年、日本海沿岸部に北朝鮮の漁船らしき船が時々流れ着いていることを思い出す。

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北朝鮮では、金正恩氏が最高指導者に就任して以降、食糧確保の為、漁業の振興に力を入れてきた。朝鮮日報によると、金氏は2014年、「全国の育児院と孤児院、初等及び中等学校・養老院に、365日、1日も欠かさず魚を届けよ」と人民軍に命じている。その量は、1日1人当たり300gという。世界的にも魚介類を多く食べる日本人でさえ、1日平均80g程度である。実態を無視した強引な目標だ。その目標を果す為に、多くの漁民が命懸けで日本海へと出漁している。同年4月、朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は、「最高司令官が提示した漁獲量目標を必ず遂行する海の漁労決死隊になろう」と、荒天時の出漁を推進している。また2015年、朝鮮中央テレビでは冬期漁獲量増加スローガンが流され、雪降る荒海に出漁することを推奨していた。昨年1年間に日本海沿岸に漂着した北朝鮮船は、66隻にも上る。11月に京都府舞鶴市の海岸に漂着した長さ約12mの漁船(※左画像)には、白骨化した9人の男性の遺体が残っていた。エンジン故障を起こし、漂流している間に食料が底を突き、餓死したのだろう。船内には、ハングルの書かれた煙草の箱や、イカ釣り用の疑似餌等が残されていた。最高指導者の指示の下、無謀な漁に出た漁民たちの悲しい姿である。北朝鮮の造船技術は稚拙である。船内に残されていたスクリューは、小型のモーターボートで使われる程度のもので、到底、荒天時の日本海を乗り越えられるような性能は無い。船体の構造も信じられないようなもので、舷の部分は、木材不足の為か、貼り合わせた板の間に発泡スチロールのようなものを挟み込み、浮力を確保しようとしていた。また、先進国では一般的なFRP(繊維強化プラスチック)で船を作る技術も普及していないようだ。

真面な漁船が無いのでは、沿岸以外の漁業は難しい。況してや、荒れた日本海に出ることなど無謀である。そこで北朝鮮政府が発案したのが、外国への漁業権の売買である。一時期は、日本の裏社会にも北朝鮮沖の漁業権の買取の話があったと聞く。日本は拉致被害問題が解決していない為、北朝鮮との経済交流を厳しく制限している。北朝鮮で獲った魚は、日本へ輸入することなどできない。そこで、北朝鮮沖に日本船を呼び込み、漁獲を行わせ、日本へと運び込み、資金を得ることを模索したようだ。日本との取引は、当局の監視もあって実現には至らなかったが、映像で見る限り、中国との漁業権取引は順調に推移しているようだ。昨年8月の韓国の報道によると、北朝鮮は黄海での1年間の漁業権を中国に30億円ほどで売却し、約1500隻の中国漁船が出漁している。更に、黄海に続いて、日本海の北朝鮮と韓国の軍事境界線付近の漁業権も中国に売却し、年間約76億円相当の収入があるという。この海域で活動している中国漁船の数は、1000隻にも上る。更に、韓国の公共放送・KBSによると、北朝鮮は8月1日から10月30日までの3ヵ月間、1隻当たり200万円相当の金額で日本海の漁場の権利を中国に売却し、既に中国漁船300隻が操業許可を与えられたとされる。日本海で中国漁船の目撃情報が12月まであり、更に多くの中国漁船が北朝鮮から漁業権を買い取り、日本海へ進出しているようだ。北朝鮮から許可を受けた漁船は、期間中、日本海で可能な限り漁を続ける。獲った魚やイカは冷蔵し、運搬船や陸路で中国本土へと運ばれる。北朝鮮の沿岸都市・元山には、大型の水産冷蔵施設が造られているという。様々な情報を総合すると、北朝鮮から漁業権を買い取り、黄海や日本海で操業している中国漁船の数は、約2500隻にも上るという。北朝鮮にとって貴重な外貨収入源となっているのだ。更に、北朝鮮沖で捕獲された魚が中国経由で日本に輸出されていることは、想像に難くない。北朝鮮は、中国の協力を得て、日本の経済制裁を掻い潜っているのである。また、北朝鮮通船は、中国の大型漁船の後を追って日本海に出漁する。中国漁船の集魚灯で集められた魚を便乗して捕獲するのである。それも、北朝鮮にとって重要な食料となる。北朝鮮を足掛かりとして日本海に進入した中国漁船は、北朝鮮海域のみならず、日本の排他的経済水域にまで進入し、密漁を行うようになっている。日本では禁止されている強烈な光度の集魚灯を点け、周辺の魚を全て獲り尽くす勢いで漁を行っている。既に東シナ海では、中国漁船による乱獲が進み、漁獲量は激減しているのだ。

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石川県の漁師が撮影した映像の中には、漁船に搭載しているレーダーの記録が映し出されていた。その中には、日本の排他的経済水域に進入し、密漁する100隻ほどの中国・北朝鮮漁船が示されていた。大和堆の漁場に出漁した漁民は、中国船を避けながら漁を行わなければいけない状況だという。網を入れても船の近くを走り回られる為、怖くて漁にならない。自国の海域での漁を、中国漁船に遠慮しながら行っているのだ。東シナ海では、五島列島から出漁した漁船が複数の中国漁船に囲まれる等、執拗な攻撃を受けた。この為、高齢者が多い漁師たちは、危険を冒してまで漁業を行う気力が無くなってしまったのだ。同じように、日本海から日本漁船が追い出されるようなことがあってはならない。漁場を荒らす中国漁船・北朝鮮漁船から、日本の海、日本の漁場を守らなければいけないのだ。能登町の漁民は、農林水産省や海上保安庁に警備強化の要望を出しているのだが、未だ具体的な動きは無い。海上保安庁は、中国海警局の警備船・海洋調査船・漁船団の進入を受けている為、東シナ海に重点を置いている。日本海の守りに十分な勢力を割けないのが現状である。一方、中国の違法漁船に対する韓国の取り締まりは厳格である。韓国で違法漁業を取り締まるのは、海洋警備安全本部(海洋警察)の役割である。それは、厳格というよりは“激しい”と言ったほうが相応しいであろう。取り締まりの域を超えた感情的な行動も見られる。2011年以降、昨年末までに、中国漁船の抵抗に遭い、殉職した海洋警察の職員は2名、負傷者は3名にも上る。中国の違法漁船の取り締まりは、命懸けの職務であると共に、仲間の敵討ちでもあるのだ。然る2月16日、韓国の海洋警察の巡視船が、全羅南道沖の韓国の排他的経済水域内で違法操業をしている中国漁船を発見し、拿捕する態勢に入った。すると、付近にいた70隻ほどの中国漁船が集結し、韓国巡視船への妨害行為を行い、違法漁船の逃亡を助けようとした。

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そこで巡視船は、機関銃から900発の銃弾を発射して中国漁船団を制圧し、違法漁船を拿捕した。結果的に、拿捕された中国密漁船は、約4000万円の罰金に相当する担保金を払うこととなった。この金額は、韓国が違法操業の外国船に科す金額としては過去最高額である。一方、日本の外国人漁業規制法における罰金の上限は、2014年に小笠原諸島海域に珊瑚の密漁船と称する中国船団が出現したのを契機に、1000万円から3000万円に引き上げられたばかりである。韓国のほうがより厳しい規則となっているのである。昨年11月には、仁川市の約90㎞沖の海域で違法操業中の中国漁船2隻を拿捕したところ、周囲にいた30隻ほどの別の中国漁船が集結し、反抗する動きを見せた。そこで、韓国の海洋警察は、1000トンから3000トン級の5隻の巡視船で対応。その内の4隻から700発ほどの銃弾を射撃した。すると、中国漁船が逃走した為、海軍の協力を得てP3C哨戒機で追跡し、違法漁船を確保したのである。必ずしも日本は、韓国のように激しい取り締まりを行う必要はない。しかし、中国の密漁船を見逃し続けることは危険だ。中国の漁船団は、密漁船と雖も中国当局の管理下にあることを忘れてはならない。他国の海域を侵攻する時に、先陣として漁船団を使うのは中国の常套手段である。度重なるミサイルの発射、国際社会を無視した核開発、金正男氏の暗殺等、北朝鮮を取り巻く情勢は風雲急を告げている。日本海に中国漁船団が存在するということは、北朝鮮に不測の事態が起こった場合、中国人民の保護を名目に、中国海軍・中国海警局が日本海に進入する理由になる。日本海もが中国の海となりかねないのだ。南シナ海や尖閣諸島の例からすると、何れ「日本海は歴史的に中国の北方民族が漁業を行っていた中国の海である」と主張することも考えられる。日本は海洋立国である。海を守ってこそ、国の平和、国民の安全な暮らしが確保できるのだ。その為には、防衛省の情報網と海上保安庁の勢力を連携させ、更に海保の持つ航空機を大量に増強する等、大型巡視船と連携し、機動力を持った海上警備体制を作り、日本の海域から違法漁業船・不審船を排除する必要がある。これからは、日本海にも十分に注意をする必要がある。


山田吉彦(やまだ・よしひこ) 東海大学海洋学部教授・『国家基本問題研究所』理事・国土交通省海洋政策懇談会委員。1962年、千葉県生まれ。学習院大学経済学部卒。経済学博士(埼玉大学)。著書に『侵される日本 我々の領土・領海を守るために何をすべきか』(PHP研究所)・『完全図解 海から見た世界経済』(ダイヤモンド社)等。


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