【Deep Insight】(11) 北朝鮮、止める秘策はあるか

朝鮮半島を巡る空気が俄かにきな臭くなってきた。禁じ手の化学兵器を使ったとして、アメリカのドナルド・トランプ大統領はシリアのアサド政権軍を攻撃した。核の脅威をまき散らす北朝鮮にも軍事力を振るうのか。舞台裏の議論を探った。「今の瞬間風速で言えば、北朝鮮問題の緊急度は過激派組織のIS(イスラミックステート)を上回っている」――。アメリカ政府の当局者は、政権内の空気をこう明かす。北朝鮮が日本全土をミサイルの射程に入れ、挑発を強めている現状を受け、トランプ大統領は周辺にこう呟いたという。「こんな状況で、2020年に東京オリンピックをやるのか?」。アメリカ本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が加速するにつれ、彼の危機意識は更に高まっている。中国の習近平国家主席をフロリダ州の別荘でもてなした今月6日夜。トランプ大統領は「シリアを空爆した」と告げ、「北朝鮮に対しても単独行動があり得る」と警告した。どんな具体策が検討されているのか。関係者らによると、次のような措置が含まれる。北朝鮮と取引がある外国企業への制裁を強化し、北朝鮮からの労働者を受け入れている国々には中止を迫る。一番の標的は勿論、中国だ。併せて、同盟国との共同演習を拡充する他、ステルス戦闘機や核搭載可能な爆撃機を今より頻繁に日韓やグアムに展開し、軍事圧力を強める。アメリカのメディアによると、核兵器を在韓アメリカ軍に再配備する案も含まれる。だが、「核を持っていないからこそシリアは攻撃された」と考える北朝鮮が、圧力に怯み、核を手放すとは考え難い。北朝鮮の崩壊を望まない中国が、本気でアメリカに協力するかも疑問だ。だとすれば、最終的に行き着く問題は、経済制裁や軍事圧力が効かなかった場合、アメリカが武力行使に踏み切るのかどうかだ。トランプ政権は「あらゆる選択肢を排除しない」と、軍事行動にも含みを持たせる。アメリカ軍内からも、「北朝鮮のICBM保有は絶対に認めない」との声が聞かれる。シリア攻撃で、これらの警告は少し真実味を帯びたようにみえる。ところが、政権内の議論に通じたワシントンの安保専門家や元高官らに聞くと、「攻撃できるとは思わない」と一様に否定的だ。根拠は主に3つある。北朝鮮は移動式ミサイルを持っており、核兵器も全ての所在は掴めていない。空爆すれば韓国を狙った反撃を許し、数万~数十万人の死傷者が出かねない。また、米中の意思疎通が無いまま攻撃すれば、米中衝突の危険が生じる。この為、アメリカ政府は朝鮮半島の有事に備えた協議を水面下で打診してきた。在韓アメリカ軍が中朝国境まで行くことはないとも、密かに伝えたという。だが、中国側は具体的な協議には応じていない。

更に日韓、とりわけ韓国との調整が難しい。対北攻撃には日韓の了解と支援が欠かせないが、韓国がすんなり同意するとは考え難い。来月上旬の大統領選で、北朝鮮に融和的な政権が生まれたら尚更だ。軍事的な選択肢を排除しないトランプ政権と、「攻撃できる筈がない」とする識者や元高官らの分析。両者の主張のどちらが現実に近いのか。過去をみると、後者に理があるようにみえる。ビル・クリントン政権は1994年に空爆を検討したとされるが、結局は断念。対話に軸足を移し、2000年にはマデレーン・オルブライト国務長官が訪朝するまで歩み寄った。2002年に北朝鮮を“悪の枢軸”と呼んだジョージ・W・ブッシュ政権も、途中から交渉に応じ、2008年には対テロ支援国家指定から北朝鮮を外した。初めは力でねじ伏せようとするが、「軍事作戦は極めて難しい」と悟り、対話解決を探らざるを得なくなる。それが、アメリカの対北朝鮮政策の歴史だった。ICBMを北朝鮮が持てば、こうした“妥協の法則”が崩れ、アメリカは一気に対決に向かうのか。日米韓の当局者や識者の見立てを総合すると、次のようになる。

【フェーズ① 一触即発に】アメリカの制裁と軍事圧力で、朝鮮半島の緊張は一気に高まる。北朝鮮は核とミサイルの実験を強行し、一触即発の状態に近付く。
【フェーズ② 協議の動き】戦争を回避しようと、中国が米朝協議のお膳立てに動く。アメリカは当初渋るものの、結局、攻撃はせず、交渉による事態の打開に動く。
【フェーズ③ 苦渋の妥協】激しい駆け引きの末、核とミサイル実験の凍結等で米朝が合意する。戦争が避けられる一方、既にミサイルの射程内にある日韓への脅威は固定化しかねない。

こうした流れと並行し、アメリカはサイバー攻撃で核ミサイルの完成を阻もうとするだろう。『ニューヨークタイムズ』は、「アメリカが2014年からサイバー攻撃を本格化した」と報じた。金正恩体制の転覆を狙った秘密工作も進めるかもしれない。果たして、フェーズ①~③の通りになるか、北朝鮮の出方を言い当てるのは難しい。アメリカの意図を読み違え、先制攻撃を仕掛けてくる可能性も拭い切れない。北朝鮮は2010年に韓国の延坪島を砲撃した他、韓国軍艦船を沈めている。ただ、1つだけはっきりしていることがある。「追い込まれた金氏が、米韓や日本に戦争の引き金を引けば、彼の体制はおろか、北朝鮮の国家としての存続が危うくなる」ということである。 (本社コメンテーター 秋田浩之)


⦿日本経済新聞 2017年4月12日付掲載⦿
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テーマ : 北朝鮮問題
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