【ふるさと納税が日本を滅ぼす】(06) 地方財政の格差は如何に是正されるべきか

20170515 03
総務省が昨年6月に公表した調査結果によれば、2015年度のふるさと納税の受入額は、対前年度比で4倍以上の1653億円となった。制度が発足した2008年度の受入額81億円と比べると20倍以上になっている。2015年度の急増には、“ふるさと納税枠”と呼ばれる税額控除の上限額の引き上げと、手続きの簡素化も寄与しているかもしれない。急拡大したふるさと納税だが、返礼品競争の激化もあり、批判も多い。“納税”という単語が使われているものの、ふるさと納税は寄付金税制の一種である。選んだ自治体への寄付金額が、自己負担2000円を除いて所得税と住民税から控除される為、上限はあるものの、実質的に住民税の納付先を変更できることとなっている。ふるさと納税創設の背景には、地方間での税源の偏在の問題がある。税源の偏在の背後には経済状況の違いがあるから、地域の経済状況をマクロ経済学の理論と整合的に纏めている県民経済計算を用いて、人口1人当たりの県民所得をみてみよう。最大値は東京都の442万円であり、この値は最小値の沖縄県の204万円の2倍以上、2位の愛知県(344万円)と比べても30%以上高い。では、地域間の財政力の違いは、中央政府から地方政府への補助金等によって、政策的に是正されるべきものなのだろうか? 経済学的に考えると、混雑・渋滞・公害といった人口集中による負の影響が小さく、人々が地域間を自由に、且つ費用をかけずに移住できれば、地域の平均所得に差があることは、少なくとも長期的には問題ではなく、政策的に介入する必要はない。何故なら、平均所得の差は、人々が自分にとって最も好ましい地域を選んで住んでいる結果だからである。

居住地の選択には、地方政府が提供する公的サービスや、課される税も影響するだろうから、地方政府は住民を誘致する為に効率的な政策パッケージを提示する必要がある。その結果、地方政府間に住民誘致を巡る政策競争が発生し、好ましい資源配分が達成される。若し大都市に集積の利益があり、教育水準や技能の高い人々のほうが集積の利益をより享受できるとすると、移住は地域の平均所得の違いを拡大させるかもしれない。しかし実際には、引っ越し費用・住宅や土地の選択や売却に纏わる手間や時間等が移住の費用として発生する。また、住み慣れた地域に対して抱く愛着や愛郷心も、移住を躊躇わせる原因となり得る。若し、所得の高い人たちは移住の費用を払うことができる一方で、所得の低い人たちはこれらの費用を払えない為に移住ができず、結果として地域の平均所得に差があるなら、平均所得の差を是正する政策は正当化されるだろうか? そうとは限らない。所得の低い人たちを支援して所得の差を減らすことが目的なら、それは全国一律の基準に従った所得再分配政策によって行われるべきだからである。換言すれば、平均所得が低い地域に住んでいる恵まれない人と、平均所得が高い地域に住んでいる恵まれない人を、住所が違うという理由だけで政策的に異なる扱いをすることは、水平的公平性の観点から望ましいものではない。平均所得が低い地域の地方政府に手厚い補助金(財政移転)が行われている理由は、大きく2つある。第一は、住民や地方政府が自由に行動した場合に弊害が発生する可能性である。住民が自由に移住した結果として過度の人口集中が起きると、混雑・渋滞・公害といった問題が深刻化するかもしれない。そのような時には、補助金によって他の地域の住環境を改善したり、所得を引き上げたりすれば、問題を緩和することができるだろう。また、地方政府が自由に政策決定を行うと、調整が上手くいかない為に弊害が発生する可能性がある。例えば、福祉水準を自由に決められるとしたなら、自地域の給付水準を引き下げて、福祉の受給者が他地域に流出するように仕向ける地方政府が出てくるかもしれない。そうすると、福祉水準についても引き下げ競争(底辺への競争)が起きる可能性がある。このような時、中央政府は福祉政策に基準を定めて補助金を出す等して、状況を改善することができるだろう。財政移転の第二の理由は、公平性への考慮である。地域の平均所得に差があり、税源が偏在していると、地方政府が提供できる公的サービスに差が発生するかもしれない。このような公的サービスの地域差は望ましくないという社会的な合意や規範があれば、地方政府が利用できる資金に差が出ないように財政移転を行うことは正当化されよう。義務教育や生活保護は、このような公的サービスの一例と考えられる。

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日本は、単一国家にしては地方政府が政策執行に担う役割が大きく、中央政府から地方政府に向けた様々な財政移転制度が既に存在している。主なものは、国庫支出金と地方交付税交付金である。国庫支出金は使途が限定された財政移転であり、その金額は支出額や必要額の一定割合として決められることが多い。国庫支出金の対象となる事業は、地方政府の立場からみれば、他の単独事業に比べて“安く”実施できる事業となる。それ故、中央政府は国庫支出金を政策誘導の手段として用いることができ、地方政府に任せておくと過少にしか供給されない公的サービスや、公平性の観点から必要な事業を推進することができる。地方交付税交付金は使途が限定されない財政移転であり、その金額は、総務省が計算する基準財政需要と基準財政収入の差として決まる。但し、基準財政収入が大きい時には交付されない。基準財政需要は、その地方政府が標準的なサービスを提供する為に、必要な支出額・基準財政収入はその地方政府が標準的な税制の下で得る税収とされているので、地方交付税交付金によって全ての地方政府が標準的な行政需要に対応できるようになるとされている。国庫支出金・地方交付税交付金といった財政移転には、弊害もある。例えば、使途の限定されている国庫支出金を受け取る為に、地方政府は不要な事業を選んだり、オーバースペックな事業を進めたりするかもしれない。税収が減っても地方交付税交付金が交付されることから、地方交付税交付金をあてにする地方政府は補助金清けとなってしまい、その活力や独自性が殺がれたり、失敗するリスクのある事業を実施し易くなったりする可能性もある(※ソフトパジェット問題)。

また、財政移転を得る為の陳情等の政治的活動に資源が投下されたり、政治的活動によって財政移転が歪み、非効率な事業が推進されたりする危険性もある。財政移転の本来の目的を達成しつつ、弊害を抑止する為、実際の制度には様々な仕掛けがある。また、その結果として、地方政府間の財政力の差はある程度は残存している。このように、中央政府による地方政府への財政移転は必要なものではあるが、完全なものとはなり得ない。ふるさと納税は、特に公平性の観点から、既存制度を補完するものと位置付けられる。納税者が自由に納税先(寄付先)を選べることから、民主的にも見える。また、“ふるさと”が納税先に選ばれることが多いとすれば、納税者が若い頃に受けた教育や福祉に対する還元が行われ、ライフサイクルを通じた受益と負担が一致して望ましいようにも思える。しかし、現在のふるさと納税制度には問題点も多い。勿論、寄付税制を応用しているとはいえ、「地域に住むことの“会費”のような性格を持つ地方税を、実質的に居住地外の地方政府に振り向けさせるということが税理論的に好ましいのか?」という“そもそも論”はある。但し、ここでは税についての関心の喚起等、政策目的が別にある為に認められるとしたい。寧ろ、ふるさと納税が、寄付税制を応用した住民税の納付先の変更という単純な仕組みにはなっていないことに由来する問題点を考えたい。今、A市に住むX氏が、B町に3万円のふるさと納税をしたとする。趣旨に沿った最も単純な仕組みを考えると、X氏は自己負担2000円でふるさと納税するので、B町へ3万円寄付する一方で、A市への住民税が2万8000円減ることになる。A市は2万8000円の税収を失い、B町は3万円の寄付収入を得る。X氏のふるさと納税に纏わる収支の変化は、これで全てとなる。現行のふるさと納税制度は、このような単純な制度ではなく、より複雑な資金のやり取りが発生する。先ず、唯今のブームの要因の1つである返礼品の存在である。また、寄付に伴う控除は、住民税だけでなく、国税である所得税にも適用される。所得税がどれほど少なくなるかは、納税者の所得に依存する。更に、A市が地方交付税交付金を受け取る交付団体であれば、住民税収の減少分の75%は、基準財政収入の減少を通じて、地方交付税交付金の増加によって補填される。地方交付税交付金は中央政府からの移転だから、国の収支にも影響が及ぶこととなる。

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先の例で、B町はX氏に1万円相当の返礼品を送るとしよう。すると、X氏からみると、B町へ3万円寄付し、1万円相当の返礼品を受け取り、A市への住民税と所得税が合わせて2万8000円減少するので、収支は8000円のプラスとなる。B町にとっては、寄付収入が3万円増加する一方で、1万円相当の返礼品を送っているなら、合わせて2万円の収入増加となる。A市の収支を考えるには、所得税の控除がどれほどになるかを考えなければならないので、ここでは所得税が4000円減少したとしよう。すると、A市に入る住民税は2万4000円減少するが、その75%、即ち1万8000円だけ地方交付税交付金が増加するので、合わせて6000円の収入減となる。国(中央政府)にとっては、所得税の減少と地方交付税交付金の増加を合わせて2万2000円のマイナスである。国の収支の悪化は全国民の負担となる。このような現在のふるさと納税制度の問題点の第一は、誰の収支がどう変化するかがわかり難く、本来の趣旨とは異なる人たちに負担が及ぶことにある。制度の趣旨からは、“選ばれた”地方政府の収支が改善し、逆に選ばれなかった地方政府の収支が悪化すれば足りるように思われる。しかし、現状では選ばれなかった地方政府の収支はそれほど悪化せず(※地方交付税交付金を受け取らない不交付団体では大きく悪化する)、国の収支の悪化を齎す。現在、国の財政は国債に頼っている部分が少なくないから、大雑把に言えば、ふるさと納税をしない都会の現在の納税者に加え、将来の納税者がふるさと納税の負担を負うことになる。

収支という点で言えば、ふるさと納税の税額控除の上限(※負担が2000円で済むふるさと納税額の上限)がほぼ所得に比例して決められている為に、返礼品が存在する時には、高額納税者が返礼品の恩恵をより大きく受けることができることも問題であろう。経済的価値のある返礼品が認められているが故に、高額納税者ほどふるさと納税を行うインセンティブが発生することは、負担の公平性からも望ましいことではない。実際、市区町村を1人当たり地方税額の大小によって10のグループに分割し、其々のグループでの1人当たりふるさと納税額・受入額の中位値を計算してみると、1人当たり地方税額が多い市区町村のほうが寄付額が多く、受入が小さい傾向を見て取れる(※左上図参照)。第二の問題点は、しばしば指摘されるように、返礼品に関する地方政府間の競争が発生する点である。地域間競争は、上手く設定されれば好ましいものになり得る。しかし、地方政府は政策を巡って競争すべきであり、返礼品の多寡を手段とするのは望ましくないだろう。若し、納税者が返礼品のみを目的としてふるさと納税を行っており、地方政府がそれを知っている時、返礼品を手段とする寄付獲得競争では、返礼品の価値は税額控除額の上限まで上昇する可能性がある。即ち、3万円を得る為に、地方政府は2万8000円までは返礼品を返す用意があると考えられる。勿論、これは極論ではあるが、返礼品に要する費用が無視できない規模であることは確かである。総務省の調査によれば、2015年度に地方政府がふるさと納税の募集や受入にかけた経費は793億円であるが、この内、返礼品の調達と送付の経費が674億円であった。受入額が1653億円だから、返礼品の経費は受入額の48%に達する。つまり、受け入れたふるさと納税額の半分程度しか、地方政府の実質的な収入増に繋がっていないのである。先の例で言えば、X氏の住むA市が交付団体なら、A市はX氏のふるさと納税によって失った税収の75%を地方交付税交付金によって取り戻すことができる。他方で、他の市区町村に住むY氏からのふるさと納税は(返礼品の費用等を除くと)収入の純増となる。従って、地方政府にはふるさと納税獲得競争に参加するインセンティブが発生し、その負担は国の収支悪化を通じて、現在と将来の国民全体に押し付けられることとなる。尤も、2015年度にふるさと納税を利用したのは130万人であり、市町村民税の所得割の納税義務者数の2.3%に過ぎない。受入額が1653億円に達したとはいえ、地方税収は38兆円以上ある(※2016年度地方財政計画による)から、全体で見た量的なインパクトは極めて小さい。この小ささは、ふるさと納税が地方間での税源の偏在の問題の解決に殆ど寄与しないことを示唆している。これについては、ふるさと納税が抑々、地方政府間の収入の差の問題を直接に解決しようとしていないことにも留意する必要があろう。

第三の問題点は、返礼品が地域の産業に与える効果である。返礼品をきっかけに地元産品のリピーターが増えたり、体験型返礼品によってファンが増えたりという事例もある。しかし、佐藤主光氏が指摘するように、「返礼品が人気なのは負担が2000円ほどで済んでいるからかもしれない」(※『週刊東洋経済』2016年2月13日号)。前述のように、負担が居住地の地方政府だけでなく、中央政府にも及んでいることを考えると、ふるさと納税とは、木下斉氏が言うように、「一部の地方産品を税金で買い取る一種の“公共事業”に過ぎない」(※『WEDGE Infinity』2016年3月19日)。即ち、補助金を使って地方産品を東京等でただで配ったり、安く販売したりしたのと同じであって、そのようなイべントが長期的な効果を持たないように、ふるさと納税にも永続的な効果は望めないと考えられる。他の地方政府がより魅力的な返礼品を用意すれば、ふるさと納税受入額が急激に減少してしまう可能性は十分にあり、その意味での政策リスクは大きいと言わざるを得ない。正常な価格の付いた市場取引を通じた販路の拡大が地方創生には不可欠であり、政策に依存した生産者が増えることは健全な地域振興とは呼べないだろう。第四の問題点は、寄付税制を利用していることに関連する。片山善博氏も指摘するように(※『世界』2014年10月号)、地方政府が返礼品付きで寄付を集めると、NPO等への寄付の意欲は相対的に低下する可能性がある。NPOは地方政府に比べれば知名度も信頼度も低く、従って資金調達能力も低いことが多いだろう。それ故、ふるさと納税はそのようなNPOを圧迫する可能性がある。また、佐藤主光氏が指摘するように、寄付文化そのものを毀損するかもしれない。寄付とは直接の見返りを求めず資金を提供する行為であるにも拘わらず、ふるさと納税は、寄付に対する返礼品を当然視する風潮を広めかねないからである。ふるさと納税の広まりは、“納税者の意識を地方に向ける”という目的に照らせば、評価できる部分もあるかもしれない。手軽で迅速に手続きできるという長所から、被災地支援にも活用されている。例えば、昨年4月の熊本地震では6月までに被災自治体に30億円を超えるふるさと納税が寄せられ、更に同年12月の糸魚川市駅北大火への緊急災害寄付は、12月だけで2億円を上回ったという。しかし、ふるさと納税にはこれまでに述べてきたような様々な問題点があり、徴税権を持つ地方政府が他地域からの寄付に頼りかねず、自地域の住民と向き合わなくてもよい制度となっている。地方政府は納税者に選ばれるよう施策の向上に努め、納税者は地方行政への関心と参加意識を高めるという本来の趣旨に沿った見直しが求められる。 (東京大学大学院准教授 別所俊一郎)


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