【ここがヘンだよ日本の薬局】(01) 「現状の薬局制度は薬剤師の尊厳とやり甲斐を奪っている」――狭間研至氏(『日本在宅薬学会』理事長)インタビュー

膨らみ続けた薬局の市場規模は、遂に縮小へと向かっていきそうだ。増え続ける医療費、加速する超高齢社会の到来等、様々な外的要因が囁かれているが、問題は他にもある。医師・医学博士にして起業家の狭間研至氏は、薬剤師の今後あるべき姿、“薬局3.0”を提唱している。「薬局は現在、成長期から成熟期に差し掛かっており、薬剤師の尊厳とやり甲斐を取り戻すことが、地域医療の発展に繋がる」と指摘する狭間氏に、薬局の未来像を伺った。 (聞き手/フリーライター 青木康洋)

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――日本全国には何故、これほど薬局が多いのでしょうか?
「厚生労働省の統計では、2015年度末には日本中に5万8326軒の薬局があると言われています。調剤薬局は通常、病院に隣接しており、その病院からの処方箋を受けることで経営が成り立っているのです。こういった薬局ビジネスのスタイルは、1970年代から急成長してきました。国策である医薬分業推進事業が追い風になったのです。医薬分業によって、医師が書く処方箋の枚数が激増しました。1974年には年間100万枚ほどでしたが、2015年には8億枚を超え、調剤医療費は7兆8192億円に達しました。これは、医療費全体の17%を占める金額です。2000年代初頭の10年間、構造的不況によって日本経済が右肩下がりだった時でも、前年比10%で伸び続けたのが調剤薬局という業界だったのです」

――“調剤バブル”とも言われますね。
「調剤薬局には、他のビジネスモデルにはない3つの強みがあリます。1つ目は、国民皆保険制度で行われる事業の為、顧客(患者)が費用の全額を負担する訳ではないこと。2つ目は、病院やクリニックに隣接して薬局を開局し、薬剤師を配置すれば、取り敢えず仕事は始められるというシンプルなビジネスモデルで、参入障壁が低かったことです。異業種からの参入も相次ぎました。3つ目は、与信管理が必要ない守られた業界であることです。報酬の支払い相手が健康保険制度を管理する国なので、支払いが滞ることは先ずありません。こうして、国の手厚い保護の下で病院の前に乱立した調剤薬局は、私のところも含めて、これまでこの世の春を謳歌してきたのです」

――大病院の前等に何軒もの薬局が軒を連ねている様子は、“門前薬局”と表現されますね。
「そうです。これまでは大病院近隣の土地さえ押さえてしまえば、黙っていても薬局が儲かる仕組みがありました。しかし、そういったスタイルは早晩、終焉を迎えます」

――何故、従来の薬局ビジネスが曲がり角に来ているのでしょうか?
「外的な要因と内的な要因とがあります。外的な要因とは、社会の変化です。日本は未曾有の超高齢社会に突入しました。今後も高齢者率は上がり続けます。年齢を重ねると疾病の罹患率は増えます。高齢化の更なる進展は、外来に通院できない患者を生み出します。つまり、患者数は増えているのに在宅や介護施設で病を養うケースが増えるのです。今までのように病院に来てくれる人が減る訳ですから、コバンザメのように病院前にただ出店しているだけの薬局には、厳しい未来が待っているでしょう。内的な要因は、薬剤師側にあります。薬剤師の資格を得る為には、大学の薬学科で6年間学ぶ必要がありますが、薬剤師の多くはその間に学んだスキルを十分に生かせていないのです。残念ながら、医師の処方箋に従ってただ薬を出すだけの業務に終始しているのが現状です。薬は、患者が服薬してどのくらいの時間で効き始めるかが大事なのですが、そういう専門知識を薬剤師は持っています。しかし、国家試験に合格して働き出した薬剤師は、皆さんよくやっているとは思いますが、薬を飲むまでの指導しかしていない。本当は服用後の薬歴管理が大切なのです。現状の制度の犠牲者的な部分もありますね。窓口で薬を渡すだけの作業なら、何れはロボットが取って代わる時代がくる筈です」

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――なるほど。では今後、薬局は淘汰されていくのでしょうか?
「(薬局数は)若干は減るでしょう。『今の半分くらいの数でいい』という極端な意見もありますが、そこまで減るとは思えません。日本は超高齢社会でありながら、医師の数は増えていません。従って、薬局や薬剤師を活用する必要性が高まる筈です。医師の業務は診断と薬の処方までですが、先程も述べたように、服薬後の患者の様子を把握するのは薬剤師の領分です。薬剤師の仕事は、レーシングカーのチューニングに似ています。医師が処方した薬を患者が飲んでも、薬の効き目は個々人によって違います。服用後の患者の様子を細かく見ていきながら調整をしていくという、本来、薬剤師が行うべき業務が今後は増えていくでしょう」

――先生が提唱なさっている薬局の新しいスタイル“薬局3.0”について教えて下さい。
「あらゆるビジネスモデルには、導入期・成長期・成熟期・衰退期というライフサイクルがあります。私は、薬局ビジネスをこのサイクルに当て嵌めて考えました。医薬分業元年である1974年から1991年までが導入期(1.0)、その後の2008年までが成長期(2.0)、そして2025年までが成熟期(3.0)と読み解いたのです。私が実家の薬局運営に携わることになったのは、医師になって6年目の2006年でした。先程のサイクルに当てはめるなら、丁度成長期から成熟期への端境期に当たります。どんなビジネスでも、ヒト・モノ・カネが経営資源です。薬局でもそれは変わりません。しかし、薬局経営に関わって驚きました。薬剤師は慢性的に不足していたし、大病院の近隣の土地は高騰する一方で、うちのような零細薬局には手が出せません。更に、処方箋枚数も頭打ち傾向でした。『これだけ世の中が変化しているのに、今までの門前スタイルにしがみ付いたままの薬局では未来は無い』と思ったのです」

――それが“薬局3.0”という発想に繋がったのですね。
「そうです。“薬局3.0”とは、端的に言えば薬局のあるべき未来像を構築することです。2006年、うちの薬局の開業30周年記念パーティーのスピーチで初めて発表しました。私は医師ですから、同業の薬局経営者から羨ましがられることが多かったんです。『お宅はいいですね。大学の同窓生名簿を見て、片っ端から電話をかけて営業をかければ儲かるじゃないですか』と。確かにそうかもしれません。しかし、仮にその通りにビジネスを拡大していっても、何か違和感がありました」

――詳しくご説明頂けますか?
「現状のままでは、薬剤師にとってやり甲斐のある業態にはなり得ないということです。今までのように、医師の処方箋に従って薬を患者に手渡すだけの業務では、あまりにも寂しい。患者をアスリートに例えるなら、薬剤師はコーチであるべきなのですが、“薬局2.0”までは給水ポイントでドリンクを手渡すだけのスタッフでした。勿論、私はこれまでの薬局のスタイルを全て批判している訳ではありません。医薬分業元年以降、処方箋の受け手となる調剤薬局を整備し、そこでリスクマネジメントやコンプライアンスの向上に従事する薬剤師を多数配置した実績は、非常に大きいと思います。しかし、その一方で、薬剤師の尊厳とやり甲斐に目を瞑らざるを得ない局面が少なくなかったのではないかと思います」

――今後のあるべき薬局の姿を提唱している訳ですね。
「はい。先ずは、立地依存から人材依存へ移行するべきだと思います。これまでの薬局は、“どこにあるか”を根本に据えてビジネスを展開してきました。しかし、今後は“その薬局に誰がいるか”が重要になってきます。これからの地域医療で求められる“薬局3.0”では、コーチとしての薬剤師が不可欠です。あくまで患者目線に立ち、患者の疾病治癒を目的として薬物治療の適正化に資する薬剤師が求められるでしょう。自らの業務にやり甲斐を感じ、仕事により尊厳を持てる。そんな薬剤師という人材を主軸に据えた薬局ビジネスを模索するべきだと思います」


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