【Global Economy】(36) 虚像の“シルクロード”…一帯一路の現場を歩く

中国が描く巨大経済圏構想『一帯一路』に対し、アジアの国々は「鉄道や道路等の整備が進む」と期待する。しかし、事業の元手となるお金が足りない。アジアの現場を歩いた。 (本紙中国総局 鎌田秀男・バンコク支局 杉目真吾・ジャカルタ支局 一言剛之)

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インドネシア第3の都市・バンドン。首都・ジャカルタまでの約140㎞を45分で結ぶ高速鉄道計画が、中国の主導で進む。一帯一路の目玉の1つだ。バンドン郊外のワリニ駅建設予定地を訪ねた。2019年の開業に向け、4台の重機が丘陵の造成作業をしていた。現場監督のハジ・ロザリさん(57)が、「土地を整備した後、駅舎を建てる。その次はトンネル工事だ」と説明してくれた。高速鉄道の総事業費は55億ドル(約6300億円)。うち4分の3を中国政府系の『国家開発銀行』が融資する予定だ。しかし、融資の実行は大幅に遅れている。経済成長に伴う地価の高騰で用地購入が難航し、完成の見通しが立たない為だ。この鉄道は元々、日本主導の“新幹線方式”の採用が決まりかけていた。これに対し、中国がインドネシア政府に負担を求めない破格の条件を示し、中国案が逆転採用された。日本の鉄道業界からは、「開業しても、事業費を賄うだけの収入は得られないだろう。融資計画は何度も見直されている。このまま永遠に完成しない“幻の鉄道”になるのでは?」との冷ややかな声が出ている。ミャンマーを南北に貫く大河・イラワジ。源流は、中国とインドとの国境に近い北部のカチン州にある。ここで中国企業が主導し、『ミッソンダム』の建設を進めてきた。しかし、住民の反対が強く、5年半前にテイン・セイン前政権が工事を中断した。ダムの予定地周辺では、河原に金色のパゴダ(仏塔)が立ち、人々が祈りを捧げていた。20軒ほどの茶店も並ぶ。観光客のサイ・チャオウーさん(50)は、「イラワジの源流域はミャンマー人にとり、特別で神聖な場所」と感慨深げだ。

川には工事の中断後、放置され、錆び付いたままの巨大な橋脚が残っていた。計画では、周辺の60以上の村が姿を消し、1万5000人以上が移転を余儀なくされる。反対する住民を懐柔しようと、中国側は移転補償金を積み上げ、移住者向けに新しい村も建設した。中国側の誘いに応じ、約400戸の新集落に移ったサイ・トゥン・エンさん(46)は当初、「家に電気が通り、寺も学校も病院もある」と喜んだ。ところが、畑も仕事も無い上、病院に常駐の医師はおらず、教師も少ない。結局、エンさんは出稼ぎに行き、家族はバラバラになった。中国は、硬軟織り交ぜて建設再開を画策する。地元の寺院の壁には、中国企業が僧侶を招待した中国旅行の記念写真数十枚が飾られていた。一行の代表だったトゥ・ミンガラ・ターミさん(67)は、「中国は電気を通し、道路も作る等、貢献している」と歓迎する。中国側は水面下では、ミャンマー政府に対し、建設が中止になれば数億ドルの違約金を払うよう要求してきたという。地元政府関係者の男性(41)は、「中国は地元政府に、海外メディアと接触しないよう圧力をかけ始めた」と明かす。政府レベルでは友好関係の構築が進む。先月訪中したティン・チョー大統領は、習近平国家主席との会談で、一帯一路への賛意を表明。習主席は見返りに、多額の経済協力と国境地帯の内戦終結に向けた支援を約束した。事実上の最高指導者であるアウン・サン・スー・チー氏は嘗て、ダム建設反対運動を支持していたが、最近は沈黙を続けている。一帯一路構想は、中国から中東欧・中東・アフリカに及ぶ。2013年に習主席が構想を表明して以来、関係国には中国との経済交流やインフラ(社会資本)投資への期待が高まる。だが、実態は思うように進んでいない。中国と“沿線国”64ヵ国(※中国を除く)との貿易総額は、2013年に1兆405億ドル(約117兆円)だったが、2016年には9535億ドル(約107兆円)と8%減っている。大手会計事務所『プライスウォーターハウスクーパース(PwC)』によると、沿線国の2016年のインフラ整備事業は、前年比2.1%増の4013億ドル(約45兆円)に留まる。M&A(企業の合併・買収)は48.7%減の925億ドル(約10兆円)と大きく落ち込んだ。PwCは伸び悩みの背景を、「一帯一路の対象地域には政治的な不安定さが残る為」と分析する。『SMBC日興証券』の肖敏捷氏は、「中国が描いた青写真は魅力的だが、細かな詰めが甘い。一帯一路は糸の切れた凧のようになる恐れもある」とみる。

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■AIIB、資金集められるのか
一帯一路構想に対し、アジア等の沿線国には不安も広がる。インフラ整備の資金が不足し、事業が進まない恐れがあるからだ。中国主導で設立した『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』は、市場の信用力や財務体質が弱い。お金を十分に集められず、巨額の貸し出しができなければ、AIIBとインフラ事業が共倒れになる可能性もある。一帯一路の沿線国は殆どが途上国だ。鉄道や道路、発電・通信施設等の整備は遅れている。日本の公共事業のように、国が国民から集めた税金を元手に支出し、道路等を建設できればいい。だが、途上国は税収が少なく、国の予算は限られる。この為、国際金融機関である『アジア開発銀行(ADB)』や『世界銀行』がお金を出してきた。しかし、途上国のインフラ事業は収益性が低い。建設費等を回収するのに15~25年かかるとされる。政情不安やテロの心配もあり、融資は慎重に行われる。経済産業省の通商白書によると、インド等の南アジアは2014~2020年にインフラ需要が3090億ドル(約35兆円)見込まれるが、予想される投資額は680億ドル(約7兆7000億円)に留まる。東アジア・太平洋地域も870億ドル(約9兆9000億円)の需要に対し、予想投資額は350億ドル(約4兆円)だ。そこで各国は、AIIBに資金の拠出を期待する。しかし、AIIBには市場の信用力が高い日米が出資しておらず、財務体質に不安がある。欧米の格付け機関は、AIIBがお金を集める為に発行する債券を格付けしていない。この為、AIIBは債券の信用力が低く、市場からお金を十分に集められない。中国が出した資本金等を元手に融資せさるを得ない状況だ。日本政府は今月6日、アジアのインフラ整備を後押しする為、ADBが創設する基金に、2年間で4000万ドル(約45億円)を拠出すると発表した。ADBの中尾武彦総裁は一帯一路について、「良いプロジェクトがあれば協力する余地はある」と述べた。日米が深く関わるADBがAIIBと上手に連携すれば、ADB主導の事業にAIIBの資金を活用する道も開ける。それは、アジアでの日本の影響力を一段と高めることにも繋がる。


⦿読売新聞 2017年5月12日付掲載⦿




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