【宮崎哲弥の時々砲弾】 未来は今(02)

前回、デフレとマイナス成長が政府債務の発行額を激増させた一因だったことを、具体的な数字を挙げて示した。世の財政均衡論者が決して触れようとしない財政赤字の要因である。俎上に載せた日本経済新聞『大機小機』の『教育国債の摩詞不思議』(3月30日付朝刊)は、こうも説いている。「戦争もない平和な時代に日本は借金をここまで積み上げてきた。少子高齢化が原因といっても、それは急に起こったわけでない。時間は十分にあったのに、ほとんど何の対策も取られなかった」。ここにのみ同意できる。デフレとマイナス成長を放置した15年こそが、財政赤字膨張の15年に他ならなかった。この事実は、エコノミストの村上尚己氏によっても精緻に検証されている(『金融緩和政策が財政赤字を招くのか』『アべノミクスは進化する』所収・中央経済社)。村上氏の結論部分を引用しておこう。「日本で1990年代半ばにデフレが始まってから、歳出・歳入双方の要因で財政赤字と公的債務は拡大した。歳出抑制の不徹底よりも、デフレと名目GDP停滞長期化による税収減少が、財政赤字を拡大させた影響が格段に大きかった」。対するに、先の大機小機は、「“教育国債”の議論は、小泉純一郎元総理が説いた“米百俵の精神”にも反する摩訶不思議な議論というべきであろう」と結語している。その“米百俵の精神”とやらに駆動された“聖域なき構造改革”の加速した年度の財政収支、公債の発行額を調べてから口を開いたらどうか? 序でに、同時期の完全失業率や“経済・生活問題”を原因とする自殺者数も是非参照されたい。当時の失業率の高さと自殺者数の多さには、後のリーマンショック時すら及ばなかった。

扨て、話は“教育国債”だ。当面は30年償還の国債を発行して財源の手当とするのが望ましい。“こども国債”を発案した民進党の玉木雄一郎議員は、財政への悪影響を懸念する声に、次のように答えている。「問題はありません。まず、思い切った子育て・教育支援によって子どもの数が増えれば、彼らは将来、立派な納税者になります。20年~30年償還の“こども国債”を発行すれば、彼らが自らその借金を返していくことになります。財政学でいう“自償性”の高い国債と言えます。さらに、子育てや教育を充実させることによって失業率などが改善すれば、将来にわたる様々な公的支出も抑制されるでしょう」(『“こども国債”の発行で日本経済は蘇る』・BLOGOS 2016年8月16日掲出)。教育への投資は、将来の経済成長にも繋がる。ロバート・D・パットナムの示唆に満ちた書、“危機に瀕するアメリカンドリーム”という副題の添えられた『われらが子“OUR KIDS”』の政策論の章をみてみよう(※第6章)。「ノーベル賞受賞の経済学者ジェームズ・ヘックマンが、早期幼児教育に高価な投資を行ったとしても、それが生み出す実質利益率(およそ6~10%)は株式市場からの長期リターンを凌駕するという推定を行っている。これらが封筒の裏におおざっぱに計算したようなものだということを認めたとしても、貧しい子どもの窮状を無視することは、われわれ全てに大きな経済的負担を課すのだということを結論づけないわけにはいかないだろう」(『われらの子ども 米国における機会格差の拡大』・創元社)。早期の財政均衡を要事とし、消費税増税や歳出削減を急かす者たちは、二言目には「将来世代にツケを回さない為」とプロージブルな甘言を弄してきた。それが錯誤であることは、上述の、近年における財政増悪のメカニズムを瞥見すれば瞭然だが、今回、こいつらが教育に目的を特化した国債発行にすら強硬に反対してくる様を目の当たりにして、“将来”への配意も嘘っぱちだということがわかった。短期も長期も観ぜず、目的も定見も理想も無く、ただひたすら緊縮と消費増税をやりたいだけなのである。


宮崎哲弥(みやざき・てつや) 研究開発コンサルティング会社『アルターブレイン』副代表・京都産業大学客員教授。1962年、福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒。総務省『通信・放送の在り方に関する懇談会』構成員や共同通信の論壇時評等を歴任。『憂国の方程式』(PHP研究所)・『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社)等著書多数。


キャプチャ  2017年5月4日・11日号掲載
スポンサーサイト

テーマ : 教育問題
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR