【オトナの形を語ろう】(24) 憤りが失せない限り、喧嘩は死ぬまで続いていく

前回、「喧嘩の作法として安全なのは、逃げて、逃げて、逃げまくれ」と話したら、読者から「逃げ切れるものなんですか?」という感想というか、疑問のようなものを頂いた。そういう疑問を抱くということは、その人が少し勘が優れており、真面ということだ。結論から言うと、「世界のどこにも逃げ通せる場所は無い」ということだ。どんな僻地であれ、寒村であれ、辺境の地であれ、人間が逃げ果せる場所は無い。それなのに何故、喧嘩は逃げるのか、最善策とは言わずとも、どうしてそれがいいのかは、前回話した。「人に殴られたことも、殴ったこともない者は、そんなことをせずに逃げなさい」と言ったまでだ。それで何とか逃げることができたとして、それは逃げ果せたということとは違うのである。何故なら、逃げたことを当人が一番よくわかっているし、その記憶はその先ずっと当人の身体から拭い去ることはできないものだからだ。その記憶は決して良いものではないし、何かにつけて現れるものだ。でも、それは知らんぷりをするか、放っておいて済むならそれで構わないだろう。人間の記憶なんてものは、自分の都合が良いように変容するものだから…。

では次に、「俺は侮辱・屈辱を受けたり、憤ったら、その場を逃げ出したくない」と言う人へ話をしよう。先ずは、君が至極真面な人間であることを言っておこう。私は君のような人が普通だと思うし、それでいいと思う。先ずは、喧嘩になるとはどういうことかを話そう。君も相手も、「このままでは許せない」という感情になっているし、お互いが「相手をへこましたい」と思っている訳だ。口で言っても、相手も自分もわからないのだから、手っ取り早いのが殴り合ってみることになる。君も相手も1人なら、それは運が良かったことで、2人でやり合えばいい。ややこしいのは、君にも相手にも連れがいるケースだ(殆どこのケースのほうが多いんだが)。君に連れがいても、加勢をさせないことが先ず喧嘩の鉄則だ。喧嘩は1人でやる。それが喧嘩だ。加勢があるのは喧嘩ではない。だが、相手に加勢がいたり、複数だった場合はどうするか? 相手の員数など全く関係がない。1人で、一番頭に来た相手に向かって突進していくことだ。「1人に向かって、多勢がかかって来るのはおかしくないですか?」。そんなことはない。喧嘩におかしいも卑怯もない。喧嘩は喧嘩であって、どんなやり方をしても構わないんだ。肝心なことは、この相手と決めた相手に向かって、最後までやり通すことだ。

「皆がかかってきて、ボコボコにされたらどうするんですか?」。ボコボコにされようが、半死状態だろうが、喧嘩は君が音を上げなければ終わることはないんだ。その日はペチャンコになっていても、身体が快復すれば、また向かっていけばいいだけの話だ。「喧嘩は実にバカげている」と前回話したのは、実は、この“自分が負けたと納得しなければ敗れることがない”点にあるんだ。君の憤りが失せない限り、喧嘩はずっと続いてくれるんだ。更に言うと、殴られ、倒れ、ボコボコにされる度に君は確実に強くなっているし、喧嘩を経験しなかったそれまでとは別の男になっているんだ。どんな相手にだって、弱みや脆いところが必ずある。殴られ通しの日は、それを見つけるのに専念することだ。倒れない相手・倒せない相手など、この世の中にはいないんだ。よく卑怯なことをして相手を倒したということを聞くが、それでも私はいいと思う。相手を倒すことが最終目標なのだから、構わない。ただ、卑怯なことをして相手を倒しても、君の気分が晴れるのならそれで構わないが、多分、そうはならないだろう。これが、喧嘩というものが持つ奇妙な点だ。こう書くと「正々堂々と喧嘩はすべき」と言っているように聞こえるが、そうじゃない。喧嘩は1人でやる。それが大前提にあるのなら、それで十分、喧嘩としては上等な姿勢なんだ。ここまで話せばわかると思うが、喧嘩には勝敗というものが殆ど無いんだ。あるとすれば、“どちらかが納得できた”ということが喧嘩の終焉になる。どちらかが納得できなければ、喧嘩は死ぬまで続けるものだ。喧嘩は1人でやる。そうすれば納得が見えてくるから。 【続く】


伊集院静(いじゅういん・しずか) 本名は西山忠来。作家・作詞家・在日コリアン2世。1950年、山口県生まれ。立教大学文学部日本文学科卒業後、『電通』に入社。CMディレクター等を経て、1981年に作家デビュー。『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』(集英社)・『大人の男の遊び方』(双葉社)・『無頼のススメ』(新潮新書)等著書多数。近著に『旅人よ どの街で死ぬか。 男の美眺』(集英社)。


キャプチャ  2017年5月22日号掲載




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