【熱狂!アニメビジネス最前線】(05) 「まだアニメは産業じゃない」――神山健治氏(アニメ監督)インタビュー

神山健治氏が初監督した近未来SFのテレビアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(S.A.C.)』(日本テレビほか)は、国内外で評価が高く、アニメ史に残る金字塔的作品だ。その名作から15年、神山氏が新たに手掛けた劇場アニメ『ひるね姫 知らないワタシの物語』(日本テレビ・ワーナーブラザース)は、SF色やファンタジー色を抑えたロードムービー。アニメ制作の第一線に立ってきた神山氏が、新作に込めた思いと、業界への苛立ちを赤裸々に語る。 (聞き手/本誌 前田佳子)

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――『ひるね姫』の主人公は、倉敷に住む普通の女子高生。従来の神山作品とは一線を画す設定です。
「東日本大震災後、アニメの見られ方が180度変わった。震災以前は、世界が終わる終末思想的で非現実な作品がよかった。『実際にはそんな日は来ない』と皆が思っていたから。だが震災以降は、変わらない日常こそがファンタジーになってしまった。今は、これまでなら企画が通らなかった青春もの等が好まれる一方、SFや壮大なファンタジーはあまり求められなくなっている。ヒーローの在り方も変わった。攻殻機動隊の頃は、中道左派的な立ち位置のキャラクターがよかった。体制側の人間なのに一般人に味方をする、水戸黄門のようなキャラクターだ。でも、今は個人が“寄らば大樹の陰”的な考え方をしていて、中道左派的なヒーローを求めなくなっている。ナショナリズムが台頭しているのもその為だろう。正義がどこに立脚すべきかが見えない時代だ。だから、ひるね姫では個人の思いにフォーカスした。SNSでも個人の独白が一番の娯楽だ。意外なことをぼそっと語ると、『こんなことを考えていたのか』と驚かれる。個人の思いのほうが、ファンタジーより楽しめるのだ」

――アニメのデジタル技術も進んでいます。ひるね姫では、どのように取り入れましたか?
「基本は手描きだが、紙でなくタブレットPCを使った。日本のアニメ制作は手描きが支えてきたが、紙に描くと一番肝心な絵を動かす部分がデジタル化されないままになる。だが、タブレットで絵コンテを描くとそのままムービー化できるので、作業効率が上がる。一方で問題点も見えてきた。アニメ制作は事実上、業界全体で支え合う仕組み。手描きなら、困った時は外部に力を借りられる。だが、デジタルの練度が高い人は少ない為、自分たちでやり切る必要があった。ひるね姫は劇場作品だからテスト的な試みができたが、業界がデジタルへ移行するのは簡単ではない。『日本のスタジオシステムは完成度が高くて、海外のクリエーターには真似できない。同じようなアニメは作れない』と言われてきた。だが最近は、日本のアニメに影響を受けたアジアや欧米の若者が、『手描きは大変だから…』とデジタルでアニメを作っている。『日本のアニメが好きだけど、進化しないし内向き。じゃあ、僕らが好きだった頃のアニメを模倣しちゃえ』と、個人レベルでも中々の作品が生まれている。昔の日本人は合理主義的だったのに、今のアニメ業界には『手で描くのが大変だからコンピュータを使う』という発想が無い。古い技術のままでは値段据え置きで、あんな大変な絵をアニメーターが1枚250~350円で描いていては賃金も上がらない。最近はDVDが売れず、寧ろ制作費は下がってきている」

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――デジタル化すれば効率化が進み、コストダウンできるのでは?
「『クリエイティブな作業にもっと時間とお金を使えるよう、デジタル化が進んでほしい』という希望を僕は持っている。だが、業界全体を見ると、紙と手描きを捨てたくない人もいる。だから難しい。手描きの場合、苦労が絵に映るので、直感的に凄いと感じる。勿論、PCを使う3Dも凄いことをやっているが、手描きのほうが自分にできないことをしている感じが付加価値を生む。プロスポーツを見ている感覚に近いかもしれない。スポーツを見ると優劣がわかるが、アニメも同じだ。『前回は絵が良くなかったが今回は巧い』とか、見て違いがわかることが、手描きのアニメを見る上での1つの評価軸になっている」

――アニメ市場は今、第4次ブームと言われる活況。これを追い風に、アニメ産業は変わりますか?
「率直に言うと、未だアニメは産業になっていない。自動車を例に取ると、誰もが優秀なエンジニアやデザイナーになれる訳ではないが、ある程度の学校を出た人なら就職できる。でも、アニメを職業にするには、相変わらず修業のような部分がある。また、この数年は確かに需要が増えているが、その収益は制作現場には中々還元されない。出資者にお金が戻る仕組みだからだ。この状況を本当に変える為には、アニメの制作会社自身が制作費を出さなければならない。それも、できれば全額。ただ、ここでの問題は、制作費を出す余力が無いという経済的なものだけではない。アニメ制作の現場は余力がゼロだから、収益があったとしても、当事者間で分配する作業をする人がいない。スタジオジブリは全員雇用で成功したが、次の世代に継続できるシステムにはならなかった。宮崎駿監督のように毎回、興行収入200億円超えて漸く成立する。ディズニーは、誰が監督でも大体同じ水準だからシステムと言える」

――今の構造では、優秀なクリエイターを集めることも難しくなる?
「日本のアニメを見て育ち、『自分たちも作りたい』と30~40代の人たちが海外からも来てくれている。フランスのアニメ会社と一緒に仕事をしたひるね姫では、実際に数名のフランス人が参加してくれた。アメリカのアニメーターとは賃金格差があり過ぎるが、ヨーロッパならギリギリ成立する。少しずつ変えてきたつもりだが、結果としては20年前と全く変わっていない。『好きなことをやれれば、お金は少なくてもいい』と言う人がいると、そこに仕事が集まる。でも、それはやる気の搾取だ。僕も20代の頃、『お前らが安いカネでクオリティーの高いものを作るから、皆が食えなくなる』と先輩に言われた。その時は『兎に角、話題作を作りたい』という一心で、『いい作品を作れば、お金は後からついてくる』と呪文のように言いながら作っていた。今になると、先輩の言葉の意味がわかる。だから業界を変えたい」


キャプチャ  2017年4月1日号掲載
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