【トランプ大統領100日】(01) 娘婿は“陰の国務長官”

世界を揺るがすアメリカのドナルド・トランプ大統領。政権発足100日の足取りから、新たなステージを占う。

20170516 05
先月29日夕、ペンシルベニア州ハリスバーグ。建築用具の生産ラインが並ぶ工場に、大統領就任から100日の節目を迎えたドナルド・トランプ(70)の姿があった。「“Made in USA”がどんどん戻ってくるぞ。雇用・富・夢を嘗てないほど取り戻すんだ」。熱弁を振るうトランプの傍らに、大統領首席戦略官で上級顧問のスティーブン・バノン(63)がいた。この場でトランプは、全ての通商協定の見直しを視野に点検する大統領令にサインした。“ラストベルト(錆び付いた工業地帯)”と呼ばれる同州で、共和党は昨秋の大統領選を28年ぶりに制した。“経済的に追い詰められた白人層の怒り”というトランプ勝利の原点を確かめる100日目の演出は、その立役者であるバノンが仕切った。だが、ホワイトハウス内の景色と空気は異なる。大統領執務室から書斎を挟み、西に数m。トランプに最も近い場所に部屋を陣取るのは、長女・イバンカ(35)の夫で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー(36)だ。バノンのオフィスは、更にその奥の西隣にある。バノンとクシュナー。トランプを支える最側近と目された2人は、先月6・7両日にあった初の米中首脳会談で、深い溝を隠しようがなくなった。クシュナーは対中強硬派のバノンを差し置き、駐米中国大使の崔天凱(64)との調整を重ねて、対中協調路線のレールを敷いた。幻に終わったものの、共同声明の文案をやり取りするまでの関係を築いた。フロリダ州にあるトランプの別荘での夕食会で、バノンが座ったのは末席だった。「君にしか中東に平和を齎すことはできない」。トランプは、歴代大統領が取り組んできた難題である中東和平交渉も、ユダヤ系アメリカ人のクシュナーに委ねる。“陰の国務長官”。アメリカのメディアは、クシュナーをこう呼び始めた。

父親が民主党に多額の献金をしたことがあるクシュナーは、自身も根がリベラルで、バノンを“ナショナリスト”と呼ぶ。バノンは嫌悪感を込めて、“ニューヨーカー”とクシュナーの陰口を叩く。ニューヨークのビジネス界で成功し、現実主義で妥協も厭わない手法が姑息と映る。「トランプは、常に勝ち続けている人間が好みなんだ」。ある政権幹部は解説する。イスラム圏からの入国制限令で失態を演じたバノンに対し、クシュナーに目立った失点は未だ無い。「夕食をどうだ?」。妻子をニューヨークに残すトランプは最近、夕方になると、独身である国防長官のジェームズ・マティス(66)を頻繁に誘う。政権発足直後、バノンが纏めた入国制限令を、マティスは当日まで知らされなかった。テロ掃討作戦で連携するイラクまで対象としたのに反発し、その後、除外させた。政権内の軍出身幹部も、トランプの身内と足並みをそろえて、バノンを脇へ追いやる。バノンに近かった『国家安全保障会議(NSC)』担当の大統領補佐官であるマイケル・フリン(58)が、ロシアとの癒着疑惑で辞任。陸軍中将のハーバート・マクマスター(54)は、人事権を持つ約束を得て後任に就き、バノンをNSC常任委員から外した。「人の話をよく聞くんだ」。首相の安倍晋三(62)が周囲に語るトランプ評だ。「何かあれば連絡を取ろう」。2度の会談を経て、こんな関係を築いた両首脳は、先月だけで4回も電話で話した。北朝鮮封じ込めにシリア攻撃――。“身内+軍人”ラインが主導し、孤立主義から“世界の警察官”ぶりを発揮する現実路線への転換に、同盟国は安堵する。だが、“バノン外し”には“アメリカ第一”が色褪せ、トランプの中核支持層が離れるリスクも同居する。「どうだい? こんなに赤が多いんだぜ」。トランプは、執務室の机に1枚の地図を忍ばせている。大統領選で民主党候補のヒラリー・クリントン(69)が獲得した州を青、自身が得た州を赤で色分けした。今も尚、来訪者に得意げに見せている。信任投票となる来年の中間選挙でも赤く染められるか。トランプは今月1日、バノンとクシュナーの確執についてメディアに語った。「一部のスタッフの関係が少し刺々しい時期もあったが、私が協力するよう言った」。火種を抱えたままの側近の権力争いの行方は、トランプの立ち位置と命運を決定付ける。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年5月9日付掲載⦿
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