【Deep Insight】(12) ヤマトに映るアマゾン膨張

地球規模で見ると、ものの動きは緩慢らしい。『日本銀行』の黒田東彦総裁は最近の講演で、リーマンショック以降続く“スロートレード”に触れた。世界の貿易量の伸びが経済成長率を下回る現象だ。ところが、日本国内に目を転じれば、ものの動きは激しい。宅配便がそうだ。人手不足にも拘わらず荷物が急増しているのを受け、生みの親の『ヤマト運輸』は値上げや働き方改革に動いている。繁忙の原因は電子商取引(EC)、中でも『Amazon.com』の荷物の増加だ。昨年のAmazon発の荷物は推定4.5億個。『日本郵便』1社の宅配事業に匹敵する規模とされている。ヤマトはその内の6割強を運ぶ。東京都大田区にある、『東京ドーム』4個分の仕分け施設『羽田クロノゲート』を見れば、繁忙を実感できる。ベルトコンベヤーを行き交う箱、箱、箱。翌日や当日の配送を担う巨大施設は中部・関西にもあり、建設に2000億円かかった。メガバンクの基幹系システム並みとされる情報システムにも、ヤマトは毎年数百億円を投じている。だが、Amazonの巨大化の速度は、そうした運び手の努力を上回る。同社の昨年の売上高は1.2兆円と、5年前の2倍以上に拡大。物量に加え、不在顧客への再配達の急激な増加に耐え切れなくなったヤマトは悲鳴を上げ、最近は当日配送の引き受けを止める方向で検討を余儀なくされている。日本は影響が小さいほうとの見方もある。“小売りのEC化率”は、中国やイギリスの約13%、アメリカの約8%に対し、日本は未だ5%だ。アメリカでは大手書店チェーンや家電量販店の経営破綻が相次ぎ、小売り最大手『ウォルマート』の株式時価総額がAmazonに抜かれる現象も起きた。当日配送のようなサービスの見直しはあっても、消費者は一旦享受した便利さを手放さず、日本でもEC化の流れは止まらないだろう。今のペースなら、Amazonの日本での売上高は4~5年で3兆円を超す。マーケティング等で得られる付加価値(粗利)を売上高の3割と仮定すれば、その規模は1兆円弱。『トヨタ自動車』の昨年3月期の純利益の半分弱だ。自由競争の結果とはいえ、EC化が加速するにつれて、日本の小売市場で生じる利益がAmazonに吸い上げられる度合いは高まる。カネだけではない。『野村総合研究所』の谷川史郎理事長は、「足元のものの動きはグローバル(G)とローカル(L)で繁閑の差が見られるが、カネと情報(データ)はGとLで太く、深く繋がっている」と話す。

好例が、Amazonのクラウド事業『アマゾンウェブサービス(AWS)』だ。自社の巨大サーバーとシステムを他社にも使えるよう提供し、営業利益の7割を稼ぎ出している。同社はECの大手であると同時に、世界でシェア3割強を握る大手クラウド会社でもある。驚くのは、AWSが“起業の場”になっていることだ。人工知能(AI)の機械学習プログラムも無償で公開している。資金が限られるベンチャー起業家は、Amazonと契約することで、僅かな手元資金でも事業を円滑に始められるという。成功事例の1つが、動画のインターネット配信最大手『NETFLIX』だ。勿論、Amazon自身の利点も大きい。ベンチャー企業に限らず、「初期投資を抑えたい」と考える企業が世界中からクラウドに繋がれば、大量のデータが集まり、自社のAIを進化させ易い。「こうした循環ができると、輸出から直接投資への順番で進んできた企業のグローバル化の流れが一変する可能性がある」と、『ボストンコンサルティンググループ』日本代表の杉田浩章氏は話す。AmazonのECのプラットフォーム(基盤)を活用し、日本国内だけでなく、欧米やアジアに向けてもものやサービスを直接売りたい企業や個人は増えるだろう。起業した瞬間から即、グローバル企業という事例も出てくるかもしれない。結果的に、Amazonのクラウドも一段と巨大化していく。脅威論を語る訳ではない。だが、海外企業が流通・情報・起業という重要な部分を握り始めた点は、検証の余地がある。では、日本はどうすべきか? Amazonに対抗し得る自前のプラットフォーマーやクラウド運営者を、官民を挙げて作るか。或いはヨーロッパのようにそれを断念し、独占禁止法やプライバシー保護の観点でAmazon等の巨大化に抑止力を働かせようとするか、だ。ビッグデータが爆発的に増える“繋がる自動車”の時代を睨み、“日本版クラウド”を築くのも手だろう。一方で、東京大学の柳川範之教授は、「巨大化を気にする前に、本質的に重要なサービスを提供できているかどうかが大事だ。Amazonはそれができており、敵対するより十分活用して、新技術・ビジネスを生むのも一案」と話す。モノ・カネ・物流を握り、繁栄した点で、Amazonは嘗てのオランダやイギリスの『東インド会社』に匹敵しよう。東インド会社は電信電話の普及で衰えたが、Amazonは“情報”も手中にしている。問題は『Google』・『Apple』・『アリババ集団』・『騰訊控股(テンセント)』等、Amazonに似た巨大なプラットフォーマーがアメリカや中国で複数勃興していることだろう。ヤマト問題が炙り出したAmazonの膨張ぶりは、そうしたプラットフォーマーとどう競争し、或いは協調するかの宿題を日本企業に突きつけている。 (本社コメンテーター 中山淳史)


⦿日本経済新聞 2017年4月14日付掲載⦿
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