極寒地でトマト、プロ用手袋…ロシア市場に商機あり、サケやマスの孵化器も

20170516 08
冬場はマイナス60℃を超える極寒のシベリアの都市、ヤクーツク。昨年12月末、真っ赤な取れたてのトマトがスーパーマーケットの店頭に並んだ。中国産の輸入品の2倍近い価格ながら、地元の主婦らが殺到。初回出荷分の約60㎏は即完売した。それもその筈。このトマトは厳しい自然環境下、新鮮な野菜の調達に慢性的に苦しむヤクーツクで育った地元産だからだ。特別仕様で作られたビニール張りの“トマト工場”は、ヤクーツクの郊外にある。暖かな光が灯って、冬や夜はよく目立つ。建設や運営を指導したのは、園芸施設を手掛ける『ホッコウ』(北海道札幌市)だ。北海道で培ってきた寒冷地向けの技術を、惜しげもなく投入した。ホッコウとヤクーツクの出合いは2015年に遡る。地元で安全な野菜を安定的に栽培したいロシアの現地当局者らが、情報収集の末に辿り着いたのがホッコウだった。人口約30万人のヤクーツクでは、冬場を中心に塩漬け野菜で凌ぐことも多く、健康面からも生野菜の確保が重要な課題となっていた。温室計画は過去にもあったが、厳しい自然や安定的な栽培ノウハウが足りず、悉く挫折してきたという。ロシアからの依頼と聞き、ホッコウの宮本悦朗社長は最初、半信半疑だった。だが、何度か現地の視察団を受け入れるにつれ、本気だと実感。協力することを決めた。ロシア側は当初、一挙に3万㎡に上る温室整備を希望したが、ホッコウは先ず実証棟として1000㎡規模を提案。こうして、昨年半ばにプロジェクトが動き始めた。

温室の壁は、北海道ではフィルムとフィルムの間の空気が断熱材の役割を果たす2層フィルム。だが、ヤクーツク向けは断熱効果をより高める為に、3層構造のフィルムを特別に開発した。資材と設備は日本から運び込む一方、慣れない氷の大地での基礎工事は現地企業に委ねた。更に、温度や水のデータ解析を担当する3人のロシア人の教育も並行して日本で実施。「ハコモノだけでは円滑な栽培はできないから」(宮本社長)と、基本から粘り強く指導した。そして迎えた収穫の日。煌々とランプに照らされながら、20~25℃に保たれた温室内ですくすくと育ったトマトを前に、ヤクーツクの当局者は思わず呟いた。「ここまで上手くいくと思わなかった」。ロシアでは暖房用のガスが産出され、安価に調達できるのは強みだ。今後は、本来の目標である3万㎡の温室整備という新たな段階に入る。20億円強の費用を投じ、2020年を目途に全面稼働させる計画だ。新鮮な野菜を欲するシベリアの人々にとって、ホッコウは不可欠な企業と言える。このプロジェクトにおける資材の輸出等の煩雑な実務を支えた日本企業がある。『北海道銀行』やホームセンターの『DCMホーマック』等計9社を中心に、1億円の出資で2015年10月に設立された『北海道総合商事』(北海道札幌市)だ。自社だけで海外に進出するのが難しい中堅・中小企業の共通部門として、小回りの利く“地域総合商社”を目指す。社長は、ロシアでの駐在歴もある元銀行マンの天間幸生氏。従業員数13人の小所帯ながら、サハリンプロジェクトの経験者らが脇を固める。所変わって、人口約60万人の極東の中核都市、ウラジオストク。古くから港町として発展してきた中心部では、北海道総合商事が主体となったプロジェクトが進行している。オフィスビルや役所の立ち並ぶ一角に、その場所はある。北海道産品等を扱うアンテナショップ、名付けて『まんぷく猫』(※右下画像)だ。何気ないビルに設けられたコンビニエンスストアほどの広さの店内では、コメ・玉葱・加工食品・飲料等、日本の数社の商品が並ぶ。出品企業は陳列スペースに応じた料金を払うことで、ロシアの消費者や小売店のバイヤーの反応を探ることができる。目下、日本の約40社と商談が進んでおり、今月中にも本格開業する。日本企業がロシアに進出する際には、金融機関の役割も重要になる。「通常、地方銀行は日本の地元企業の後追いで海外に出るが、当行はその逆を行く」。そう強調するのは、北海道銀行ロシア室長の三上訓人氏だ。一般的に、地銀は海外進出した地元企業が一定数に達し、金融や情報収集のニーズが出てきた段階で、漸くその国に出店する。だが、北海道銀行は2009年にユジノサハリンスク、2014年にウラジオストクと先手を打って拠点を開設。ハバロフスク市やサハリン州等、極東地域の自治体や金融機関等、ロシアにおける業務提携先は既に8つに上る。このネットワークを活用し、取引相手となるロシア企業の目利き等、実務に欠かせない情報の精度を高めている。

20170516 09
ロシア進出には何かと不安が付き纏う。だからこそ、銀行が先ずロシアに足場を作ることで、顧客の中堅・中小企業に安心感を与えて背中を押す。北海道銀行を頼るのは、地元の北海道企業だけではない。様々なカントリーリスクを抱える世界各地でプラント建設を遂行する『日揮』もだ。日揮は、ハバロフスクでの野菜栽培用の温室建設にあたり、現地事情をよく知る北海道銀行に協力を要請した。温室事業を運営する企業には北海道銀行系のファンドが出資。冒頭に紹介したヤクーツクと同様、順調に事業が進んでいるという。このように、ロシア進出を支えるインフラの整備が進む中、独自の技術や品質を武器に市場開拓を本格化させる動きが加速している。「現在のルーブル安(※2013年の1ルーブル=3円前後から足元では2円程度)は大きなチャンス。取引先開拓等、今後の成長に向けたロシアでの活動費を安く済ませられる」。こう話すのは、寒冷地向け手袋の企画・販売を手掛ける『青井商店』(北海道旭川市)の青井貴史専務だ。マイナス40℃でも柔らかさを保ち、指を動かす作業がし易いゴム手袋等を扱う。年に60日前後はロシアに出張し、各地の見本市への出展や取引先との関係構築に力を注ぐ。今年2月には、シベリア最大の都市・ノボシビルスクで開かれた建材系の見本市に出展。その際には「(サンプルとして持ち込んだ)商品を購入したい」との要望が多かった為、急遽販売し、約100双が完売した。青井氏は、「日本製の品質への評価は高く、販路が広がってきた」と手応えを示す。

元々、2012年に北海道庁が開いたロシアビジネスセミナーに参加したのがきっかけ。寒冷地仕様を生かした新しいビジネスの可能性を探り、感触も悪くなかった。ただ、自治体のイベントに依存すると、事業の進捗が自治体の動向によって左右される。次第に「民間ベースで自主的に事業を継続することが重要だと実感した」(青井氏)という。そこで2014年、同じくロシアビジネスに関心のある約10社の仲間を中心に『北海道ロシアビジネス未来の会』を結成。共同での現地視察や情報交換等、地道な活動を続けてきた。ロシアでは、建設・ガソリンスタンド・警備等、屋外作業が多い現場を中心に、プロ仕様の手袋の需要は少なくない。だが、これまでは安価なゴム手袋を何重にもして使ったり、分厚い毛皮の手袋を使ったりと、指先を動かし難い状態だった。ここに、機能性に優れた手袋が入る余地があるとみた。2015年からサハリンの取引先を足掛かりに、ロシアへの輸出を開始。安いゴム手袋でも1000円程度と、現地で流通する安価品の数倍の価格だが、極寒の作業現場で働く人にとって背に腹は代えられない。持ち前のフットワークの軽さから、ロシアでの販売代理店も拡充。本格的な収益貢献はこれからだが、輸出数量は増えつつある。民間ベースで地道に種を蒔き続けてきた各社のロシア事業を後押しする為、日本政府も動いている。今年3月上旬、『ロシアNIS貿易会(ロトボ)』が札幌市で開いたロシア極東経済に関する講演会は、地元企業の関係者ら50人超で満席となった。登壇した『極東経済研究所』のエコノミストであるパーヴェル・ミナキル氏は、極東開発を重視するロシアの政策を説明。日本政府が表明したロシアへの経済協力プランについて、「日本の企業がどの程度、実際に参画するかが成功のカギを握る」と指摘した。経済協力プランとは、停滞する北方領土交渉の打開を目指し、昨年5月の首脳会談で安倍晋三首相がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に提示した8項目が柱。中小企業のロシア進出や極東開発等だ。同12月のプーチン大統領訪日では、日本の投融資計画が3000億円規模に達することが明らかになった。先月の安倍首相訪露の結果も含め、協力案件は商社やメーカー等の約100件となっている。日本政府による対露経済協力の積極化を契機に、滞っていた日露間のビジネスが活発化しそうだ。そんな期待交じりの機運は、じわりと広がりつつある。

20170516 10
サケやマスの孵化器等を手掛ける『フラット合成』(北海道札幌市)の西崎建夫社長もその1人。旧ソビエト連邦時代から現地の水産当局向けに製品を出荷してきたが、最近になって目立つのはロシアの民間企業からの引き合いだ。極東を中心に複数の案件が同時進行しており、「これまでにあまりなかったことで驚いている。ロシア企業の設備投資意欲の高まりを感じる」(西崎社長)。ウラジオストクの中心部では先月下旬、『炭火居酒屋 炎』がオープンした。ロシア語だらけの通りにあって、その看板は一際目立つ。北海道で80店超の居酒屋等を展開する『伸和ホールディングス』(北海道札幌市)のロシア1号店だ。店内に足を踏み入れれば、提灯や『アサヒビール』のポスター等で飾り立てられ、ロシアにいることを一瞬忘れてしまうほど。日本と違うのは、鉢巻きを着けたロシア人スタッフが、北海道名物の鶏の空揚げ・刺し身・鍋料理等を提供することくらいだ。ロシアでも日本食は人気で、和食を出すレストランは増えているが、日本の居酒屋チェーンの本格出店は初めてだという。店舗を訪れたロシア人男性は、「本場の味は他のお店では体験し難い」と笑顔を浮かべる。伸和HDは、ウラジオストクで数店を出店した後に、ハバロフスクやサハリン等への出店を計画。佐々木稔之社長は、「日本とロシアの架け橋になるような店にしたい」と意気込む。中流層以上のロシア人を主要顧客と位置付けるが、現地を訪れる日本人が増えれば、顧客基盤はより厚みを増す。

但し、旧ソ連やロシアといえば、北方領土問題や政治体制の違いから、日本では“怖い国”といったイメージも依然根強い。資源を梃子に、長期的には経済成長の伸びしろが大きいと見られながらも、多くの日本企業が進出に及び腰だった理由だ。そんな潮目を変えようと、新たな取り組みも始まっている。『日本貿易振興機構(JETRO)』は今年1月から、全国の中堅・中小企業を対象に“ロシア展開支援事業”に取り組み始めた。日本政府の経済協力プランに基づいた動きだ。「ロシアに興味があるが、何から始めればよいかわからない」といった段階から、具体的な進出計画やパートナー企業の探し方まで、幅広い相談に応じる。ロシア展開支援事業の目玉は、ロシアビジネスに精通した外部の専門家10人からなる助っ人集団だ。元商社マンらロシアでの貿易実務や駐在経験のある選りすぐりの人材を結集した。相談企業は先ず、専門家との面談により、自社の強みやロシアで展開できそうな事業内容を整理。3回の面談を経て、事業計画の具体性や有望性をジェトロから認められれば、本格的な支援の対象になる。そこからは、専門家が二人三脚でロシアでの取引先の開拓や契約等事業立ち上げを支援する。専門家に関わる人件費や国内外への出張費等はジェトロが負担。「リスクを低く抑えつつ、ロシアビジネスを始めるきっかけを提供したい」(ジェトロ企画部の梅津哲也氏)と意気込む。これまでに北海道・関東・関西・山陰等、地方の約90社から相談が寄せられている。食品・日用品・機械部品等、業種は様々。ジェトロは事業を2018年度までの2年間続ける予定で、計150社の支援を目指す。助っ人の1人である菅原信夫氏は、『伊藤忠商事』で産業機械の対露輸出に従事する等、通算17年のロシア駐在歴を持つ。ロシア関連の貿易実務・企業設立の方法・経営全般に精通する。菅原氏は今年3月、新事業を模索する兵庫県の機械関連商社の担当者と早速面談。ロシアでの商品ニーズ等に関する質問に答えた。未だ端緒だが、この他にもジェトロ経由で10件程度が舞い込んでいるところだ。日本の官民団体が今年、特に力を入れるイベントが、7月に開かれるロシア最大級の産業見本市『イノプロム』。ロシア中部の工業都市・エカテリンブルクでの恒例行事だ。今年のパートナー国として、昨年のインドに続き、日本が選ばれている。パートナー国として日本企業の情報発信が例年以上に重視され、各種会合にも優先的に参加できる。日本パビリオンも初出展し、数万人と見込まれる来場者へアピールする。ジェトロ等は、ロシアの取引先を開拓する為の絶好の商談の場とする。

ロシア経済は、原油価格の下落やルーブル安、ウクライナとの紛争による欧米からの経済制裁等が響き、2015年から2年連続でマイナス成長に陥った。日本との貿易関係も、金額ベースでは近年はやや低調。日本から見た輸入は、エネルギー価格の低迷で減少し、中古車等日本からの輸出もルーブル安等が逆風となった。ただ、今年は「原油価格の緩やかな上昇を背景に、経済は底打ちに転じる」との予測が多い。ジェトロは昨年12月、ロシアに進出している日系企業を対象とした業況調査結果(※110社のうち83社が回答)を発表。2016年の業績について、営業損益が黒字と回答した企業は62.7%と、2013年の調査開始以来、初めて6割を超えた。今後1~2年内の事業展開の方向性についても「拡大」との回答が5割を超え、悲観論は後退しつつある。ロシアを巡っては、行政手続きの煩雑さや代金回収等、身近なリスクの他、カントリーリスクにも目配りする必要があるのは否定できない。とりわけ、日本企業の関係者の間で苦い記憶となっているのが、2006年に発生した『サハリン2』プロジェクトの権益譲渡の問題だ。当初は『ロイヤルダッチシェル』・『三井物産』・『三菱商事』という外資系企業の出資で液化天然ガス(LNG)の開発が進行。だが、ロシア政府は環境破壊を口実に工事を一時中断させる等、揺さぶりをかけた。結果、外資系連合はロシアのエネルギー大手『ガスプロム』へ出資の過半を譲渡する事態に追い込まれた。ロシアは、時の外交や内政の重要カードと見做せば、産業への露骨な国家介入も厭わない面はある。ただ、今や日本の中堅・中小企業でも海外展開は当たり前の時代。「ロシア企業でも国際的な商習慣は根付きつつあり、中国等に進出しているならロシアを過度に特別視する必要はない」と多くの関係者は語る。一般的に、ロシアでは日本に対する感情も悪くはない。北海道総合商事やジェトロの取り組みを始め、初期投資やリスクを抑え、身の丈に合ったレベルで試しに進出してみるインフラは整いつつある。そして、取材した専門家や進出企業が口を揃えて強調するのが、ロシアで頼りになるパートナーや取引先選びの重要性だ。自社の強みを理解し、継続的に互恵関係を築ける相手と巡り合えるかどうかが、成功のカギを握る。ビジネスの可能性を期待するなら、現地の見本市等に足を運ぶことも有効だ。その過程で、外部の専門家や銀行のアドバイスも得られる。リスクばかりが注目されてきたロシアにも、様々な商機が生まれている。 (取材・文/本誌 寺井伸太郎)


キャプチャ  2017年5月15日号掲載




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