第2の電通事件、『三菱電機』でも新入社員が過労自殺――「今後も新人を殺す可能性もある」、倫理・遵法理念から程遠く

「私は三菱につぶされました」「全員の前で公開処刑されました」。悲痛な言葉を遺書に認めて旅立ったのは、『三菱電機』に勤務していた隆さん(仮名・当時25)。この名門企業の如何なる体質が尊い若者の命を奪ったのか、三菱電機はその真相を明らかにしていない。時あたかも、2018年度の新卒採用の真っ只中で、リクルートスーツ姿の学生が夢を追ってオフィス街を行き交う。丁度1年前にも、911人の新入社員が三菱電機の社章を胸にここに集った。自殺した隆さんも、「輝かしい未来が待っている」と信じて、この晴れの舞台に列席したに違いない。8ヵ月後、自らその若き命に終止符を打つまでは――。

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入社1年目の『電通』社員の過労自殺に世間の耳目が集まるその陰で、日本を代表する総合電機メーカーでも、1人の有為な人材が自ら命を絶った事実は知られていない。“集まれ、世界をつくる情熱”――。今、三菱電機がホームページで学生に呼び掛ける高尚なフレーズが空々しく響く。宮城県仙台市に住む家族に悲報が齎されたのは、昨年11月17日朝のこと。母親は、三菱電機社員寮の担当者から、長男の隆さんが兵庫県三田市の寮で自殺していたことを電話で伝えられた。警察署で無言の我が子と対面した後、刑事から「大事な物です」とビニール袋1つ分の遺品が返却された。遺書は、数式やプログラムのチャートが書かれた大学ノートに計4ページに亘り、自筆で記されていた。「分からず質問をしても、オープンな質問は受け入れないと言い、否定されました」「私の意見を聞きいれてくれません」「私は心を折られました」。三菱電機通信機製作所ソフトウエア製造技術課の上司3人の実名を挙げ、最後の訴えを振り絞っている。隆さんは上司に質問しても教えてもらえず、逆に答えられない質問を投げつけられ、「私はどうすることもできません」と絶望とも取れる心境に。チームリーダーは、隆さんが苦しむ状況を知りながら叱責し、困難な課題を与える。しかも、その課題を隆さんが何とか仕上げると、今度は課長と2人で「何これ?」と笑った。遺書には、「いままで情報をやってこなかった人間にさせる仕事ではないはずです」という言葉が残る。隆さんは大学院で通信技術を研究してきた為、ソフトウエア製造のプログラミングは門外漢だった。また、大学時代に使っていたものとは違うコンピューター言語をゼロから学ばなければならなかった。このことは、会社側が遺族に開示した勤務報告書でも確認された。一方的で高圧的な新人教育が浮かび上がってくる。「家族との別れがつらいですが、人格を否定してくる三菱で、○○(※指導係の上司・実名)と一緒に働き続けるほうがツライので私は死を選びます。私を死に追いやった関係者には罰を受けて欲しいです。家族は私のことは忘れて、幸せに生きてほしいです。4人と1匹、仲良く!」と続く遺書は、こう結んでいる。「三菱は私のことを一生忘れないでほしいです。特に○○は今後も新人を殺す可能性もあるので注意です」。

この遺書は、三菱電機の不正疑惑にも言及していた。専門用語を鏤めながら、「コンプライアンスに反する行為をさせられました。工数の付け替えです」。三菱電機は2012年、防衛省に対して水増し請求が発覚。40年以上に亘り、同省を騙して税金をくすねていたことが判明した。その手口こそ“工数の付け替え”だった。そして、水増しに手を染めた部署の1つが、隆さんの所属していた通信機製作所であり、この詐取が今も続く証左とみられる。隆さんは昨年11月15日、ぶら下がり健康器をインターネットで注文した。翌日に届き、その日の深夜に真新しい器具にロープをかけて絶命した。死の2週間前、隆さんは仙台市の実家に帰省している。追い詰められる心境の中、これが最後のせめてもの親孝行と考えたのだろうか。隆さんの父親を訪ねて話を聞くと、重い口を開いてくれた。「兎に角、家族のことを大事にしてくれる息子でした。目立つことは嫌いでしたが、真面目で正義感が強い子でした。昨年春、三菱電機に入ってゴールデンウィークに戻ってきた時に、家族を食事に連れていってくれました。11月の帰省のときは、本当に何も気付きませんでした。ただ、弟が後から、車で出掛けた時に(隆さんが)静かに空を見上げていたと話していたのを思い出しました。本当は何か訴えたかったのかもしれないと思うと…」と言葉を詰まらせた。大学院の恩師は、「こんなことになるなら、大学に残って、是非研究を手伝ってほしかった。彼は『早く就職して親に恩返ししたい』という意思があった為に、強く慰留しませんでした。あの時、残していれば…」と悔やんだという。三菱電機では通常、新人研修を終えた6月頃に当該部署に仮配属され、翌年4月に正式配属となるという。大学院出身者に求められているのは高度な専門性であり、畑違いの場所にいても宝の持ち腐れだ。隆さんは、家族に「来年から志望していた部署に移る」と語っていた。通信機器の運用にもソフトウエアは必要であり、経験を積ませる目的だった可能性があるが、そうであれば、追い詰められるほどの負荷をかけたのは、明らかに会社側のミスではないか。隆さんの自死だけを特殊な事例と割り切ることはできない。三菱電機では昨年11月、元研究職の社員が「職場での長時間労働等が原因で適応障害を患った」として、労災が認められた。3万4000人の従業員の内、過半数を技術系社員が占める三菱電機の研究・開発の現場で、パワハラや違法残業が横行していることが明らかになったからだ。メーカーの心臓部である研究・開発部門の若い社員を潰してしまう「病巣が表面化したに過ぎない」(別の三菱電機元社員)。労災が認められた元社員が働いていたのは、神奈川県鎌倉市の情報技術総合研究所だった。連日のように直属の上司から能力を超える仕事を与えられ、長時間労働が常態化。公衆の面前で叱責されても、直ぐ横にいる部長に見て見ぬ振りをされる等、精神的にも肉体的にも追い込まれ、休職を余儀なくされたのだ。驚く勿れ、会社側は治療期間中であるにも拘わらず、休職期間満了後、男性を解雇する。抗議も受け入れられず、最終的には労働基準監督署に駆け込むしかなかったのだという。

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この男性は、職場についてこう語る。「研究職というイメージからはかけ離れて、精神論ばかりが飛び交う体育会系の空気だった」。冒頭の隆さんも似たような状況に置かれていたのだろう。最大の問題は、仮に仕事に行き詰まったとしても、自殺や病気にまで追い込まれる前に手を差し伸べるシステムが、実質的に機能していないことだ。この元社員によれば、「社内の相談窓口は匿名性が確保できているとは思えず、相談できなかった」という。一般に、企業内の不正や労働問題を告発する社内窓口には、外部の弁護士等を置いて、通報した社員の名前を秘すよう配慮している企業も多い。所謂“大企業”と呼ばれる会社でこの流れが加速しているが、三菱電機ではそうした制度も確立されていないようだ。この元社員の男性もまた、隆さんと同様に大学院を出て、三菱電機の門を叩いた。研修後に本人が希望した鎌倉の情報総研の半導体レーザー開発部署に配属されたものの、僅か1年後の4月には適応障害を発症してしまった。「有為な若者を潰していたら、将来に禍根を残す。その昔、研究職採用の若手は会社の宝として、特に大事に育てられたのに」。三菱電機関係者は指摘する。新人を追い詰める体質が蔓延しているのであれば、三菱電機は研究・開発という屋台骨から揺らぎかねない。隆さんのケースでは、電通の新入社員の自殺事件のような過度な残業があったかは、今後、調査が必要ではあるが、仕事で追い詰められた蓋然性が強いことは明白で、電通の新入社員のケースと同じように、無念の自死を迫られることになったのは間違いない。三菱電機は1921年、『三菱造船』(※現在の『三菱重工業』)から分離独立する形で設立された老舗企業である。柵山正樹社長はホームページで、「2020年度に創立100周年を迎える私たち三菱電機グループは“グローバル環境先進企業”として時代の要求に応えられる企業集団を目指す」と宣言。「倫理・遵法など企業としての社会的責任(CSR)を常に念頭に置きつつ【中略】、“社会”・“顧客”・“株主”・“従業員”すべてから信頼と満足を得られるよう、しっかりと取り組んでまいります」と誓う。隆さんの自死は、この会社が封印する社員の悲痛なまでの叫びの極みではないのか。トップが掲げる理想と現実の溝は、あまりに深い。


キャプチャ  2017年5月号掲載

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