【トランプ大統領100日】(02) 議会操る大富豪

20170517 06
ドナルド・トランプのアメリカ大統領就任100日を目前にした先月26日、袋小路に入りかけていた2つの目玉経済政策が突然、動き出した。この日、財務長官のスティーブン・ムニューシン(54)らは、連邦法人税率を35%から15%に下げる大減税案を打ち出した。もう1つは、3月末に下院採決を断念した『医療保険制度改革法(オバマケア)』見直し法案。反対してきた共和党の保守強硬派『フリーダムコーカス(自由議連)』が、「完全ではないが支持する」と一転、賛意を表明した。2つの動きは偶然ではない。裏にあるのは、輸出を免税して輸入は課税強化する仕組みの“法人税の国境調整”を巡る暗闘だ。共和党下院指導部の税制改革案の柱だったが、トランプはばっさり削り落とした。この国境調整案に手厳しく反対してきたのが、自由議連のスポンサーとされる資産家のコーク兄弟だ。

アメリカのエネルギー複合企業『コークインダストリーズ』を経営するチャールズ(81)とデビッド(77)の兄弟は、共和党の巨額献金者。アメリカの経済誌によると、資産総額は共に483億ドル(約5.5兆円)で、世界長者番付8位。544位のトランプを遥かに引き離す大富豪だ。「税制改革案は大きく飛躍した」。コーク兄弟が資金を拠出する政治団体は、すかさずトランプ税制を讃える声明を出した。国境調整が導入されれば、輸入原油が大きく値上がりし、石油精製業には打撃となる。コーク兄弟は自由経済を重んじるリバタリアンで、オバマケアの完全撤廃を求める。アメリカのメディアによれば、兄弟の関連財団は、撤廃に向け動く議員に、「次回選挙で巨額の資金を出す」と持ちかけていた。「リバタリアンの富裕層ネットワークは、来年の連邦議会選挙までに数億ドルの資金を投じる用意がある」とされ、議会を操る力は甚大だ。今月4日に下院を通過したオバマケア代替法案は、緊縮財政派と弱者保護派が妥協を重ね、制度が極めて複雑になった。トランプを支持した白人労働者も含めて、無保険者が増える可能性があり、社会的な混乱も避けられない。上院は早くも法案修正に動き、トランプは「我々の医療保険制度は素晴らしい!」と誇るが、実現は未だ見通せない。市場は、昨秋の選挙でホワイトハウスと上下両院を共和党が独占したのを好感した。だが、“決められない政治”が続けば、その期待は萎む。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年5月10日付掲載⦿
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