【Deep Insight】(14) “対トランプ”日中の分水嶺

アメリカのドナルド・トランプ大統領の就任から3ヵ月。アメリカからみて1位・2位の貿易赤字国である中国・日本との2国間での経済外交が、ほぼ同時並行で動き出した。“対トランプ”で時間軸も戦略も好対照をなす日中のアプローチは、世界経済の新たな秩序を占う分水嶺となる。今月18日、東京で約1時間の日米経済対話を終えた麻生太郎副総理とマイク・ペンス副大統領は、“日米関係の新たな1ページ”という言葉で一致感を演出した。だが、その中身には微妙な隔たりがあった。経済対話を受けた共同発表文には、従来の説明から微妙な変更が加わった。“経済・構造政策”に続く2本目の柱だった“貿易・投資のルール”が、アメリカの強い要望で筆頭の柱に昇格。“ルール”は“ルール/課題(issue)”と改められた。アメリカ側は“障壁”を使おうとしたが、より曖昧な“課題”で落ち着いたという。今年2月の日米首脳会談で、政権ナンバー2が率いる幅広い対話の枠組みを設け、2国間の貿易問題から焦点を分散させたのは日本側の知恵だった。アメリカ通商代表部(USTR)代表に内定したロバート・ライトハイザー氏の議会承認が遅れる等、政府内の体制も不十分なアメリカ側だが、押さえるべきところは押さえた。「将来は2国間の貿易交渉になるかもしれない」とペンス副大統領は指摘した。今後、貿易ルールの協議は、ヨーロッパ・日本・中国を名指しして「自由貿易を唱えながら実際には保護主義をやっている」と明言したウィルバー・ロス商務長官らが担っていくことになる。『環太平洋経済連携協定(TPP)』からの離脱を通告したトランプ政権は、2国間での貿易不均衡の是正を求める。農業分野等で、一度はアメリカを含む12ヵ国で合意したTPPの内容を上回る市場開放も求めてくる可能性がある。日本が残り11ヵ国でTPP協定を発効させる道を探る際には、アメリカと他のTPP参加国の板挟みも覚悟しなければならない。2018年秋の米中間選挙まで1年半、アメリカが通商分野での結果を求めてくるのは確実だろう。アメリカの貿易赤字の5割近くを占める中国は、敢えて“2国間”のアプローチでアメリカ側との歩み寄りを狙っている。安倍晋三首相の訪問から2ヵ月遅れた今月7日、トランプ大統領の別荘で会談した大統領と習近平国家主席は、“100日計画”の策定に合意した。短期で具体的な成果を前面に出す意図がある。

100日とは何を意味するか? 1つの説は、3ヵ月後の7月上旬にドイツのハンブルクで開く20ヵ国・地域の首脳会議(G20サミット)だ。米中の首脳が顔を揃える国際会議に照準を合わせ、駆け引きを繰り広げるだろう。米中双方の説明は食い違う。アメリカ側は100日計画を「2国間の不均衡是正の枠組みだ」と指摘する。中国側は直接会談から5日後、漸く“経済協力に向けた100日計画”の存在を認めた。外交&安全保障・包括経済問題・法の執行とサイバー・社会&文化の4分野で協議するというのが、中国側の説明だ。核となるのは経済協議だ。『SMBC日興証券』シニアエコノミストの肖敏捷氏は、「今年1月17日に中国が発表した市場開放策が1つの候補になる」とみている。サービス業、特に金融関連の外資参入規制を緩め、政府調達入札に外資企業の公平な参加を促すこと等が柱だ。アメリカ政府は、自国産牛肉の禁輸解除も中国に求めている。既存方針となっているサービス分野、そして中国の食生活の向上で需要が増す牛肉の輸入拡大等、幾つか“成果”を示せる持ち駒がある。半導体・自動車等の摩擦や相次ぐ日米包括協議で市場開放の実績を既に積み上げた日本としては、自由化の出遅れている中国と同列に扱われたくないのが本音だろう。だが、1980年代の日米摩擦の発想を拭えないトランプ大統領・議会関係者・関連業界が、中国に比べた日本の対応の鈍さを指摘してくる可能性は十分にある。この地合いの中で、日本はどんな道を進んだらいいのか? 先ず、2国間の枠組みで尚も相当な改善策を取る余地がある中国と同じ議論の土俵に乗らないこと。アメリカからみれば、日本やドイツといった同盟国のほうが、非同盟国で計算のできない中国よりも逆に厳しく物を言い易い。非常に重い事実は、最近の北朝鮮情勢の緊迫と相俟って、中国が安全保障と通商問題でアメリカとの“取引”をしている点だ。日本にとって、この選択肢は禁じ手だろう。2番目に大切なのは、アメリカとの対話と並行して、他の地域と多国間協力の枠組みを整え、アメリカに対する交渉力を高めることだ。日本と『ヨーロッパ連合(EU)』の間で一致がずるずる遅れている『経済連携協定(EPA)』の大枠合意は、その有力なカードになり得る。個別品目の関税でも、貿易や投資のルールの面でも、アメリカにとって2国間主義が必ずしも有利にならないという“状況証拠”を示すのも得策だ。低支持率に喘ぐトランプ政権が、通商分野で一段と具体的な成果を求めてくる展開は十分に予想される。日米経済対話をその舞台装置として使おうとする誘惑も、徐々に高まってくる筈だ。日本の立ち位置が問われる。アメリカに是々非々の姿勢を取り、これまで積み上げた自由貿易の秩序を維持するか。それとも日米2国間の駆け引きに呑み込まれ、悪しき譲歩の例を残すか――。日本の選択が世界に齎す影響は重い。 (本社コメンテーター 菅野幹雄)


⦿日本経済新聞 2017年4月21日付掲載⦿
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